第5話 女友達によるエッチな妨害行為


 「じゃ、始めるぞ」

 「オッケー♡」


 テレビにゲーム機を接続し、電源を起動する。ソフトを読み込みつつ、コントローラーを陽咲に手渡す。

 ちなみに今回、勝負のために用意したのは、スマ〇ラだ。俗にいう対戦アクションゲームというやつである。

 これなら純粋なボタン捌きだけで勝負ができるし、コイツともよくプレイするので説明の必要もない。我ながら完璧なチョイスといえるだろう。


 「ねねっ、ところでさ、これ一回勝負?」

 「まぁな。一回といっても残機は3に設定するけど。残機1で負けて駄々こねられるのもめんどくさいし」

 「あたしそんなことしないから。ふて寝は……するかもしんないけど♡」


 チラとベッドを見やりながらつぶやく陽咲。そこで俺のベッドを見るんじゃない。


 とにもかくにもボタンを操作し、キャラを決めていく。陽咲は可愛いからという理由でピンクの悪魔。俺はよく使う電気ネズミを選択。

 ちなみにモブNPCはいないし、アイテムもなし。ステージも一番シンプルなやつだ。力量のみでの勝負に余計なものはいらんだろう。

 お互いの肩が触れ合うような位置取りのなか、俺たちは対戦をスタートさせ――、

 

 「――よっと♡」

 「は……?」


 まるで「待ってました~♡」とばかりに腰をあげた陽咲が、俺の背中にひっついてくる。むにゅううっと豊かな胸が潰れるのが制服越しにも伝わってきて、驚きのあまり二の句が継げない。

 身体を硬直させた俺の肩越しにひょこっと顔を覗かせた陽咲は、耳元に熱い吐息混じりの声を届けてきた。


 「(ほらほらぁ♡ ぼーっとしてるとやっつけちゃうぞ~♡)」

 「っ、お、まっ……!? 直接的な妨害行為は反則だろ……!」 

 「え~? そんなルール決めてないし。それに……あたしはただ見やすい位置に移動しただけだし♡」

 

 おっぱいを押しつけながら甘い声でささやいてくる陽咲。振り払おうにも後ろから体重をかけられてるわ、脇の下から腕を回されてがっちりホールドされてるわで身動きが取れない。


 この女っ、最初からこれが狙いだったんだな。なんとなく感じた嫌な予感が的中してしまった。

 どうにか体勢を立て直そうとするが、背中越しに伝わる圧倒的なまでの乳圧やら、密着されることで浸透してくる温もりやら、ふわっと香ってくる甘い香りやらで思考が乱されてしまう。

 マズい、ゲームに集中できない。どうしても意識が背中に向いてしまう。

 なんでコイツの身体ってこう、どこもかしこもこんなに柔らかいんだ……。


 「く、くそっ……!」

 「(春風ったらなんだか動き、ぎこちなくない? どうしちゃったのかな~♡)」

 「っ、舐めんな! それでもお前に勝つぐらいはできるっ」


 いくら妨害行為をされようとも、もともとコイツと俺では天と地ほども実力差がある(いつもはそれとなく手を抜いてる)のだ。この程度でやられる俺じゃない。

 下腹部へと熱がうつってしまわぬよう理性を保ちつつ、コントローラーを操作していく。

 と、どうにか向こうの残機を1減らすことができた。耳朶を叩く吐息が荒くなってきたとこからして悔しがってるんだろう。

 しょせんは諸刃の剣ってやつよ。おっぱいの柔らかさは認めるが、それだけじゃ俺のコントローラー捌きの七割ほどしか削れていない。ぶっちゃけ三割もありゃお前を倒すのに支障はないしな。

 さーてと、このまま畳みかけてやるか――、


 「――ちゅっ♡」

 「え……?」

 「はい、どーんっ」


 気づいたら場外に吹き飛ばされていた。残機を1減らし、呆然とする俺。

 実力差があるのに負けたから――じゃない。俺の頬っぺたにいまも熱を残してるもののせいだ。

 

 「お、お前いま……」

 「んー? 直接の方がよかったの?」

 「っ……い、いいのか?」


 言ってから、しまったと思った。女友達相手にセクハラじみた発言をしてしまったと。

 間違いなく引かれる。嫌われる。友情崩壊の危機、ってやつだよな……? 


 「……っ」


 コントローラーを捌く手が止まり、背中には嫌な汗をかきっぱなしだ。心臓はバクバクとうるさい。

 なんとか、弁明しないと。お前がそばにいてくれないと、俺はもう……。


 だというのに陽咲は、そんな俺の悩みをまるごと吹っ飛ばすかのような熱量を、耳元にもたらしてくれたんだ。


 「(春風なら、いいよ……♡)」

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