第1話 陽キャと陰キャ
彼女――陽咲亜澄と出会ったのは、高校に入学してすぐのことだ。
『これってさ、運命だと思わない?』
『はい……?』
退屈でしかなかった入学式を終え、同じ新入生の流れに身を任せながら、割り振られたクラスに移動した俺を待っていたのは。
息をのむほどに美しい顔立ちをした女子生徒からの、スピリチュアルな口説き文句で。
『んーん、こっちの話。じゃ、これからよろしくね、春風っ』
『あ、うん……よろしく。あれ?』
そういやまだ自己紹介してないよな? と、不思議がる俺をよそに、軽く手を振ってほかのクラスメイトに絡んでいく彼女。
ほどなくしてソイツが隣の席であることが判明し、俺はため息を吐いたものだ。
人間というものは、大きく二種類のタイプに分けられる。
陽キャな人間と、陰キャな人間だ。
で、俺はどちらかというと、後者よりのタイプ。
勉強の出来はそこそこ、運動神経もそこそこ。見た目はよくもなく悪くもない。話しかけられたら話すけど、自分から積極的には関わらない。
ザ・凡人。それが俺自身を客観的にみたときの評価だった。レビューをつけられようもんなら5段階評価で☆×3……いや、よくて☆×2.5ぐらいだろうか?
対する彼女、陽咲は明らかな前者タイプだった。
見た目がよく、俺なんかにも話しかけてくるほどコミュ力が高く、性格も明るく前向き。
陰キャ童貞野郎にはあまりにも眩しすぎた。目を開けてるのがしんどくなるぐらいには。
だからなるべく関わらないでいようと思ったのに、隣の席のよしみというやつだろう。
初手からグイグイこられたものだ。
困った俺は一度だけ、おそるおそる訊ねたことがある。
『……あのさ、なんで俺なんかにかまうんだ……? 上手く返事も返せないし、話しかけてもいいことないと思うけど』
『え? なんでって、友達じゃん』
どうやら俺はいつのまにやら友達扱いされてたらしい。友達になってくださいと言った覚えも、言われた覚えもないんだがな。
そんな風に俺が戸惑っている間にも、彼女はどんどんと交流を広げていく。
見た目の美しさと、太陽のように明るい性格は、否応なく人を惹きつけた。気づけばスクールカーストのトップに君臨するほどに、遥か高みへと昇り詰めていた。
きっと彼女は友達100人作るのが目的なのかもしれない。じゃなきゃ俺みたいな陰キャを友達認定しないだろう。
どこか他人事のように、俺は彼女を見てた。
『春風っ、一緒に帰ろ?』
だというのに陽咲は俺とよく下校を共にしてくるし、俺のちょっとした会話にも楽しそうに笑ってくれる。
まるで「ほんとの友達だぞ」とでも言い聞かせるかのように。
少しずつ、一歩ずつ、俺の心の隙間に入りこんでくる。
ずっとずっと絡まれるたび居心地が悪かったってのに……いつの間にか隣にいるのが当たり前になってたな。
むしろ陽咲の熱に当てられすぎたせいか、隣にいないと温度差で風邪をひきそうなほどだ。
「ねぇ春風、宿題みせてくんない……? 今日あたしが当てられる番なの。ほらっ、このとーり!」
「やだよ。ちゃんとやらなかったお前の自業自得だろ」
「っ……もしも見せてくれたらさ、なんでもひとつ言うこと聞いたげる♡」
「――よし、好きなだけ写せ」
高校入学から三週間が経った今では、胸を張って宣言できる。
陽咲亜澄は俺の大切な――女友達だと。
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