第33話 ある日 道の途中 美少女(ナンパされてる)に出会った
陽咲が家に帰ったあと、スマホを手に取った俺は、シロにビデオ通話をかけた。
親友にはどうしても、昨日のことを伝えておかなきゃな、と思ったからだ。
『はろはろ~、カナっ』
突然のアクションだったにもかかわらず、画面に出た彼女は嫌な反応ひとつ見せずに、俺の話に耳を傾けてくれた。
昨日あったことをかいつまんで(さすがに流れでキスやえっちしたなんて言えないからな)話すと、シロの顔が曇ったり、歪んだりしていたが、最終的にはホッとしたように息を吐いていて。
『……そっか、亜澄さんに全部話したんだねっ……』
「まぁな。それで陽咲には受け止めてもらったというか、背中を押してもらった感じだな」
俺が笑みを浮かべると、つられてシロも笑ってくれた。心なしか晴れやかな表情の気もする。
ずっと抱えていたトラウマに身近で一番触れて、支えるために寄り添ってくれてたからな。もしかすると俺以上に安堵してるのかもしれない。
そんな彼女にはほんと、感謝してもしきれないな。
「そうだ! なぁシロ、いまから遊びに行かないか!? これまで心配かけた分のさ、お礼をさせてほしいんだ」
『お礼だなんてそんなのいいよっ! ボクがカナを助けたかっただけなんだからっ! あ、遊びには行きたいけど……このあと友達との約束が入っちゃってて』
「そ、そっか……」
『え、えっと! よかったら一緒にくる?』
「そういうわけにもいかないだろ」
友達同士の付き合いにぜんぜん知らんやつが混ざってきたら、場のテンションだだ下がりになること間違いなし。
陽咲レベルの陽キャならなんとかなりそうだが、俺はそこまで陽キャレベルが高くない。ここは素直に引くことにしよう。
うんうんうなずく俺を申し訳なさそうな顔でシロが見てくるが、身振り手振りを交えて気にしてないとアピールしてやる。
だが、視線の圧(?)はいっこうに止まなくて。
「なんだ? べつに気にしなくていいんだぞ?」
『……カナ、もう少しだけカメラ寄せてもらってもいい? 首元の辺りに』
「うん? いいけど」
言われるがままスマホを近づけてやる。画面越しに息をのむ音が聞こえてきた。
『もういいよ』
「そうか? で、なんか気づいたことでもあったのか?」
『……カナと亜澄さんってさ、ほんとに
「そりゃもちろん。なんだかんだ俺のことを考えてくれる最高の友達だぞ!」
『……カナの方はそう思ってるかもしれないけど……こんなの絶対……っ』
「ごめん、今なんて言ったんだ?」
『な、なんでもないよっ! あっ、ボクそろそろ準備しなきゃ!? それじゃねっ』
「ん、あぁ……」
時間が差し迫ってでもいたのか、シロが慌てた様子で通話を切ってしまった。暗くなった画面を眺めながら、強く思う。
自分の準備もあったのに俺のために時間を割いてくれて、誰よりも俺の身を案じてくれる――シロもまた最高の親友だと。
だからこそ、隠し事があるって事実の罪悪感がすごい。仮にぶっちゃけてもシロなら受け入れて……はさすがにないか。
「友達同士でナニやってるの!」とブチギレられてからの「カナったら不潔だよっ」絶交エンドとかありえる。
うーん、これはバレないようにした方がいいのかもなぁ……。
ひとり結論を出したところで、ベッドに背中を預ける。
無機質な天井をじっと眺めてたら、ため息が漏れた。
「はぁ……これからどうするかな」
端的に言ってヒマなのだ。
陽咲はこのあと、クラスの陽キャたちとの集まりがあるらしいし、シロも今しがた友達との約束があると聞いたばかり。
こうなると陰キャぼっちであることが悔やまれるな。
「ゲーム、漫画……それとも陽咲の裸を思い出しながら手で……いやいやっ! こんなんじゃダメだ!」
せっかくのゴールデンウィークだってのに、部屋でゴロゴロしてるのはなんかもったいなく感じる。
それに、陽咲のおかげでだいぶ前を向けるようになったのだ。もうちょっと、こう……殻を破る的な行動をとった方がいいかもしれん。
さっきも遠慮すんなって怒られたばっかだしな。
「俺も出かけよう。とりあえず外に出て、見聞を広げてみるか」
そうと決まれば善は急げというやつで。
ぱぱっと身支度を済ませ、俺は自宅を出た。
晴れやかな空の下、ぽかぽかとした日差しが心地いい。日向ぼっこには絶好のタイミングだといえるだろう。
道端に生える草花を愛でつつ、歩を進めていく。
さすがに陽キャ率の高い駅前には行かず、老若男女でにぎわいを見せるショッピングモールの方へと向かうことに。
「あそこなら金を使わなくても楽しめるとこがいっぱいだしな……ん?」
ふと、視界に入った光景に、俺は小首をかしげた。
視線の先でひとりの美少女を囲うような形で、男たちがいる。ソイツらは楽しげにおしゃべりしてるようだったが、件の美少女の方は真顔――どころかうっとおしそうな顔をしていて。
「またナンパかよ……」
思わずクソデカため息を吐く俺。
見てるこっちがうんざりするんだが。ナンパ男率高すぎるだろこの街。いっちょまえに季節先取りしてんじゃねーよ。
陽咲のときはスマホでやり取りできたが、ナンパされてる子の連絡先とか知らないので同じ手は使えない。はてさて、どうしたもんかな……。
「そういやあの姿、どっかで見たことあるような……。たしか、学校で名前をよく耳にする……――そうだ! 思い出した!」
見覚えのあるシルエットから、男子たちが名前を口にしてたことを思い出し、どうにか脳内で解を導き出すことができた。
そうと決まればあとは度胸だけ。
「っ、よし! 行くぞ」
俺は覚悟を決めて、ナンパ集団に突っこんでいった。
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