第37話 女友達による成分摂取
「――たっだいま~♡」
「おう、おかえり早かったな――って、うおっ……!?」
自室でゲームをしていると、ナチュラルにあがりこんできた陽咲に、いきなり抱きつかれた。
背中越しにむにゅううっと押しつけられる豊かな胸の感触。その甘美な不意打ちは、持っていたコントローラーを落っことすのに充分すぎるほどで。
画面内で操作キャラがボコボコにされてる現実から目をそらしつつ、チラと陽咲の方を振り返った。
「どした? 俺がいなくて寂しかったのか?」
「せいか~~い♡」
「素直だなおいっ。まぁ、その方が可愛げがあっていいけどさ」
「……ふぅ~ん? 普段のあたしは可愛げがないっての?」
「っ、いやいやっ! そんなことはないぞ!?」
「じゃあ言って? 『陽咲亜澄ちゃんはノリがよくて、ユーモアにあふれてて、とっても優しくて、笑顔が素敵で、胸が大きくて、お尻も大きくて、お願いすればえっちもさせてくれる最高の女友達です』って♡」
「っ……ひ、陽咲亜澄ちゃんはノリがよくて、ユーモアにあふれてて、とっても優しくて、笑顔が素敵で、胸が大きくて、お尻も大きくて、お願いすればえっちもさせてくれる最高の女友達です……っ!」
「あたし、胸とお尻が大きいの気にしてるんだけど。いまのは普通にセクハラだぞ~?」
「――お前が言わせたんだろーが!!」
俺のツッコミに満足したような表情で笑う女友達。なんだかコイツの思い通りに使われたような気がしてならないんだが。
恥じらいを払拭するようにクソデカため息を吐くと、陽咲はなおも抱きついたまま、ぽつりぽつりとこぼした。
「……でもま、寂しかったのはほんとだから。な・の・で、これから春風成分を摂取したいと思いま~す♡」
「なんだよ俺の成分って」
「えーっとね……水35リットル・炭素20キログラム・アンモニア――」
「――いやそれ錬成する時のやつ! 言っとくけど俺はちゃんと母親から生まれてきてるからな!?」
「あははっ、分かってるってば~♡ この、春風成分にはまだ続きがあるの」
一度言葉を区切った陽咲が、小さく息をのむ音が聞こえる。
服越しに伝わってくる彼女の心音が速いような気がして、こっちもちょっとだけ身構えてしまう。
カチカチと時計の針が音を刻むなか、覚悟を決めた様子で陽咲が口を開いた。
「……春風成分は優しさが五十パーセント・男らしさが五十パーセント・カッコよさが五十パーセント・ニブチンチンさが百パーセントで構成されてるの」
「普通にオーバーしてるんだが……てか最後の造語はなんだよ、卑猥だしメーターマックスだし」
「こーら、話の腰を折るな♡ でね、春風成分を摂取するとあたしはいつでも元気でいられるし、たくさん笑っていられるし、毎日を幸せに過ごせるようになるの」
「そんなの、俺だってそうだぞ? 陽咲が隣でいつも楽しませてくれて、どんなことでも受け止めてくれるからさ、マジで幸せっていうか……だから、これからもずっと友達でいような!」
「……春風ってほんっと昔から変わらないよね。良くも悪くもさ……」
なにやらブツブツ言いながらも、陽咲に強く抱きしめられる。彼女の温もりと柔らかさが痛いほどに伝わってきて、俺の心もぽかぽかしてきた。
息子はもうこれ以上ないほどポッカポカだけどな。背伸びし過ぎてちょっと痛いぐらいだ。
こりゃ後ろにいる美人の女友達に一発抜いてもらわなきゃな、と息子からの指令を脳みそで受け取っていると。
俺の肩越しに顔を埋めてた陽咲が、小さくつぶやいた。
「……春風から、ほかの女の匂いがする……」
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