第10話 女友達の意外な事実
「んーっ……やっと終わったな」
午前の授業が終わり、昼休みを迎えるチャイムが鳴った。先生が教室を出ていくのにあわせ、クラスメイトたちが思い思いの行動をとり始める。
あるクラスメイトは友達同士で席をくっつけあったり、またあるクラスメイトは教室を飛び出したり。
相変わらず賑やかな光景だな、となにげなく目を向けてたら、横から頬っぺたをつんつんされた。
「ん、どした?」
「春風ってば、今日も屋上でひとり寂しく食べるつもりなのかなーって」
「言い方に悪意を感じるんだが。そういう陽咲は陽キャたちとどんちゃん騒ぎしながら食べるんだろ?」
「そっちも言い方に悪意混じってるじゃん♡ なんなら一緒に混ざってくれてもいいんだぞ~?」
無茶を言ってくれるな。陽キャのなかにひとり陰キャが入ったらデバフがかかるんだぞ。
えっなにこの人……みたいな感じで、場のテンションだだ下がりになるんだぞ。
そんな地獄に飛び込むぐらいなら、ひとりで飯を食べた方がマシだわ。
想像だけで胃が痛んできたので、陽キャどもが動き出す前にさっさと移動してしまおうと席を立つ。すると同じタイミングで陽咲も席を立ったではないか。
きっと、陽キャたちのとこに集まるんだろうな。俺はそんな風に考え、教室を出て階段を上がり、屋上へと続くドアを開け放つ。
よし、相変わらず誰もいないな。
「――てかなんで付いてきてんだ?」
「あたしも一緒に食べよっかなーって♡ ダメだった?」
「俺としてはむしろウェルカムだが」
「やった♡ えーと、みんなに連絡入れとこっと……」
慣れた手つきでメッセージアプリに文字を打ち込む陽咲をよそに、こちらは手ごろなスポットへと移動していく。
場所なんかどこでも一緒だろと考えるなかれ。風よけになるような壁があるとこが重要なのだ。
四月も下旬とはいえ、外にずっといると肌寒さを覚えるときがあるからな。屋上を根城にしてる俺がいうんだから間違いない。
そんなこんなでよさげな場所を選び、その場に腰かける。と、陽咲もそばに寄ってきて、俺の隣に腰かけた。
手に持っていた弁当の包みをほどき、パカッとフタが開かれる。彩りの豊かなおかずが揃っており、非常に美味そうだ。
「おっ、陽咲の弁当すげー豪華だな。お母さん張り切ってくれてるみたいで羨ましいよ」
「……これ作ったのあたしなんですけど」
「マジで?」
驚きのあまり声が出てしまい、みるみるうちに彼女の頬っぺたが膨らんでいく。誰の目から見ても怒ってるのは明らかだ。
すぐさま頭を下げると、横でクソデカため息が吐かれる。
「やっぱり意外なんだね。ほかの友達にも『ぜんぜんそんな風に見えなーい』って言われたし、ちょっと心外かも。どいつもこいつも人を見た目で判断すんな」
「うぐっ……ほんとごめん」
頬っぺたをつんつんされるがまま、黙って受け入れる。今回のは全面的に俺が悪いからな。
でも、ほんとに意外だ。コイツ料理できんのか。てっきりお湯を注ぐだけかと。
そんな俺の内心を見透かしたかのように、陽咲が口を開いた。
「あたしね、じつは一人暮らししてるんだ。春風と同じ、理由は違うけどね」
「えっ、そうなのか? 初耳だぞ」
「ま、言ってなかったし。高校生になったら一人暮らししたーい、って親にお願いして、いまはマンションに住んでるの」
「へ、へぇー……」
陽咲の部屋か、どんな感じなんだろ。陽キャよろしく派手派手なのか、ものすごくシンプルなのか。
同じ女子でもシロの部屋はすげー質素だったからな。
まだ見ぬ光景にごくりとのどを鳴らす俺をよそに、陽咲が言葉を続ける。
「でもね、一人暮らしってさ、なんでもかんでも自分でやんなきゃじゃん? 最初はめんどくさくて適当にしてたんだけど。試しに美味しいものでも食べたいなと思って一念発起したらさ……料理にハマっちゃった♡」
「なるほど、この出来栄えにも納得の理由だな」
「いえいえそれほどでも。――で、春風くんはあたしのこと見直してくれたかなぁ~?」
頬っぺたに指をぐりぐり押しつけながら問いかけてくるので、勢い良くうなずいてみせた。ぶっちゃけ見直すどころか見習いたいと思ったしな。
熱い眼差しを送るとすっかり機嫌が直った様子の陽咲が、おかずをひとつ箸で摘まみ、こっちに近づけてくる。
「はい、あたしの手作り♡ 春風に食べさせたげる♡」
「いいのか!? い、いただきます……あむっ」
口に放りこまれた卵焼きは冷めてもふわっとしており、食感がよかった。
味付けも俺好みの甘い味で非常に美味しい。こんなのずっと食べてられるわ。むしろ食べさせてくれ。
「あははっ、めっちゃ褒めてくれるじゃん♡ ありがと♡」
「あっ、もしかして声に出てたか……?」
「へぇー、自覚なかったんだぁ~♡ そんな素直な男友達には特別にあたしの弁当全部あげる♡ 代わりにそっちの弁当ちょーだい?」
「いいけど……こっちのは冷食だぞ。俺が手を加えたのなんて炊飯器で米を焚いたぐらいだし」
「あたし、お米大好きだから♡ いただきまーす♡」
俺の弁当をひったくり、白米だけをかきこんでは幸せそうに頬っぺたを緩ませている。
いやせめておかずを合わせろよ。食べ合わせってものを大事にしてだな。
独特な食事の仕方をする女友達に呆れ顔を浮かべつつ、俺も受け取った手作り弁当に手をつけることに。
……うん、やっぱ最高に美味いわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます