第2話 すべては女友達の手のひらの上?
「これからカラオケ行く人ー! 挙手っ!」
「はいはーい! ワタシ行きたい!」
「俺も俺も!」
授業がつつがなく終わり、迎えた放課後。
宿題として出されたプリントやらノートやらをカバンに詰めてると、にぎやかな声が耳に届いた。そちらを見やれば、クラスカーストトップの連中が集まって騒いでるようで。
耳をそばだてるとどうやら、これからの予定を決めてるらしかった。見た目が派手派手しいやつらがあーだのうーだのと言い合っている。
そのなかにはもちろん、陽咲の姿もあって。すげー楽しそうに笑っていた。
「やっぱり陽咲さんって綺麗だよな……」
「だな。あのグループのなかにいてもひとりだけ別格の輝きを放ってるし。指折りの美少女って言われるのも納得だなぁ」
「僕は
「わかる! それに笑顔を向けられるとこっちまで元気もらえるっていうか。あぁ~、俺ももっとお近づきに……いや、友達になりてー!」
ふいに届いた声の方角にいたのは、輪になって集まってるクラスメイトの男子たちだ。
話の内容からして陽咲にお熱なんだろう。確かに、あれだけのポテンシャルを誇るやつなんかそうそういないもんな。
友達をやってる身としては鼻高々である。本人に知られると墓場に入るときまで弄られそうなので口にはしないが。
「――は~る~か~ぜ♡」
「ん?」
ふいにぷにゅり、と頬っぺたになにかが触れる感覚が。
ぐにぐにと押しつけられるそれを押しのけるようにしつつ、声のした方を振り返る。
するとそこには「してやったり!」といった表情の我が女友達が。
「……おい陽咲、なにやってんだよ」
「なに、って見てわかんない?」
「いやそれはわかるんだが……」
陽咲の伸ばした指先が、俺の頬っぺたを突いてるんだろ。それはわかってる。
だが肝心の意図がさっぱりなんだよ、とばかりにジト目を向けてやると、指を離してソイツはあっけらかんと言った。
「ほら、こーいうのやらなかった? 声をかけて、振り返るまえに指で動きを止めるってやつ」
「やらなかったけど……で、目的はなんだよ」
「さぷらぁ~いず♡」
「意味分からん」
「待たせちゃったお詫びにってこと」
「あぁ、なるほど……?」
陽咲の行動に小さくうなずいてみせる。
理解はした、が納得はしてないぞ。ちょっかいかけることをお詫びとは言わん。それはもうイタズラだ。
大げさにため息を吐いてみせる俺に対し、机に置いてあったカバンを手に取った彼女は、こちらに目配せをしてくる。
「それじゃ春風っ、これからどっかいこっか♡」
「え、いいけど……いいのか? アイツらとどっか行くみたいな話してただろ」
「まーね。みんなでカラオケ行こうって話になったんだけどさ、あたしはパスしたの。放課後は春風からのおこぼれゲットのチャンスがあるし♡」
「あれをおこぼれといっていいのだろうか……」
つい遠い目になる俺。
店に寄るたびに「お金が足りない」は常套句。「一口ちょうだい」は返品の見込みなし。
思い返せば平穏無事な放課後を送れたためしがないな。たかられてばっかじゃねーか。
「おーい、春風? あれっ、もしかして怒ってる?」
「……友達付き合いを考えた方がいいくらいにはな」
「え、えっ――!? ……じ、じゃあさ、今回はあたしが全部持ちでいいよ!」
「……それでチャラになるとでも?」
「っ、春風の行きたいとこどこでも付き合うし、春風のして欲しいことなんでもするからさ! ぱ、パンツだって見せたげる……!」
普段のこちらを手玉に取る余裕はどこへやら。すっかり平静さをなくした様子の陽咲はあれやこれやと思いつく限りの提案をしている。
べつに友達付き合いうんぬんは冗談なんだが、いくらなんでも慌てすぎだろ。
……いやまぁ嬉しいけどさ。それだけ俺と友達でいたいって思ってくれてるわけだし。
口角が上がりそうになるのを必死でこらえつつ、瞳をぐるぐるさせてる陽咲の肩を叩いた。
「おい落ち着けって。さっきのは冗談だから」
「――えっ、ほ、ほんとに……?」
「当たり前だろ。なんかおごってくれるだけでいい」
「よ、よかったぁ……♡」
大げさに息を吐きながらその場にくずおれる陽咲。しゃがみ込む際にスカートがめくれ上がってしまったらしく、色白な太ももを惜しげもなくさらしてしまっている。
角度的にもうちょい身を屈めればパンツだって見えそうだ。ごくりと俺ののどが鳴るが、すぐさまかぶりを振った。
パンツを見たことがバレた場合、さらなる精神的なダメージを与えかねないしな。
見たいけど、ここは我慢っ、我慢だ……!
鋼の意思で視線をそらし続けてると、陽咲が立ち上がる音がした。
そちらを見やればいつもの表情に戻った女友達がいて。俺の腕に自分の腕を絡ませてきて――、
「えっ?」
「怒らせちゃったお詫びに、エスコートしたげる♡」
「は? おい、なんの冗談……」
「あたしのは冗談じゃないから♡」
腕を組んだ陽咲に引きずられる俺。振りほどこうにも腕越しにむにゅうっと押しつけられてる柔らかな感触のせいで、抵抗などできようはずもない。
「……あの野郎、陽咲さんと腕組みだと……! ぐぬぬっ、羨ましすぎる」
「……なんであんなパッとしないやつが彼女と友達になれるんだよ……っ」
「……絞殺、刺殺、毒殺……どれにしよっかな……」
「闇討ちか、手を貸すぜ」
去り際に聞こえてくる先ほどのクラス男子たちの怨嗟の声。横をチラ見すると「してやったり!」な表情をしてる女友達。
なんだよこの、試合に勝って勝負に負けたみたいな展開は。
もうどうにでもなれ、とあきらめの境地に至りながら、俺はなすすべなく引きずられていくのだった。
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