15.ラストの勝負へ

 脱落した昭博、夏風、いちごの3人が、それぞれの席に現れた。

 三人は机にふせっている。ユグゥラの言葉を借りれば仮死状態のようだった。

 拳太はユグゥラに言った。


「確認するけどぼくが勝ったら願いを叶えてくれるのは本当だよね?」

「もちろんじゃ。ゲームは賞品があってこそ面白い。そうじゃろう? 足利川ヤマト」


 ヤマトはうなずいた。


「そうだね。ユグゥラ、拳太お兄ちゃんが勝ったらちゃんとお願いを叶えてあげてよ」


 拳太はゆっくりうなずいた。


「分かった。それだけ聞けば十分だ」


 ヤマトとユグゥラに言いたいことは山ほどある。

 ヤマトの言動も、ユグゥラの正体も理解できないことばかりだ。

 だけどここまで来たら勝つしかない。

 優衣を助ける。拳太も生き残る。夏風たち3人も助ける。

 拳太はヤマトをにらみつけた。


(ぼくは、もう間違わない。絶対に勝つ)


 ユグゥラがもう一度右手の指をパチンと鳴らした。

 すると、夏風たちが目を覚ました。

 夏風は頭を押さえながら辺りを見回した。


「……どうなっているの? 私は脱落したはず……昭博さんも戻っているし」


 いちごが言った。


「なんで夏風ちゃんやオッサンまでいるのよ?」


 昭博はさらに分かっていないらしい。


「……? 脱落したはずなのに、僕はなんでまだこの教室にいるんだい?」


 どうやら、3人とも教室から消えた瞬間以降の記憶がないらしい。

 ユグゥラが3度目の投票結果までの経緯を3人に説明した。

 全てを聞き終え、昭博はうなずいた。


「つまり、すでに3回の投票が終わって、残るは拳太くんとヤマトくんの2人。僕ら脱落者による決選投票で全てが決すると」


 夏風が言った。


「なるほどね、やっぱりいじめっ子は……」


 彼女はそれ以上しゃべれなかった。


「おっと、そこまでじゃ玉村夏風。脱落者の三人の声は封じさせてもらおう。投票相手は三人それぞれ、自分の意思、自分の推理、自分の考えで決めよ」


 拳太はユグゥラをにらんだ。

 どうやら、夏風たちに意見交換をさせるつもりはないらしい。


「さあ、20分後に決選投票じゃ。秋海拳太、足利川ヤマト。生き残り願いを叶えるため、思う存分三人を説得してみせよ」


 黒板に、『20:00』と表示され、一秒ずつ減っていく。

 拳太はゴクリとつばを飲み込んだ。

 同時にポケットの中の優衣のお守りをギュッと握る。


(やるしかない)


 だが、拳太が口を開く前に、ヤマトが声を上げた。

 それは言葉ではなく。


「うえぇぇ~~~ん」


 そんな泣き声だった。

 目から大粒の涙を流し、顔をぐちゃぐちゃにした。

 拳太が何度も何度もだまされた嘘泣きだった。


「拳太お兄ちゃんのこと、信じていたのにぃ~~」


 拳太は内心舌打ちした。


(しまった、先手を取られた)


 小学3年生の涙は、下手な言葉よりも相手の心を打つだろう。

 昭博がヤマトに同情するような顔を向けた。

 一方、いちごは冷めた目のままだ。彼女は最初の話し合いの時から、ヤマトの泣きマネにはこんな表情だった。

 そして、夏風はいちご以上に冷たい視線をヤマトに向けていた。


(大丈夫、もう泣きマネだけで負けることはない)


 昭博以外の2人にはヤマトの泣きマネは通用しない。

 それどころか、おそらく夏風は最初から拳太の味方だ。

 ヤマトもそれは理解しているはずだ。

 それでも泣きマネをしてみせたのは、昭博を味方に付けるためだろう。


(昭博さんは、きっとぼくに投票する)


 彼は涙する小さな子を疑えないだろう。拳太以上に、彼は優しい人だから。

 拳太は昭博を説得するのは難しいと判断した。


(2回目の話し合いで、夏風さんはこんな気持ちだったのかな?)


 説得が無理なら次善策を。

 あの時の夏風の考えが今の拳太にはよく分かった。

 ヤマトを脱落させることができないなら、いちごと拳太の二人を残し、ヤマトを疑うきっかけを残す。そのために、夏風はヤマトを脱落者にできないと分かった上で、彼に投票したのだ。


(結局ぼくもいちごちゃんもヤマトくんを疑えなかったけど)


 だから拳太が説得すべき相手は決まっていた。

 拳太はいちごに話しかけた。


「いちごちゃん、覚えているかな。ぼくが言った『ヤマトくんがいじめっ子ならいちごちゃんをかばう理由がない』って推理」


 いちごは小さくうなずいた。


「でも、それは違ったんだ。ヤマトくんがいちごちゃんをかばう理由はちゃんとあったんだから」


 そこで、拳太は一呼吸置いた。


(ここでいちごちゃんを説得できなかったら終わる。絶対にしくじれない)


「ヤマトくんがキミをかばった理由は、まさにその推理をぼくか夏風さんにさせるためだった。あるいは、昭博さんかいちごちゃん自身が推理してもよかったのかもしれない」


 いちごが、未だ泣きマネを続けるヤマトをジロっと見た。


「ヤマトくんの目的はいちごちゃんをかばうフリして、自分を安全圏に置くことだった」


 拳太はそれからはっきりと言い切った。


「いじめっ子は、ヤマトくんだ」


 その時、タイマーの残り時間には、『11:24』と表示されていた。

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