第25話 女友達とのビデオ通話その2


 『どーお? って、やっぱちょっと恥ずかしいかも……♡』

 

 自撮り風にスマホを構えた陽咲が、照れたように頬っぺたを掻きながらも、室内をみせてくれている。

 俺はその様子につい笑みをこぼしつつも、ねちっこい視線を流していく。


 見たとこ陽咲の部屋はそこまで広くない(六畳ぐらいか?)ようで、ところどころに生活感が感じられた。壁紙はマンションだからか普通に白いな。

 それでも壁際にぬいぐるみやら、よくわからん箱などが寄せてあるが。いまにも崩れてきそうだ。


 『見たいとこあったらさ、遠慮なく言ってね♡』

 「あぁ。……それじゃ、まずは机の上をみせてくれ」

 

 俺の指示にすぐさま応えるように、スマホの視点がぐるっと回った。画面の先には机の上が映し出されており、化粧品のようなものが散乱している。

 この感じ、絶対コイツ勉強に使ってないだろ。環境破壊を起こしてんじゃねーか。

 

 『ちなみに机のなかはこんな感じになってま~す♡』

 「……レシピ本ばっか入ってるな。で、教科書やノート類はどこにあるんだ?」

 『そんなの学校に置いてきてるに決まってんじゃん♡』

 「……お前が勉強嫌いなのはよくわかった。次はそうだな、ベッド付近が見てみたい」

 『オッケー♡』


 再びスマホの視点が動き出し、画面が揺れている。ベッドのへりに腰かけたらしい陽咲が、ほんのりと頬っぺたを赤らめた。


 『い、いつもはちゃんと綺麗にしてるんだからね……? 今日はしわくちゃになっちゃってるけど』

 「そうか……。なんか、暴れたみたいになってるな」


 シーツにはしわが寄ってるし、枕は中身が偏ってるようでヨレヨレだ。普通に使ってたらこうはならないだろって感じの乱れ具合。

 それに、その……なんか漏らしたあとみたいに色が変わってる箇所があるんだが。

 訝しむような顔をしてたせいか、陽咲の顔が温度計みたいにますます赤くなっていく。


 『ち、違うからね……!? これは、えーと……水、こぼしただけ』

 「だ、だよな。……次は、クローゼットのなかをみせてもらえると」


 なんだか気まずくなったので、陽咲に場所を移動してもらうことに。

 部屋の隅に備えつけてあるそれ。外開きになってる扉が、ゆっくりと開かれていく。


 「おぉ……っ、やっぱけっこう服持ってるな」

 『まーね♡ 女の子はオシャレをしないと死ぬ生き物だから♡』

 「寂しいと死ぬウサギみたいなこと言うなよ」


 などとツッコみつつも視線は彼女の持ってる服に注がれていた。

 比較的美人寄りの陽咲ではあるが、私服は可愛い系のものが多いみたいだ。

 イエベだかブルベだかフラッペだか知らんけど、明るい系統の色合いがほとんどだな。


 『どれか着たげよっか? 春風の好みも知りたいし♡』

 「っ、いや、いい。その……楽しみは取っときたいというか」

 『そっか♡ じゃあデートのときはバッチリ決めなきゃね~♡』

 「っ!」


 ふいに呟かれた"デート"という単語に、ドキリと胸が鳴る。

 俺たちはただの友達なわけだが、それ以前に男と女でもあるわけで。

 はたからみればお出かけじゃなくて、デートという認識になるのは間違いなくて。

 

 「……っ」


 意識したら顔が熱くなってきた。心臓はこれでもかと逸り、呼気が荒くなってしまう。

 そんな俺の変化に目ざとく気づいたらしい女友達は、ニヤリと口角を吊り上げて、


 『春風ったら顔真っ赤♡ そんなに気になるんだぁ』

 「っ、お前は、平気なのかよ」

 『だって、今更だし♡』


 今更、だと? それって、つまり……コイツは俺と出かけることをデートという認識でいて。

 俺のことをそういう・・・・目で見てたってことか……?

 

 でも、それなら俺にだけめちゃくちゃノリがいいのにも説明がつく。

 むしろ友達だからって理由よりも、説得力があって。


 「……急にそんなこと言われて、平然としてられるわけないだろ」

 『へーぇ? ドキドキしてくれてるんだぁ♡』

 「当たり前だろうが。……本当に、俺で、いいのか?」

 『もちろん、いいよ♡ 春風になら――見せたげる』

 

 見せるってのはおそらく、心の内をって意味なのだろう。

 なら、俺も覚悟を決めて、応えるしかないよな。


 ぐっと拳を握りしめ、顔をあげた俺の視線の先に飛び込んできたのは――。



 「――へ? パンツ?」

 

 クローゼットに備えつけられた、引き出しのなかにしまってある、色とりどりの下着類。

 仕様もふちがひらひらのレースになってるものだったり、生地がシースルーなものだったりとさまざまあって。

 そのあまりの魅力に生唾をごっくんしながらも……俺には聞かなければならないことが。


 「あ、あのさ、俺に見せてくれるっていうのは」

 『あたしのパンツのことだけど? って、口にさせないでよ恥ずかしいじゃん♡』

 「っ、気になるんだ、って俺に聞いてきたよな?」

 『うん♡ 春風がじーっと引き出しここばかり見てたじゃない? だから気になるんだなーって思ったんだけど……違ったの?』

 「…………いえ、合ってますよ」


 あああああ~~っ!! 勘違いしたぁぁぁっ!!

 恥ずかしい、あまりにも恥ずかしすぎる。これだから俺はいつまでたっても童貞なんだ!

 俺はてっきり、陽咲がその……なんて言えるわけない。

 恋愛脳に侵された痛いだけの勘違い野郎だと嘲笑われて終わりだ。友情が崩壊する流れが余裕で想像できる。


 ――そもそも陽咲だぞ? 陽キャの塊みたいなやつだぞ!?

 男女でのお出かけなんて腐るほどこなしてるんだから、デートって表現を使うのなんか慣れてるに決まってんだろ――! 気づけよ俺っ!!

 

 『春風~? ね~ぇ~、急に画面から居なくなってどーしたの~?』

 「……自分の脳内が真っピンクで嫌気がさしたんだ。反省させてくれ、これからムチ打ちの刑に処すとこだから」

 『べつにそこまでしなくてもよくない? 男子がエロいこと考えるのとか普通でしょ?』

 

 そうじゃない、合ってるけど……今はそっちじゃないんだ。

 割とガチめに落ちこむ俺に、陽咲は深く追求しようとはしてこなかった。器の大きい彼女のことだ、俺の気持ちを優先するつもりなんだろう。

 『しっかり寝て、気持ちを切り替えるんだぞ~♡』そう一言だけ口にした彼女が、ビデオ通話を切った。

 

 「……はぁぁっ」


 室内に静寂が広がり、俺はクソデカため息を吐いた。言われた通りに寝て忘れようと、ベッドに寝っ転がる。

 するとスマホにメッセージが届いたようで、ピロンと音が鳴った。

 タイミング的に陽咲だろう、おそらく追加で励まそうとかそんな感じか。


 「……ほんっとに、アイツは友達思いの良いやつ……――え」


 『亜澄/これでも見て元気出してね♡』


 届いたメッセージを開いた俺は、あんぐりと口を開けた。

 そこにはメッセージが一言と、一緒に添付された画像があって。

 

 ――上半身裸になった彼女が、とびきりの笑み&ウインクを決めながら、両手でハートマークを作り、それを胸元に当ててるという光景。

 ――手のなかに空いた空間を埋めるかのごとく、ピンク色の乳首がひょこっと顔を覗かせていて。


 「~~~~っ!!」


 これ以上の誘惑きづかいは本気で勘違いしちゃうからやめてほしいんだが……。

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