第19話 女友達と親友その2
「ねぇ、答えて」
こちらに近づいてきた陽咲が、瞳のハイライトを消しながら詰め寄ってくる。
背筋におぞけが走るほどの圧迫感。椅子に座ってなきゃ姿勢を維持できないほどに、足元はガクブル状態。
チラと視線をスマホに向ければ、シロもビビり散らかしてるようで、ちょっと泣きそうな表情だ。
なんだろうこの状況……ドラマとかでよく見かけるような……――あ、修羅場か。
「ち、違うぞ陽咲っ! お前はなんか誤解をしてる!」
俺はどうにか声を張り上げながら、彼女に笑いかけてやる。
厳密にはどちらとも付き合ってるわけじゃないので、修羅場ではないのだが。考え方は人それぞれであり。
当の女友達はというと、納得はしてないとばかりに顔を近づけてきた。相変わらず瞳のハイライトを消したままなので、マジ怖い。ションベンちびりそう。
「誤解ってなにが? あたしに分かるように説明して」
「そ、その……コイツは親友なんだよ! 雨海真白ってやつでな、昔からずっと付き合いがある存在なんだ」
『ほ、ほんとでしゅ! カナとは親友なんでしゅ!』
スマホから噛み噛みながらもシロのサポートが飛んできた。俺たち二人による合わせ技を陽咲にぶつけ、反応を待つ。
「……」
無表情のまま身を起こした陽咲は、しばらく天井を見つめたかと思うと。
そばにあったベッドに近寄っていき、枕に顔を埋めながら、
「よかったぁ~~……♡」
身体の空気が全部抜けるんじゃってぐらいの、クソデカため息を吐いていた。
先ほどまでの圧はすっかり鳴りを潜めたようで、いつもの陽咲亜澄の明るい雰囲気が見て取れる。
どうやら納得してもらえたようだ。その姿に俺たちもそろってクソデカため息を漏らす。シモがちょっとちびったのはこの際置いておくとして。
枕から顔をあげた陽咲は、俺の方へと近づいてきて、ぷくーっと頬っぺたを膨らませてみせた。
「もうっ、心配したんだからね?」
「え、心配?」
「てっきり美人局に引っかかってるのかなーって。春風って誘いに乗っかるタイプだからさ、ほいほいついていきそうだし」
「……」
いやむしろお前の方が
歯噛みして心の奥底に仕舞いこむ俺をよそに、陽咲は驚いたとばかりに声を上擦らせた。
「それより親友って……あたし以外に友達いたんだぁ。しかもこーんなに可愛い子が相手だなんてね」
『あ、ぅ……』
じろじろと値踏みするような視線に耐えかねたのか、シロが俺に「助けて!」と目で合図を送ってくる。
うんうん、やっぱ怖いよな。陽キャのガン見ってなんか精神的にキツいものがあるっていうか。
俺も最初のころは「どうやって逃げ出そう」とか考えてたし。
陽咲の人となりを知ってからは、常時受け入れ態勢に変わったけどさ。
「大丈夫だぞシロ。コイツは陽キャだけどいいやつだからさ。オタクに優しいタイプのギャル、みたいな感じだ」
「そーだぞ♡ こーみえて懐が寒い系の女子だから安心してね~?」
「それをいうなら懐が深いだろ。なに金欠だってのをアピールしてんだよ、たかるつもりか」
呆れ顔でツッコんでやると、陽咲に頬っぺたをつんつんされた。片目でウインクしたとこをみるに、俺の反応は正解だったっぽい。
ま、正解どころか事実だしな。どっちも。
『ふふっ、ふふふふっ』
小さく笑い声をあげる俺たちにつられてか、シロも笑っている。強張っていたはずの表情は柔らかくなってきたし、こっちも心配する必要はなさそうだな。
場に和やかムードが流れたところで、陽咲はスマホの画面へと顔を向けた。
「それで、
『……えっ? あっ、と初めまして……陽咲亜澄さんですよね? カナから聞いてますっ』
「亜澄でいいよ、あたしも真白ちゃんって呼ぶからさ。それでそれで~♡ 春風はあたしのことどんな感じで話してるの~?」
『とってもノリがよくて、太陽みたいに明るい人だって褒めてますよっ! いっつも楽しそうに話してくれるから、ボクもなんだか勝手に親近感湧いちゃったり』
「あははっ、春風の方こそノリが良いじゃん♡」
先ほどまでの不穏な感じは遠い昔だとばかりに、二人してガールズトークに花を咲かせている。
楽しそうに笑みを浮かべているのをみると、こっちも幸せな気持ちになってくるもんだな。
あとシロさんや、いろいろぶっちゃけすぎです。本人ここにいるんですけど。
と、声を大にして抗議をしたいとこなのだが、二人の邪魔をするような無粋な真似はしたくない。
ベッドに寝っ転がりながら、漫画でも読んで時間を潰すことにしよう。
『亜澄さんとお話しできてよかったですっ! カナの主観だけじゃわからないようなことが聞けて大満足でしたっ』
「あたしも真白ちゃんと話ができて楽しかったよ♡ 今度は直接会って話そーね?」
『はいっ! ――あ、ボクそろそろお暇しますね。カナも、またねっ!』
「ん? あぁ、またな」
どうやら会話が終わったらしく、陽咲がビデオ通話を切った。
スマホを机に置き、花が咲いたような笑みを浮かべながら、ベッドのへりに腰かけてくる。
「真白ちゃんいい子だね♡ あたしとも友達になってくれたし、春風のことも大切に思ってるんだってのが伝わってきたなぁ~」
「そりゃ俺の親友だしな。陽咲ともフィーリングが合うに決まってるだろ」
「それもそっか♡ ……そのうち真白ちゃんともキスしちゃったりして」
「――ぶふっ!? い、いやいやないない!」
陽咲のトンデモ発言に吹き出しながらも、全力で首を横に振る俺。
たしかにシロは可愛い、めちゃくちゃ可愛いんだが……それ以前に、俺たちは親友である。友情が壊れるようなことは絶対にしたくない。
……まぁ、横にいる女友達との友情は、なにがあっても絶対に壊れないと思うけどさ。
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