第3話 情事

 正敏は明子の顔を正面からまじまじと見た。美人ではない。一重瞼の目、高いほう骨、ニキビの残った頬、薄い唇。小動物を思わせる顔立ちである。正敏は、嫌いではないと思う。


 明子は化粧気のない、中性的な顔を正敏に近づけて言った。「四谷君、わたしのこと、どう思う?」


「どうって、親切な先輩ですよ」と正敏。


「そういうことじゃないのよ」と明子は立ち上がって正敏の横に座った。「せっかく来てくれたんだから、押し倒してくれてもいいのよ」と、ひきつるように笑った。


 正敏はおもむろに明子の顔を手のひらで撫でた。明子は媚びを売るような笑顔を正敏に向けた。




 事が終わって、正敏はベッドの縁に座った。明子が後ろから正敏の肩に手をかけた。


「今更だけど、四谷君ってどんな女性が好みなの?」と明子。


「優しくて、いつでもやらせてくれる女の人」と正敏。


「四谷君って、そんなふうに女性を見てるんだ」と明子。「セックスだけが恋愛じゃないわよ。」


「ぼくは恋愛ごっこなんてしません。ぼくにとってやらせてくれる女の人が必要で大切なんです」と正敏。


「わたしのことは?」と明子。「大好きですよ」と正敏。


「うれしいわ」と明子はにっこりと笑った。

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