第2話 終電
裕実は明彦をつれて宿を出て、電車の駅に向かった。幸か不幸か、自宅の最寄り駅までの終電に間に合う時刻だった。真夜中のがらんとした駅のホームに停まっている電車に乗った。二人掛けの座席の窓側に明彦、通路側に裕実が座った。
「お父さんのこと、好き?」と裕実は明彦に聞いた。
「好きじゃない」と明彦。
「恵子のことは?」と裕実。
「好きでも嫌いでもない」と明彦。
「お母さんのことは?」と裕実。
「好きじゃない」と明彦。
「そう」と言って裕実は通路側に顔を向けた。
明彦は膝の上に置いた裕実の手が震えていることに気が付いた。
「ごめんなさい」と裕実は小声で言った。
明彦は窓のガラスに顔を近づけて、真っ暗な外の景色を見続けていた。
翌日の早朝に、達也と恵子が車で帰宅した。玄関で達也が裕実に土下座して謝り、離婚話はうやむやになった。
その後、家族は気まずいまま時間が過ぎていった。その月の成人式に達也は晴れ着を用意したが、恵子はいらないと断った。就職活動用に買ったリクルートスーツを着て恵子は成人式に出席した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます