第6話 そして俺は、女友達と初めてのキスを
正直、冗談だろうと思った。俺の心をさらに揺さぶるための妨害行為だと。
いったいどこに男友達とノリでキスする女がいるんだよ、と理性側の天秤に乗っかる小っちゃな俺が呆れ混じりに首を振ってる。
俺自身もわかってる。おかしいだろと感じてる。だけど、期待せずにはいられなくて――、
「……っ」
コントローラーを握ったまま、顔を横にそらすと陽咲の綺麗な顔がそこにはあった。
距離にして目と鼻の先。彼女の毛先が頬っぺたをかすめるほどの近さ。
俺はきっと、期待と不安に満ちた目をしてるだろう。そんな表情を向けてるってのに、陽咲はふわりと微笑みを浮かべてみせると。
冗談じゃないんだよと言い聞かせるように、ピンクに色づいた唇を近づけてくる。
「んっ……」
陽咲の唇と、俺の唇が触れた。凹凸同士を嵌めこむかのように、まるで最初からひとつだったかのように、しっかりと肌が触れあってしまっている。
時間にして数秒かそこらだろうか? どちらからともなくゆっくりと離れれば、「ちゅっ♡」と小さなリップ音が室内にこだまし、銀色の糸が伸びてはプツンと途切れていく。
「っ」
キス、してしまった。それもファーストキスを、女友達に奪われるとは思ってもみなかった。
……彼女も、初めてなんだろうか?
訊ねてみようとおそるおそる視線を寄せたら、唇に再び心地のいい感触が訪れて。
「んっ♡ ちゅ♡ ちゅっ……♡」
陽咲の唇はものすごく柔らかかった。触れると肌が吸いついてきて、離すとぷるんっとみずみずしく跳ねる。
それでいてすごく熱くて、砂糖のように甘い。ずっと触れていたいほどに気持ちがいい。
我慢だとか理性だとかはもはや頭から吹き飛んでた。この心地よさを手放したくないとばかりに、無我夢中で唇に吸いつき、もっともっとと彼女を求めてしまう。
「んんっ――!? ……んふふ♡ んっ、ちゅちゅ♡」
これは、ヤバい。止めどきがわからなくなるタイプのやつだ。
ゲームは電源ボタンを押せばリセットできるが、キスはそうもいかない。相手がいる限り、永遠とできてしまう。
視界いっぱいに広がる美人な女友達の顔。まつ毛なげーなとか、鼻息がこそばゆいなとか、めちゃくちゃいい匂いがするなとかばっか考えてしまう。
触れるたびに唇だけじゃなくて脳みそまで蕩けそうな感覚に陥っていると、コントローラーを持つ手に陽咲の指が触れた。
テレビの方からうるさい音が連続して聞こえてくるがどうでもいい。もっと陽咲とキスを――、
「んちゅっ♡ はいっ、あたしの勝ちね♡」
「は、えっ……? いったいなんの話を……」
「画面、見てみたら?」
言われるがままテレビに視線を向けると、リザルト画面が表示されていて――確かに俺が負けている。
どういうことだ? 二人ともキスに夢中だったってのに……まさか俺が無意識に操作を、
「もしかして、あたしが操作してたの気づかなかった?」
「……――あっ!? 俺の手に触れたときか!」
「そーいうこと♡ じゃ、春風の持ってるエロ本みせて。勝者のいうことは絶対だからね♡」
「ぐぅっ……わかったよ、見せればいいんだろ」
キスの余韻に浸っていたかったが、負けは負けだ。俺は立ち上がり、机の引き出しを開け、置いてあった板を取り外していく。
その下にあったエロ本を手に取り、小悪魔みたいな笑みを浮かべる陽咲に手渡した。
「あははっ、そーんな念入りに隠してたんだ♡ どれどれ……ふむふむ♡ 春風ってこういうプレイが好きなんだぁ♡ へぇ~♡」
「……もういっそ殺してくれ……」
ベッドに寝そべりながら、男友達の秘密をつぎつぎと暴いていく女友達。俺はもういたたまれなさ過ぎて、その場で顔を覆うことしかできない。
穴があったら入りたい気分だ。そんで誰か俺を生き埋めにしてくれ……。
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