第4話 女友達はエロ本が気になる
「ねぇ、このあと春風の家に行きたーい♡」
甘味処をあとにしたところで、陽咲から提案があった。
空を見上げるとオレンジ色の空はまだまだ健在。時間的にも余裕たっぷりといったところ。断る理由はないか。
彼女の提案を受け入れるようにうなずき、再びひっつかれながらも黙って歩く。
ショッピングモールがあった場所を引き返し、途中から住宅街に続く道を進む。しばらく歩いたところで一軒家がみえてきた。俺の家だ。
玄関ドアのカギを開けると、陽咲が滑りこむようにして入っていく。
「たっだいま~♡」
「いやここ、お前の家じゃねーからな」
「……毎日入り浸ってるんだからさ、もう実質あたしの家みたいなとこない?」
そうなのだ。この女、放課後は必ずといっていいほど俺んちにくる。お金のかからない休憩所扱いされてるんじゃなかろうか。
……ちなみに俺の両親だが、父親が出張中で、母親もそれについていく形となっているので、いまこの家に住んでるのは俺だけだ。そこも休憩所扱いされる要因なのかもしれない。
なんてことを考える俺をよそに、軽快な足取りで陽咲が階段をのぼっていく。細く長い脚を踏み出すたびにスカートがはためいてパンツが見えそうになってた。
「……っ」
ぜひとも覗いてみたいとこだが、見てたことがバレて絶交なんてなったら目も当てられない。
美少女にセクハラをかましたクソ野郎として校内で罵詈雑言を浴びせられるのはまだいい。それよりも陽咲に嫌われてしまう方がずっと嫌だしな。
誘惑に負けないよう歯を食いしばった俺は、視線を下げつつ階段をのぼることに。
階段が終わったところで廊下の左手に曲がっていく。突き当たりにある扉の先が、俺の部屋だ。
「ん、しょっと」
「……」
入室早々、ベッドに寝っ転がる女友達。その様子に呆れた視線を送る俺。
というのもコイツはなぜか俺のベッドに腰を落ち着ける癖があった。なんでも「落ち着くから♡」とのこと。やめろと言っても聞きやしない。
おかげで彼女から漂う甘い匂いがシーツやら枕やらにたっぷり染み込んでしまい、寝る前は悶々とさせられるのだ。いやでも息子との対話を余儀なくされてしまう。
「はぁ……」
今夜もまたひと手間コースだなとげんなりしながらも、適当にクッションを敷き、そこに座る。
すると背後から陽咲のうわずった声が届いた。
「ねねっ、エロ本貸してくんない? ベッドの下にあるやつでいいからさ」
「やだよ。てかそんなとこに置いとくわけないだろ」
「へーぇ? なら、どっかにはあるんだぁ♡」
「ぐっ……」
誘導尋問とは卑怯なやつめ。とはいえ健全な男子高校生がエロ本の一冊も持ってないってのは逆におかしいだろうし、あるのがバレたとこでなんの問題もないか。
自分にそう言い聞かせ、胸を落ち着かせる。と、今度は背後からなにやらガサゴソと音が。
どうせエロ本でも探してるんだろうけど……。ベッドの下にはないと何度言ったら――、
「――ってお前、どこ探してんだ!?」
「すんすん……なにこれ、なんかイカ臭い……♡」
「やめろ嗅ぐなバカ!!」
俺は慌てて彼女の持っていたティッシュ(使用済みのやつ)をひったくった。
ベッドの下にはないと聞いたからって、なんでゴミ箱のなかを探そうって流れになるんだよ。
あれか、木を隠すなら森のなか。
こんなことになるなら処理しとけばよかった……。
今年一番の慌てっぷりを披露した俺をよそに、匂いで酔ったかのように目元を蕩けさせた陽咲が、間延びした声をあげる。
「ごめーん♡ 近くから探索しようとして手を伸ばしたらさ、ゴミ箱だったみたい♡」
「そ、そうかよ……。ただ、もうエロ本探しはやめてくれ、心臓に悪い」
「どうしよっかなー♡ ――あ、そうだ! なら勝負で決めない?」
「勝負?」
小首をかしげた俺に、腕組みをしながら鼻を鳴らした彼女は、高らかに宣言をした。
「そそ、ゲームで勝負するの。敗者は勝者のいうことをなんでもひとつ聞く罰ゲームつきでね♡ もちろんあたしが勝ったらあんたの持ってるエロ本を読ませてもらうんだけど」
「どんだけエロ本に執念燃やしてんだよ……」
女子にエロ方面での趣味嗜好を把握されるのとか嫌なんだが。それも一番身近な存在である女友達ならなおさらだ。
でも、ここで勝負を断るなんて言ったらまた「ノリが悪~い」って呆れられそうだな。
勝負の内容も俺に分があるゲームなわけだし、なんでも言うこと聞いてもらえるチャンスでもあるし。
「よし、その勝負乗った! あとで吠え面かかせてやるからな」
「あははっ、そうこなきゃね♡」
ニヤニヤと余裕ありげな表情を浮かべる女友達。なんかすげー嫌な予感がするけど、変なこととかしてこないよな……?
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