第9話

記憶の間」を抜けた先に広がっていたのは、まるで天空の庭園のような「成長の庭」だった。青々とした草花や美しい花々が広がり、風に乗って甘い香りが漂っている。しかし、所々には植物が枯れ、地面には亀裂が走っていた。まさに、島が崩壊の危機に瀕していることを物語っている。


その時、突然、大地が揺れ始めた。地響きとともに目の前の大地が崩れ、巨石のような魔物が現れた。その体は岩でできており、冷たい目が三人を睨んでいる。


「神託の子らよ、この先に進みたければ我に力を示せ」と魔物が低い声で宣言すると、腕を振りかざし、三人に向かって攻撃を仕掛けてきた。


「リリー、後方に下がって!阿座丸は前を頼む!」ルシウスは咄嗟に指示を出し、リリーは矢を放つ準備に入った。


「承知!」と叫ぶと、阿座丸は素早く間合いを詰め、刀を振りかざして魔物の腕を受け流した。その動きはまるで水のように滑らかで、魔物の巨大な腕をかわしながら、一閃を見舞う。


リリーもその間に弓を構え、魔物の目に向かって矢を放った。「これでどう!」矢は魔物の硬い体に弾かれ、動じていない。


「なんて頑丈なのさ!」リリーが驚きの声を上げると、ルシウスは冷静に魔物の動きを観察していた。「きっとどこかに弱点があるはずだ…!」


ルシウスは視線を巡らせながら、魔物の体のひび割れた箇所に目を留めた。そこだけが他の岩肌よりも暗く、脆そうに見える。「あそこだ、あのひび割れが弱点かもしれない!」


ルシウスの指示に従い、リリーは矢を再び構え、阿座丸も刀を握りしめ直した。そして、ルシウスが叫ぶ。「今だ、全力であのひび割れを狙え!」


阿座丸が渾身の一撃を放つと、魔物は悲鳴を上げ、体が砕け散って崩れ落ちた。


戦いを終え、三人は息を整えた。辺りには再び静寂が戻り、先に続く道が見えた。


阿座丸は、剣を納めると静かに口を開いた。「進もう。この先どんな敵が待ち構えていようとも、拙者が切ってみせよう」


ルシウスも笑顔で頷き、「そうだな。僕たちで、サンテリアを救おう」


しかし、そのとき後ろにいたリリーに背後から凶刃が襲った。リリーは血を流し倒れる


「なっ...いつからそこにいたんだい...」


襲ったのは異様に大きな裁縫針を持った女だった


ルシウスと阿座丸は叫ぶ


「リリー!」


「ろろろろ...そう叫ぶでない。自然の音が聞こえないではないか。わっちは夢幻の月の幹部、血の悪夢ブラッド・ナイトメアの一人、新照院彦根しんしょういんひこね。安心せい、殺してはおらぬ。ちょっと眠ってもらっただけじゃ。さて...我らの悲願のためルシウス、主を攫いにきた。なるべく抵抗しないでほしいのじゃが...」


ルシウスは拳を握って言う。拳から血が滲んでいた


「お前が誰かなんてどうでもいい。俺の仲間を傷つけたんだ。絶対に許さない!」


阿座丸は剣を構え


「もう二度と! 拙者の前で誰も死なせない」


と彦根に切り掛かる


「無間一刀流・残雪の刃」


初速の加速を刃に乗せ、全体重をかけて敵を切る阿座丸の全力の一撃。しかし、彦根は涼しい顔をして針で受け止めた。


「ろろろろ...これで全力かえ? まるで小鳥のさえずりのようじゃ」


阿座丸はそのまま攻撃を続ける。

その間にルシウスはリリーを回収し、後方まで下がる。


「リリーごめん...僕が気づいていれば...」


ルシウスは泣きそうな顔をする。リリーは微笑んで言う


「何を寝ぼけたこと言ってんだいルシウス。この傷はあたしがマヌケだったから負った傷さ。だからあんたが負目を感じる必要はないよ」


ルシウスは立ち上がり、前線に戻る。その顔からは笑顔が消えていた。ルシウスが戻ったときには阿座丸は倒れ、彦根は花を空に掲げていた。彦根はルシウスに気づくと


「おや...仲間に別れは告げてきたかえ?ルシウス。そのまま大人しくわっちと来れば悪いようにはしないえ」


ルシウスはヘルムリーフを取り出し、剣に塗り付けた。ルシウスは鎧を手で叩きながらそのまま真っ直ぐ突進する。彦根は針をかまえる


「その草は...ヘルムリーフじゃな。しかし、当たらなければ意味はない」


ルシウスは直前で剣を振りかぶり、剣についたヘルムリーフの汁を飛ばすが、彦根に全て避けられた。


「ろろろろ...もうヘルムリーフはないようじゃな」


彦根は不敵な笑みを浮かべる


そのとき、ルシウスは阿座丸に向かって叫ぶ


「どうした阿座丸! お前の信念はそんなものだったのか!」


阿坐丸は暗い闇の中に立っていた。彼の胸には、重苦しい感情が漂っていた。


(拙者にはもう誰も...)


突然、彼の耳に聞き覚えのある女性の声が響いた。


「阿坐丸、あなたはなぜ戦い続けるの?」


その問いかけに彼は一瞬、何も答えられなかった。しかし、彼の頭にはある記憶が浮かんだ。大切な人が彼の手を取って言った、「生きてほしい」と願った、その瞬間だ。


「…あの時、拙者を救ってくれた人がいたでござる。その人の命を背負って、拙者は生き延びた。だから、今度は拙者が誰かを守りたい。それが拙者の生きる理由でござる!」


闇はやがて消え、彼は安堵と共に、再び前進するための道を見出した。


すると、阿座丸が起き上がり彦根に向かって剣を振った。その瞬間、同時にルシウスも剣を振る。彦根は両方から剣で挟み込まれる形となる


「なんじゃと!?」


と彦根は驚く。しかし、すぐに彦根はニヤリと笑い両方の刃を針を横に持ち替えて上の先端と下の先端で受け止めた


「ろろろろ...惜しかったのぉ。主たちの息は合っていたがわっちの首に届くにはまだまだじゃな。...愛い花が咲いておる、こんな場所に来ると一句詠みたくなるのぉ」


彦根の前に半透明のカードが浮き上がると目の前で砕けた


「マジックカード・尺櫑しゃくらい和歌集」


すると、彦根の周りに百色を超える糸が展開されると糸で色々な動物が作られる。牛、鼠、竜、虎、兎...直後にルシウスと阿座丸は千の小さな針で全身を刺され、倒れた。その後、筆と硯が現れて彦根は筆を取ると空中に筆を走らせた


「滅びゆく、空の花園、血の匂い」


彦根は少し息を切らしたが、すぐに整えてルシウスを抱えていこうとすると、突然空から声が聞こえた


「その者たちを連れていかせるわけにはいかん」


現れたのは虹色に輝く竜。しかし、彦根は挑発して


「ろろろろ...わっちに封印を解かれ、力の半分を削がれた龍神が今更何のようじゃ?」


「確かに私はお前に敗れた。しかし今の貴様なら私にも勝機はあろう」


「ろろろろ...神の癖に姑息な奴じゃの。...いつまでもわっちを見上げるな。不愉快じゃ」


彦根は持っている小さい針を数十ほど飛ばす。しかし、マジックカードを使い疲弊していたからか針は外れてしまう。次は龍神が空から雷雲を呼び、雷を落とした。直後、凄まじい轟音が響き落ちた場所が焼け野原になるが彦根は避けた。しかし、少し当たっていてダメージを負った。


(少し身体が痺れるの...マジックカードも使った。出直すとするかの)


彦根は空間を割り、異空間の奥に歩いていく。去り際、彦根は言った


「また来るぞえ」


彦根が去った後、龍神はルシウスたちを光で包み込み虹の祠まで連れ帰った

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