第39話 三人でお出かけその1
翌朝になり、シロとの約束の日を迎えた。
窓の外に目をやれば澄み渡るような青空が広がっており、本日も絶好のお出かけ日和といえるだろう。
ちなみに昨日、陽咲にも約束の件を伝えたら――、
『――真白ちゃんから遊びの誘い!? もちろん行くに決まってんじゃん♡』
マーキングされた顔をウェットティッシュで拭いながらも、喜びを爆発させてたな。
友達になったとはいえ、お互いにまだ直接会ったことはなかったし。そろそろ交流を深めたいとか考えてたんだろう。
『そっか。んじゃ、シロに「陽咲も大丈夫」ってメッセージを送っとくわ』
『おねが~い♡ よーし、そうと決まればばっちりオシャレ決めなきゃな~♡』
『……今回はデートじゃないんだし、ラフな格好でいいと思うぞ?』
『春風はわかってないなぁ~♡ 女が二人集まったら、水面下でオシャレバトルのゴングが鳴ってるんだぞ~?』
『そういうもんか? シロに限ってそんなこともないだろうけど』
『……春風ってほんっとニブチンチンだよね~』
『またそれかよ。つーか、結局なんなん――って、やっぱそういうことなのか!?』
『んーん、これは言葉の綾っていうか……ここが蚊帳の外になってたから。汚れたままだと不衛生だし、あたしがお掃除したげるね♡』
『それは助かるな。……あのさ、口でしてもらっても』
『もちろんそのつもりだから♡ あーむっ♡』
……そのあと、陽咲に時間をかけてお掃除してもらってたら、がっつり反応してしまい。
なかの汚れも併せて、きれいきれいしてもらったんだっけな。
「いやぁ、マジで最高だった……じゃなくて。そろそろ家を出とかないとな」
二人との意見をすり合わせた結果、待ち合わせの時間は午前十時ということに決まったのだが。
陽咲のことだからまた一時間前に待ってそうなのだ。前回の反省(?)を踏まえて俺も早めに出ることにする。
スマホで時間が午前八時五十分であることを確認。財布を持ち、自室を出て、玄関ドアを開けたところで――、
「――あっ! はろはろっ、カナ!」
「えっ、シロ!?」
予想だにしてなかった光景に、ご近所迷惑上等とばかりの大きな声をあげてしまった。
なんせ親友のやつが玄関先にいたんだもの。画面越しじゃないのがなんか新鮮だな――じゃなくて、
「お前なんでいるんだ? まだ約束まで一時間以上もあるってのに」
「カナと待ち合わせ場所まで一緒に行きたくてねっ、こうして来ちゃったっ!」
「来ちゃったって……ちなみにいまだよな、来たの」
「っ、じつは三十分前から居ました……」
「マジか……」
シロのカミングアウトに開いた口が塞がらない。なんで俺の知り合いはどいつもこいつも早めに来たがるんだ。これじゃなんのために時間を設定してんのかわかんなくなるだろ。
今度会うときは二時間前コースかな、とげんなりしてると、諸悪の根源である親友が頬っぺたをほんのり赤らめながら、
「ご、ごめんね? こうしてカナと会うの久しぶりだから……いてもたってもいられなくなっちゃって……」
「っ、そっか。なら仕方ないよな」
俺にもシロの気持ちは痛いほどよくわかる。欲しいゲームの発売日ともなれば、早くプレイしたい欲が勝って、店が開く数時間前から並ぶこととかあるもの。
いまのはちょっとした例えだが、意味合いとしてはきっと同じはず。
などと俺は勝手に納得しつつ、改めてシロに視線を向けてみる。すると口から自然と言葉がこぼれた。
「にしてもシロってば、すげー変わったよな」
「え? そう、かな?」
「あぁ、高校に入ってからグッと女の子らしくなったというかさ。その、すごく可愛くなった」
「っ!」
俺の発言に顔を真っ赤に色づかせるシロ。言われて恥ずかしかったのか、すぐに顔をそらされてしまった。
でも、今のは建前じゃなくて俺の偽らざる本音だ。
昔のシロ(中学の時まで)はどちらかというと男っぽいなりをしていて、女子と話してるというよりかは、可愛い男子と話してるような感覚だった。
だから緊張とかはまったくなかったし、スキンシップをとるなんてのもざらで。
居心地のいい間柄、親友になるのにそう時間はかからなかったっけ。
けど、いま目の前にいる雨海真白は、紛れもない女の子で。
アッシュグレーの色合いをした髪にはツヤが増してるし、中性的な顔立ちにはメイクのせいか、可愛らしさのなかに色気のようなものが感じられるし。
昔は穿かなかったスカートを穿いてるし、ペタンコだったはずの胸元は緩やかながらも丘が築かれてて。
親友相手に、ちょっと……いやかなりドキドキしてしまってる。いけないことだってのに、そういう目で見てしまう自分がいる。
罪悪感で押しつぶされそうになってるなか、シロがぽつりぽつりとつぶやき始めた。
「あのね……学校の友達にね、女の子らしくなる方法を学んでるんだ。オシャレに、メイクに、日々学ぶことばっかりだけどねっ」
「そ、そっか。シロも頑張ってるんだな」
「ふふっ、頑張りたい理由があるからねっ!」
顔を赤らめながらも、シロが俺に微笑みかけてくる。マジで陽咲のいう通り、オシャレバトルに備えてたとはな。
見違えるほどの変化を遂げた親友を見て、いままでの認識を改めた方がいいのかもな、と俺はしみじみ思うのだった。
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