第27話 女友達による心のケア


 「っ」


 ヤバい、心臓の音がうるさい。陽咲の魅力を全身で浴びてるせいで、脈を打つ速度がハンパじゃないんだが。

 腕を組んでる陽咲にも、聞こえてしまいそうな跳ね具合だ。

 そのことをツッコまれたくなくて、俺はわざと大きな声を張り上げた。


 「んじゃそろそろ! 移動しようぜ!」

 「あ~♡ なんか声が裏返ってる♡ あやし~~い♡ あたしに隠し事でもしてるのかなぁ~?」

 「っ、いやお前っ、周り見てみろよ。どんだけ注目浴びてると思ってんだ」


 苦し紛れに出た言葉だったが、結果的には功を奏した。

 なんせ本当に俺たちは目立っていたんだからな。特に俺の方は悪目立ちという形で、さっきのナンパ男たちから殺気を向けられる始末。

 これ、歩いてる最中に刺されたりしないよな……。


 「あ、ほんとだ♡ すっごく目立ってるじゃん」

 「だ、だろ? これ以上ここにいると……針のむしろに座らされたままというか」

 「ん~、たしかに穴だらけになったら困るかも♡」


 俺の言葉に納得したようにうなずく陽咲。その様子にホッと息をつきつつ、視線を横へと向ける。

 相変わらず腕は組まれたままだ。本人にその気があるのかないのか知らんが、豊かな胸がずっと押しあてられてるし。

 肩をすっぽり出してる服装のせいか、陽咲の色白なデコルテ部分やら、その下に覗く深い谷間やらが丸見えとなっており、こちらの理性をゴリゴリ削ってくる。

 たまらず下腹部が反応しそうになったので、それとなく注意を促すことに。


 「あのさ……そろそろ腕を解放してくれないか? 注目浴びてるって言っただろ」

 「や~~だ♡」

 「おいっ、なんでだよ!」

 「デートなんだから腕を組むぐらい普通でしょ~?」


 小悪魔のような笑みを浮かべながら、むぎゅっとさらに胸を押しつけてくる。

 これは、間違いなくわざとやってるな。俺の反応を見て楽しんでるとかそんなんだろう。

 こっちも仕返ししてやりたいとこだが……いかんせん場所がよくない。

 濃厚なキスをしようもんなら四方八方からナイフ(物理)が飛んできてもおかしくない状況。

 コイツをわからせるのはあとに取っとくしかなさそうだな……。

 

 クソデカため息を吐く俺をよそに、「れっつらご~♡」と陽咲が掛け声とともに歩き出した。

 なすすべなく腕を引かれながら、移り変わる景色をぼんやりと眺める。


 「そういや今日って、どこに行くか決めてるのか? 俺なんも聞いてないんだけど」

 「さぷらぁ~いず♡ したかったからね。――で、最初は映画を観に行く予定なんだけど、春風もそれでい~い?」

 「あぁ、いいぞ。ジャンルはなんだ?」

 「ホラー」

 「っ!?」


 陽咲の挙げたジャンルに、背筋がぞわっとする。今日は比較的暖かいってのに、身体が震えだしてしまった。


 ……じつは俺、ホラー系が大の苦手なのだ。観ると三日間はひとりでトイレに行けなくなるレベルで耐性がない。

 あんなの作り物だとわかっちゃいるんだが、恐怖ってのは理屈でどうこうなるもんじゃなくて。

 視線でそれとなく気づいてもらおうと試みれば、目が合った。その瞬間、彼女の目元が喜色を帯びていって、


 「あ~♡ 春風ってもしかして、ホラー苦手だったりするの~?」

 「っ、苦手じゃないぞ! あ、あんなの作りものなんだから! よ、余裕に決まってんだろ!?」

 「ふぅ~ん♡ そっかそっか♡ ならなにも問題ないね~♡」

 

 鼻歌混じりにうなずく陽咲に、冷や汗が止まらない。逃げ出そうにも腕は組まれたまま。

 余計なプライドを見せるんじゃなかった、と後悔の波が押し寄せるなか、ふと耳元に温もりが届いた。


 「(でも、もし怖くてたまらなくなったらさ……あたしのこと頼ってくれていいからね♡)」

 「っ!? た、頼るって……具体的にどうしたらいいんだよ」

 「(えーっとね……たくさん甘えてくれていいし、好きなだけおっぱい揉んだり吸ったりしてくれてもいいし、それ以上のこともいいよ……♡ 春風の心のケアになるんなら、あたしは全力でサポートするだけだからさ♡)」

 「……っ」


 女友達の包容力を目の当たりにしてか、心がぐらぐらと揺れている。

 その内容があまりにも刺激的すぎて、恐怖心を打ち消すほどに性欲が膨れ上がっていく。

 頭のなかが、陽咲の魅力でいっぱいになっていって――。


 ホラー映画……なんか不思議と大丈夫な気がしてきたな。

 ――あ、もちろんケアも込みで、って意味だが。

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