第15話 女友達にわからされる


 「マジで? ほ、ほんとにいいのか……?」

 「春風なら、いいよ……♡」

 

 ごくりと生唾をのみながら、そっちを振り返ると、陽咲が白い歯をみせてはにかむ。

 ウソじゃないよ、と言い聞かせるように下腹部を撫でさすってくる。


 いくらなんでもノリが良すぎだろう。俺のなかにあった"友達"という感覚が歪んでしまいそうで、なにが普通のやり取りかも忘れてしまいそうで。

 親友であるシロにはもちろん、こんなのお願いできない。きっと嫌われてしまうだろうから。

 でも、この女友達にはそれができる。本人がいいと言ってくれて、なにもかもを明るく笑い飛ばしてくれるから。

 俺も笑って、手を伸ばそうと思えるのだ。


 「じゃあ、その……お願いします」

 「うん♡ あたしがあんたのこと、たっくさん気持ちよくしたげる♡」


 ふわりと甘い香りのするキスを落としながら、陽咲が俺の下腹部をまさぐってくる。

 そんな彼女に、俺は全身を預けるようにして……――。




 「はぁー……」


 現在、俺はベッドに寝そべっていた。眠くて寝てるわけじゃなくて、あまりのけだるさで動けそうにないのだ。

 精も根も尽き果てた状態。いわゆる賢者タイムってやつだ。

 陽咲の匂いがたくさん染みついたシーツに寝そべってても、息子にピクリとも反応がないのがその証拠だな。


 身じろぎもせずにあーだのうーだのと声を漏らしてると、部屋のドアが開いた。ひょこっと顔をみせた陽咲、その手には水の入ったペットボトルが握られている。


 「ねぇ起き上がれそう? 水持ってきたんだけど飲める?」

 「あー……まぁ、なんとか」


 どうにか腕に力をこめ、身体を起こしていく。ペットボトルを受け取り、中身をのど奥に流しこんでいけば、疲労がだいぶラクになってきた。

 ひとつ息をついた俺の隣に、陽咲が腰かける。肩を触れさせながら、上擦った声をあげた。


 「それにしてもさ、あんたのすごかったんだけど……♡ 男子のって、あんな生き物みたいに動くんだぁ……♡」

 「生きてるようなもんだしな、俺と繋がってるんだし。てか、すげーびっくりしてたなお前。ちょっと悲鳴上げてただろ」

 「あ、あったりまえじゃん……! 初めて見たし、初めて触ったんだから♡」

 「そ、そっか」


 頬っぺたを膨らませながらつんつんしてくる陽咲に、ぎこちない笑みを返すしかない。

 たしかに、手でしてる時におっかなびっくりだなとは思ってたけどさ。初めてだったからか。

 その事実に内心で嬉しさが増してくる。ノリがよくて、遠慮しないでいいと言ってくれてる陽キャの女友達だから、これはどっかで経験があるんじゃ、と心のなかでは疑ったりもしてたのだ。


 ――でも、違った。俺だけだった。俺にだけ、その初めてを向けてくれた。

 こんなに嬉しいことはないだろう。たくさんいる友達のなかでも、俺だけが特別だと言ってくれてるみたいで。

 口元に力をこめてないと、キモいニヤケ面をさらしてしまいそうだ。


 「てかさ、男子のってあんなに飛ぶんだね~♡ あれがうわさの写生大会ってやつかぁ♡」

 「字が違うし、誰もそんな大会開いてねーよ」

 「あははっ、もし仮にあったら春風が一番じゃないの~?」

 「どうだろうな……。さすがにひとりじゃ、あんなに勢いよく飛ばないだろうし」

 「ふーん♡ それだけ、あたしのが気持ちかったんだぁ~♡ ふぅ~ん♡」

 「……っ」


 事実なので否定はできない。でも真横でニヤニヤされるのもそれはそれで癪だったので、そっぽを向いてやる。

 だがすぐさま顔を引き戻され、口元にキスを落とされた。隙間に舌が入りこんできて、めちゃくちゃに暴れられる。

 まるで素直になれない子供を叱る母親のような乱暴さだ。嬉しいけどいくらなんでも激しすぎて、息ができん……!


 たまらず背中をトントンすれば、距離をとった陽咲が今度はコツンとおでこをぶつけてくる。

 視界いっぱいに広がる彼女の力強い瞳に、ドキドキが止まらない。


 「いーい? いまのは無視した罰だから。イエローカード、次も同じようなことしたらもうひとつカードが出るから」

 「おい、器っ、海のように深くて広いんじゃなかったのかよ。……ちなみにレッドカードになるとどうなるんだ?」

 「いまやったことをあんたのここにしちゃうぞ~♡」

 「っ!?」


 下腹部をつんつんしてくる女友達に、限界まで目を見開いてしまった。

 むしろ願ったり叶ったりなんだが、コイツにとっては罰らしいので喜ぶのはやめとこう。

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