第20話 女友達へのマッサージ(肩)


 「…………」


 夕食後、俺は背もたれに身を預けてぼーっとしていた。視線は虚空をさまよい、口はだらしなく開いたまま。いわゆる宇宙猫状態。

 人によっては心配をかけてしまうような格好だってのはわかってる。でも、身じろぎするのが億劫になるほどの衝撃がいまも、全身を駆け巡ってるのだ。


 というのも、陽咲お手製のカレーがあまりにも美味すぎたのである。具材はよく見るやつだったし、見た目もその辺のやつとなんら変わりない。

 言っちゃなんだが、店で頼んだら800円ぐらいで食べられそうな感じ。


 なのに、だ。一口食べた瞬間、あまりの美味さに涙が出た。我を忘れたようにかき込んでしまったほどだ。

 空腹だったからか、とも思ったのだが、母親の手料理を腹ペコ状態のときに食べたときも、こうはならなかったはず。

 だとすると調味料? それとも特殊な調理工程を経たのか?


 などという疑問を陽咲にぶつけたら、とびきりの笑顔でこう告げられたものだ。


 『そんなの■■――愛情に決まってんじゃん♡』


 なるほど愛情か、と納得して今に至るのである。


 「んー……よしっ、と。洗い物終わり~♡」


 ふいに声が届いたのでそっちを振り向くと、キッチンにいた陽咲が大きく伸びをしていた。

 動きにあわせ豊かな胸が上下に弾み、ついついガン見してしまう。

 

 「――って、そうじゃないだろ。陽咲、悪いなっ! 洗い物まで任せちゃって」

 「べつにいいってば♡ あんたカレーの余韻に浸ってたんだし、美味しいっていって貰えただけで、あたしにとってはじゅ~ぶん♡」

 

 パタパタと駆けてきて、俺の頬っぺたをつんつんしながらはにかむ彼女に、こっちの口角も緩んでしまった。

 ただの男友達の言葉であったとしても、伝えることに意味があるもんな。それで陽咲が喜んでくれるんなら、俺も嬉しいし。

 カレーと女友達の笑顔のダブルパンチで胸を熱くさせる俺をよそに、陽咲がテーブルの向かい側に座った。

 すると突然、ぐでーっとテーブルに突っ伏したのだ。


 「あ~……身体いった~~い」

 「おい、大丈夫かよ? やっぱり無理してたんじゃないのか」

 「んーん、違くて。胸のせいでさぁ、肩がすっごい凝るの」

 「へ、へぇー……」


 陽咲の発言に相槌を打ちながらも、俺の視線はそこに釘づけになっていた。

 テーブルに押しつけられたことでひしゃげているおっぱい。何度も身をもって経験した柔らかさが、そこにはあって。

 ついついごくりとのどを鳴らす俺を前に、一度身を起こした陽咲が胸元に手を添え、軽く持ち上げてみせたのだ。


 「はぁ~、ほんっとに重すぎ。実はこれHカップもあるんだよね~」

 「へ、へぇー……っ、た、大変そうだな」


 正直自分がまともな返事を返せてる自信がない。もう頭のなかは陽咲のHカップおっぱいのことでいっぱいだったからだ。

 デカいデカいと常々感じてたが……まさかHカップもあったとはな。

 コイツそんな凶器を俺の腕とか背中とかに押しつけてきてたのかよ。俺の身体はおっぱい置き場じゃねーんだぞ。

 内心で文句を垂れつつも、俺の口はあまりにも正直すぎた。否、欲望に忠実すぎるといった方がいいか。


 「も、揉んでもいいか?」

 「えっ?」

 「――あっ! 肩っ! 肩をだな! 凝ってるんだろ!?」

 「いいの? あんたも動くのしんどいんじゃなかった?」

 「もう平気だって! それに陽咲には頑張ってもらったからさ、せめてお礼ぐらいはさせてくれよ」

 「んー……じゃあ、おねが~~い♡」


 うっかりガッツポーズしかけた手を後ろに回しつつ、俺は陽咲の背後に回っていく。

 上から覗きこむようにすると、胸のサイズ感がよりはっきりとわかるな。

 本物と遜色がないんじゃってほどの山がそこには築かれていて、俺の方からでも足元が見えない。

 まぁ、おっぱいの観察はこのぐらいにしてだ。陽咲の肩に手を乗せ、グッと力をこめてやる。


 「あ~♡ そこそこ♡ 気持ちいい~♡」

 「ほんとにすげー凝ってんな。ちょっと心配になる固さだぞ……うちに湿布あるからもってくか?」

 「んーん、いい♡ 辛くなったらまた春風に頼めばいいし♡」

 「おいっ……ま、べつにいいけどさ」


 困ったときはお互い様ともいうし、このぐらいは甘んじて受けてやろう。


 「はぁ~♡ いい♡ ずっとこうしててほし~い♡」

 「ずっとは勘弁してくれ」

 

 気持ちよさそうな声を漏らす陽咲に、肩のマッサージを続けながらも、視線はやっぱりそこに向いてしまうようで。

 身じろぎのたびにゆさゆさと揺れるそれ。ブラウスの生地が伸びてる感覚が、手のひら越しにも伝わってくる。


 「っ」


 目で動きを追うたびにのどが鳴り、陽咲のおっぱいを揉みたい、という欲求が心のなかに広がっていく。

 なけなしの理性で押さえつけようとするものの、俺の欲望を留めるための器はそこまで大きくもなくて。

 器からこぼれたそれが、俺の口を伝って漏れ出てしまった。


 「……なぁ、おっぱいも凝ってるんじゃないか? それってずっと筋肉が張ってるような状態みたいだし……肩でこれならそっちは相当だと思うんだが……あっ」


 言ってから「しまった」と思った。

 これはさすがに怒られる、よな? いくらなんでも一線超えすぎだから、って。


 怖くなって目を閉じる俺だったが、すぐさま届いた陽咲の声は、怒りなど微塵もないってぐらいの、間延びしたもので――。

 

 「ん~♡ なら、こっちも揉んでくんな~い?」

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