第32話 女友達との甘美な朝その2


 「ほらほらぁ、ここ座って座って~♡」


 陽咲の用意してくれた着替えに袖を通し、リビングにやってくると、椅子に腰かけさせられた。

 目の前には美味そうな朝食が並んでいる。白米に焼き魚、みそ汁に付け合わせのサラダ。

 マジで理想の朝食といえるだろう、ずっとこういうのが食べたかったんだよな。


 「あははっ、春風ったらすっごいおなかの音してる~♡」

 「まぁな。昨日の夜からなんも食べてなかったし」

 「そっかそっか♡ (ま、あたしはさっき朝食済ませちゃったけど……♡)」

 「っ」


 耳元に熱のこもった吐息をぶつけられ、心臓が大きく跳ねる。脳内にさっきの光景がよみがえり、あやうく下腹部が反応するかと思った。

 そんな俺の様子に、小悪魔みたいな笑みを浮かべて、陽咲が詰め寄ってくる。


 「春風ったら顔真っ赤だよ? あたしはただ『朝食を済ませた』って言っただけなのにどうしてなのかなぁ~♡」

 「っ、お前わかってて聞いてるだろ」

 「せいか~~い♡」

 

 両手でハートマークを作りながら、満面の笑みを向けてくる陽咲。いまからでもわからせてやりたいが、腹が減っては戦はできんともいうしな。

 というわけで、女友達特製の朝食をとって、今後の戦いに備えることにする。


 「いただきます。んっ……やっぱ陽咲の飯、美味いな」

 「ありがと♡ そーいう春風のも美味しかったぞ~♡ けっこー癖はあったけど」

 「――ぶふっ!? いいんだよ俺のやつの感想は言わなくても! そもそもなんであんなことしたんだ!?」 

 「なんで、っておっきくなってたから。寝ながら興奮してたんでしょ?」

 「それは生理現象だっつーの! 男はみんなあぁなるもんなんだ」

 「ふぅ~ん……あたしもしかして余計なことしちゃった?」

 「いや、それはない」


 俺は彼女の目を見据えてきっぱりと否定してやった。

 男のして欲しいことリストのなかには必ずあるもんだろうし、俺も正直してもらってめちゃくちゃ嬉しい。

 それも美人の女友達が相手ときたもんだ。土下座してでもお願いすることはあっても、足蹴にするようなことは絶対ない。


 「そっかそっか♡ そもそもさ、あんたの持ってるエロ本のなかに必ずといっていいほど出てくるもんね~?」

 「おい、なんで知ってる? お前に渡したやつにはそこまで……まさか!」

 「そのとーり! こっそり全部読破しちゃった♡」


 舌なめずりしながらカミングアウトしてくる女友達を前に、身体の力が抜けた。持ってた箸を落っことしてしまったが、もはやそれどころじゃない。

 全部ってことは机のなかにあるやつだけじゃなくて、クローゼットのなかに隠してるやつもってことだよな? 

 今朝、着替えを用意してもらってたから、気づいた可能性は充分にある。

 

 「最悪だ……普通に死ねる。いっそ誰か殺して」

 「そんな落ち込むようなバレでもなくない? あたし、お願いされたら普通にやったげるけど」

 「……マジで?」

 「うん♡ てかさ、遠慮すんなって言ったよね? ……これ、もっかい搾り取ってわからせなきゃいけない感じ?」

 

 目の前で笑みを浮かべたまま凄まれ、背筋を冷や汗が伝っていく。

 おかしいだろこれ、普通逆だろ。なんでエロいお願いしないようにしてた俺が責められてんだ。 

 あまりにもノリノリすぎる女友達にどんな感情を向ければいいかわからないでいると、目の前でクソデカため息を吐かれた。


 「……春風のヘタレ、皮被り……」

 「なんで罵倒されてんの!? あとそれ地味に傷つくやつ!!」

 「まぁ、無理矢理するのもよくないし、今回はこれで許したげる♡」


 呆れつつも笑った陽咲が、「ちゅっ」と唇にキスを落としてくる。柔らかくて温かな感触にドキドキするなか、彼女は可愛いものでも見たような顔をして、


 「あははっ、春風ってばこんなとこにご飯粒つけてるし♡ ちゅっ♡」

 「ん? あぁ、すまん……」

 「あ~、こんなとこにもつけてる♡ あとここにも♡ ちゅ、ちゅっ♡」

 「いやいやっ、そんなとこにつくわけないよな!?」

 

 気づけば頬っぺたやら瞼やら耳元やらにキスを落とされまくってるんだが。でもま、悪い気はしないからいいか。

 女友達のリップ音を小鳥のさえずり代わりに堪能してると、しばらくして温もりが消えた。

 いったいどうしたと振り返れば、陽咲がキッチンに駆けてってるのが見えた。

 と、戻ってきた彼女が両手を差しだしてくる。


 「はいお待たせ~♡ 箸洗ってきたよ♡」

 「おっ、ありがとな。これで飯が食べられる――ってまたかよ」

 「ちゅ~っ♡♡」


 今度は首筋にキスを落としてくる陽咲。しっかりと唇を触れさせて、柔らかさと熱をもたらしてくる。

 ……にしても長いな、蚊のモノマネでもしてんのかよ。


 「ん、ぱっ♡ これでよし、と……」

 「なぁ、そろそろ食べても?」

 「もちろんいいよ♡ ――あ、デザートも用意できるからさ、欲しかったら言ってね♡」

 「マジか!? お前デザートまで作れんのかよ! ……ちなみにどんなやつか聞いてもいいか?」

 「うん、それはね~♡」


 陽咲がニコニコと屈託のない笑みを浮かべて、俺の耳元に顔を寄せてきたかと思うと、


 「(あ・た・し♡)」

 「っ!?」

 「(食後のデザートとしてたっくさん味わってくれても、いいんだからね……♡♡)」


 美人の女友達にそんな誘惑をされて、我慢できるはずもない。

 俺はテキパキと食事を済ませると、陽咲をリビングのソファに押し倒し――、


 「……いいよ♡ きて?」


 時間の許す限り、女友達との肉欲に溺れるのだった……。

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