第18話 女友達と親友その1


 「よいしょ、っと。ふぅ……」


 スーパーでの買い出しを済ませ、自宅へと戻ってきた俺は、大きく息をついた。

 想像以上に買い物袋が重かったせいか、軽く肩を回せばパキポキと音が鳴るほどだ。

 少しは運動とかして身体を鍛えた方がいいんだろうな、なんてことを考えてると、後ろからひょこっと陽咲が現れる。


 「荷物持ってくれてありがとね♡」

 「このぐらいお安い御用だ。ほかになんか手伝うことあるか?」

 「んーん、いい。あんたはできるまで休んでて」

 

 ひらひらと手を振りながら、陽咲が髪を後ろで結い、エプロンに袖を通していく。

 たったそれだけの変化だってのに、俺の心臓はドキドキさせられてた。視線がつい、彼女を追ってしまっている。

 美人の女友達がエプロン姿になっただけで、こんなにも魅力的に感じるとはな。

 着衣エプロン時でこれなら脱衣裸エプロン時はどんだけヤバいんだろうか……。


 「ふんふんふーん♡」


 舐めるように視線を動かす俺をよそに、陽咲は楽しげだ。

 包丁を使って器用に野菜の皮を剥いたり、二箇所あるコンロでそれぞれべつの作業をやったり。はたから見ると忙しそうなのに、ずっとニコニコ笑ってるんだが。

 ま、それだけ料理が好きなんだろうけど。


 このままずっと眺めてるのもいいんだが、気が散って集中できないとか言われたら嫌なので、一度部屋に戻ることにした。

 宿題とかやって時間を潰そうと思ったのだ。

 

 階段を上がって二階へ。自室に引っ込むと――スマホにメッセージが届いている。

 予想通りというべきか、シロからだ。


 『真白/いまって大丈夫?』


 「もちろん大丈夫だぞ。またビデオ通話にしようぜ、っと……」


 メッセージを入力し、しばらく待つ。と、すぐに画面が切り替わった。

 画面の前にいたシロはメガネをかけていて、非常に知的さを感じられる。

 俺がかけてもきっと、カッコつけのそういうキャラクターにしか見えないだろうな。


 「おっ、やっぱりメガネ似合うなシロは。ずっとかけてたらどうだ?」

 『うーん……目が疲れるから、勉強のときにしかつけたくないんだよね』

 「そっか、悪い。ってことはいま、勉強してるんだな」

 『うんっ。ちょっと休憩しようと思って、カナにメッセ送っちゃったんだっ』

 「俺は休憩所じゃないぞ」


 ジト目を向けてやれば、くすくすとシロが笑ってくれる。

 そういやどこぞの誰かさんも、うちを休憩所だと思ってる節があるよな。その分よくしてもらってるので文句は言わんけど。

 

 「それで、休憩所の俺になにしてほしいんだ? 一発芸か? それとも子守歌でも歌ってやろうか?」

 『ふふっ、普通にお話してくれるだけでいいよっ! 一発芸はちょっと見てみたいけどね』

 「恥をかきたくないので普通に話そう。えーと、そろそろゴールデンウィークがあるけど、シロは予定とかどうなってる?」

 『ボクは同じ学校の友達と遊んだり、宿題やったりが基本になるかも。先生がいっぱい出すって言ってたから』

 「そっか……」

 『あっ、でも! カナと遊ぶための時間はちゃんと確保するからっ! 親友なんだし、遠慮しないで言ってねっ』

 「……シロ、ありがとな」


 俺の知り合いはほんとに俺のことを考えてくれるやつらばっかだ。今年のゴールデンウィークは思いっきり羽目を外せそうで、今から楽しみすぎる。

 口角の緩みが抑えられないでいると、後ろでドアの開く音がした。

 振り返るとそこにはエプロン姿の陽咲が立っていて。


 「ねぇ春風、ご飯にする~? お風呂にする~? そ・れ・と・も――えっ」

 

 ノリノリで一発芸を決めようとした彼女は、俺の手元――正確にはスマホの画面を見て、小さく声を漏らした。

 先ほどまでの明るかった表情が、無を貼りつけたかのような表情にたちまち変わっていって。

 

 「――誰? その子」

 

 ややあって吐きだされた声は、冷気を帯びたみたいにすごくひややかだった。

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