第3話 三度目
「まずは何から聞こうかしら」
朝食を終えて食後の紅茶を飲みながら考える。五億年経っているのが本当かどうかはわからないけど、起きた時の状況を考えると相当な年数が経っているのはわかる。
「そうね、まずは人は生存しているのかしら?」
「ちゃんと生存しているにゃ。そうにゃね、ローザ様にはにゃーの話を先に聞いてもらったほうがいいかもしれないにゃね」
確かにティアの話を先に聞いたほうがいいのかもしれない。五億年の間に何があったのかを知らないことには何を聞いても意味がない気がする。
「確かにそれが良さそうね。それではティア、あなたの生きた五億年の話を聞かせてもらいましょうか」
「わかったにゃ」
こうして長い長いティアの話が始まった。
◆
ティアの話は流石に五億六千七百万年ということで、大まかな流れを聞くだけでも数日かかった。何とか現状がどういう事になっているのかは理解できた。いえ理解できたというよりも、知識として手に入れたといったほうがいいのかもしれない。
さて、まずは結論から言うと、現在も人や魔物なども存在している。それ以外にも私が眠る前には知らなかった存在も、当時と同じように存在しているようだ。
そのうちの一つが大精霊というものだ。精霊の存在は知っていたけど、大精霊と呼ばれる存在のことは知らなかった。そして何を隠そう目の前にいるティアは今では大精霊となっているのだとか。元は私が生み出した人工精霊だったのだけど、長い年月を得て大精霊へと至ったようだ。
私が五億年という長い年月を眠り続けられたのも、そして朽ちること無く目覚めることが出来たのも大精霊となったティアが原因だった。本来大精霊というものは人に認知されることのない存在ということなのだけど、ティアは私と契約をした状態で大精霊になってしまった。その事が眠っている私に影響をして五億年という長い年月を眠ることになったようだ。
「本来は二百年後に目覚める予定でしたのに」
「にゃーにとっても、にゃーを大精霊にしたお方にとっても想定外だったにゃーよ」
「ティアを大精霊にしたお方ってのは創世神様なのかしら?」
「それはローザ様にもお教えできないにゃ」
ティアは申し訳無さそうに頭を下げている。私の考えだと創世神様ではないとしても、神と呼ばれるような存在がいる。そしてそういった存在がこの世界を少なからず管理しているのだろう。
私が眠り続けていた理由がわかった所で話は変わる。私が眠っている間に様々な国が滅び、または生まれた。そして長い年月が過ぎる内に魔法が廃れ、代わりに科学というものが生み出されたようだ。
魔法というものは血統が物をいうと言っていいものだ。眠る前の私がいた時代では魔法が使えるのは貴族に連なるものだけだった。たまに平民からも生まれるが、結局は何代か前の親族が貴族だったというだけの話になる。
どうやら魔法が廃れた頃には貴族というものは無くなっていたようだ。つまりは貴族の血が薄まり魔法を使える人間がほとんど居なくなったか、魔法を使うことが出来たとしても、使い方を知ることができなくなっていたのだろう。
「科学というものはすごいのね。私も学んでみたいわ」
「簡単な仕組みならにゃーにもわかるにゃから、教えてあげるにゃ」
「そのうちお願いするわね」
魔力を使わなくても光や火や雷を作り出す事ができたりと、科学というものはすごかったようだ。鉄の乗り物が道を走ったり空を飛んだりもしていたようだ。話を聞いただけでは想像出来ないのだけど、すごいということだけはわかる。そして科学の時代が過ぎていくと、滅びが待っていた……。
「その流れは誰にも止めることは出来なかったにゃ。にゃーたち大精霊にもそしてあのお方にもにゃ」
科学の時代の先にやってきたのは魔科学というものだった。そう、世界に満ちている魔力であるマナの存在を科学の時代の人間が見つけ出したのだ。魔力を見つけ出した者は偶然にも魔法使いの素養があったのかもしれない。
マナの存在に気がついた人類は、科学で生み出した物を動かす燃料としてマナを使い始めた。それが滅びへと繋がる事とは知らずに……。
「マナと科学は相容れないものだったにゃ。マナは消費されるたびにその濃度を減らしていったにゃ。マナが減れば様々なものに影響が出るにゃ。土は力を失い植物が育たなくなるにゃ、水は空へと上がらにゃくなり淀むにゃ。風は動きを止め、陽の光は地上へ届かにゃくなったにゃ。そして数少なくなった資源の奪い合いが世界中で始まったにゃ。大きな戦争が起きたにゃ。結局はその戦争が滅びを加速させ、最後はすべての生命体が死滅したにゃ」
「途中でマナの消費を止めようとは思わなかったのかしら?」
「その頃にはマナを見て感じられる者が全く居なくなっていたにゃ」
「つまりはマナを消費する道具を使うことを止める判断をすることができる者が居なくなっていたわけね」
「その頃にはまだ沢山の国があったにゃ。その中で貧乏くじを率先して引きたいと思う者がいなかったにゃね」
結局は魔科学で作り出された様々な道具とともに人類や魔物達、それから動物なども死に絶えることになったのだろう。
「そうして世界は一度滅びたにゃ」
「そうなのね。でも人も魔物も精霊も今も存在しているのよね?」
「そうにゃ、世界から生きるものが居なくなった後に、長い年月をかけてにゃーたち精霊とあの方で世界を再生したにゃ。再生には長い年月がかかったにゃ」
「世界の再生に五億年かかったということね」
「違うにゃよ。そんなにかかっていないにゃ。魔科学で作られた道具を塵にするのに時間はかかったにゃけど、再び世界に生物が生まれたのにかかった年数は二億年ほどだったにゃ」
「えっと、生物が生まれて今の人や魔物がいる時代になるまで三億年ほどかかったという事になるわけね」
「それも違うにゃ。今現在は、にゃーの知る限り三度目の世界にゃ」
「三度目? つまりは私が寝ている間に世界は二度滅びているということになるの?」
「そうにゃ」
ティアの言葉を聞いて、思わず天を見上げて額を手で抑えていた。ティアが知る限りで三度目の世界って、いったいなんの冗談なのかしら。
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