第41話 三人でお出かけその3
「で、これからどうするんだ? 予定よりだいぶ早いけど」
「春風がせっかちだからこんなことになったんでしょ? だからさ、せ・き・に・ん・とってよね♡」
「……おい、責任転嫁するなよ。半分は陽咲のせいでもあるんだぞ」
「ん~そうだったかも。――ねぇ真白ちゃん、役所ってもう開いてるよね?」
「はい? ええっと、普段なら開いてますけど……祝日はお休みだったはずです」
「チッ」
「お前いまなんで舌打ちした!?」
「えっ、だって春風が責任とれっていうから、役所に婚姻届を出しに行くつもりだったのに」
「誰もそこまでの責任を求めてねーからな!?」
「チッ」
なぜか不機嫌気味に舌打ちをする陽咲に、苦笑いを向けるしかない俺。正面にいたシロにいたっては「あはは……」と乾いた声をあげる始末。
大方コイツのノリについてけないからだろう。ま、正直なとこ俺もギリギリ並走できてるかってとこだが。
そもそも責任の取り方が極端すぎるというか。ノリで結婚させでもしたら陽咲の両親に申し訳がなさすぎるっての。
陽キャ美人の陽咲と陰キャ非童貞の俺では、マリアナ海溝よりも深い身分の差があるのだから。ちょっとは自覚してほしいものだ。
呆れ混じりにため息をつくこっちをよそに、すっかり切り替えたらしい陽咲が、ニコニコ顔でのろしをあげてきた。
「ま、結婚はひとまず横に置いといて……このままここでじっとしてるのもあれだし。二人とも、れっつらご~♡」
「「おぉ~……」」
陽咲の合図に応えるように軽く腕を上げる俺たち。そろって書店を出ると、手の甲に軽い痛みが走った。
みると隣にいた陽咲がなにやら手の甲をぶつけてきてるようで。
「(じー……)」
「ん、どした?」
「(じぃ~……)」
なんだろう、無言(?)の圧力を感じるんだが。目を細め、こちらをじっと見つめてくるんだが。
小首をかしげてやれば、さらに手の甲をペチペチぶつけてくる。なにかを訴えてるんだろう。
陽咲との付き合いはまだ短いが、これがからかい目的じゃないってことだけはわかる。目も口元も笑ってないしな。
つまりは、ほかの意図があるってわけで。
女友達の意図を汲むべく考え込む。と、脳内時間で三分ぐらいだろうか?
なんとなく察しがついた俺は、彼女の手のひらをギュッと握ってやった。
「んもう、判断がおそ~~い。あとちょっとで手凍っちゃうとこだったじゃん」
「いやいやっ、今日は暖かい方だろうが。な、シロ」
陽咲の悪ノリに付き合いつつも、同意を求めるべく親友に声をかける。
だが件の親友は驚いたように目を丸くしていて。画面外なのにフリーズしてるなとか考えてたら、彼女の口がとつとつと言葉を紡いできた。
「……二人はその、友達、なんだよね……?」
「そーだよ♡ てかさ、友達同士で手を繋ぐくらい普通のことだよね?」
「だ、そうだ」
我が女友達による持論に併せてうなずいてやると、シロがちょっぴり複雑そうな表情を浮かべてみせた。
きっと仲間外れにされてるのが不服なんだろう。
そんな風に考えた俺は、空いた方の手を彼女に差し出してやった。
「ほら、シロも一緒に繋ごうぜ?」
「っ、うんっ!」
俺の言葉に一転、ぱぁっと華やかに笑った親友が、飛びつくように手を握ってくる。久しぶりに繋いだ彼女の手のひらは小さくて、やっぱり女の子なんだなと嫌でも自覚させられてしまう。
その事実に内心でドキドキしてると、陽咲の方から強い視線を感じる。振り返るとなんか頬っぺたをぷくーっと膨らませてるんだが。
「なんだよその顔は」
「べっつにー? ただ、両手に花だなと思ってさ」
「っ!?」
たしかにこの光景はどうみてもそうだ。右も左も美少女という状況、誰がみても一家団欒とは程遠い構図であり、
「っ」
意識した瞬間、心臓が強いビートを刻み始めて。ドキドキが血流に乗って、全身を駆け巡っていく。
ひとまず落ち着け俺っ! 呼吸と脈拍を安定させろ。
と、そんなこっちの事情など知ってか知らずか。陽咲が握っていた手に指を絡ませてくる。それはいわずもがな――恋人つなぎというやつで。
「ちょ、おまっ……!? これ以上は」
「凍りそうだって言ってんじゃん。だから、より密着するのは当然でしょ?」
至近距離で得意げな顔をされて、陽咲のノリに圧されて、二の句が継げなくなる。
そんな俺の反応を肯定だと受け取ったらしく、より強く手のひらを握られた。
ものすごく熱く感じるのはきっと、俺のなかでくすぶる熱のせいだろうな。
クラスカーストトップの女友達は、俺にだけめちゃくちゃノリがいい のりたま @kirihasan
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