サンテリア彗星島編
第7話
ルシウスとリリーは、サンテリア彗星島を見上げながらその神秘的な光景に圧倒されていた。しかし、島にどうやって上がるのか全く分からなかった。
「…上に行く方法が見当たらないねぇ」とリリーが不安そうに呟く。
その時、背後から力強い声が響いた。「上に行きたいのでござるか?」振り返ると、筋骨隆々の男が立っていた。全身を覆う赤い光沢のある鎧を身にまとい、長い剣を携えたその姿は、まるで異世界の戦士のようだった。ルシウスは一歩下がり、「何者だ?」と警戒した
「失礼、拙者の名は陽無穂志阿坐丸ひなほしあざまる。さて...ここからサンテリアに参るつもりなら、ある呪文を唱える必要があるでござる」
「呪文?」ルシウスが興味を示すと、戦士は頷き、詠唱文を口にした。
「彗星の光よ、道を示せ。自壊の城、竜玉の光、破壊の剣、全ての道は我が手中。来たれ!」
戦士の声が響くと、目の前に虹の階段が現れた。美しい光が照らすその道を見上げ、ルシウスとリリーは驚きと興奮の表情を浮かべる。
「まるで天国への階段じゃないか...」リリーが目を輝かせた。
ルシウスは阿坐丸に謝罪する。
「警戒してすまなかった...」
阿坐丸は
「いやいや、いきなり知らない人間が話しかけてきたら警戒するのも当然でござるよ」と軽く流した
「それに...拙者もサンテリアに用があり、見たところそちらの構成に戦士はいない様子...そこで拙者も貴殿らの旅に同行させてはくれぬか? 拙者も一人での旅が長く続き、少々心細くなってきたゆえ、貴殿らと共に旅をさせてもらえぬか?」
ルシウスは旅を始めた頃の自分と重ね、
「あぁ! 願ってもない。前衛が一人欲しかったところだ」
と快く了承した
上へ進むにつれ、周囲の景色が次第に変わり、幻想的な雰囲気に包まれていった。そして、彼らは第一層「誕生の間」に到達した。そこにあったのはまるで異世界かのような村であった。村の入り口には赤、橙、黄、緑、青、藍、紫色の順番でそれぞれの色の玉をもつ竜の石像があり、建物は不規則な形で建っていて、地面に根付いたものもあれば、浮遊している建物もある。しかし、ところどころ地面が崩れていて危ない。村の高台には風車がある。村の中央は広場になっており、村の人々は忙しそうに食べ物や物資を運んでいた。なにやら村人たちは毎年の龍神祭りで捧げる虹の花の色が何色だったかとか広場にある竜の盃がどうだとか言っている。ルシウスとリリーがそれを見ていると、子供がぶつかってきた
「ごめんなさい...」
ルシウスは微笑み
「大丈夫だよ。ちゃんと謝れて偉いぞ」
と子供の頭を撫でた。そのまま子供は去っていく。リリーは子供の服を見て
「あのローブ...豪華な装飾だね。何かの儀式をやるのかい?」
と言うと、阿津丸は
「他の村人たちの服装をみるに、あの子供だけが特別ではないでござるな。皆布の色や模様は違うが、似たようなローブを纏っている。民族衣装なのだろう」
と答えた
すると、突然頭上を大きな飛行物が通り過ぎた。ルシウスは興奮し、「あれはなんだ?」と指を刺した。その先には大きな鳥が飛んでいる。リリーも興奮気味に答える
「あれは...! コリンカジャスじゃないか! 世界でもっとも大きい鳥で体長はゆうに3メートルは超える怪鳥だよ」
阿坐丸はルシウスとリリーから少し離れたところで
「雑談もほどほどにしたほうがいいでござるな。皆が見てるでござる」
と言った。
ルシウスとリリーは周りを見回し、気づけば村人たちが興味津々な目で自分たちを囲んでいることに気がついた。彼らの好奇心に満ちた視線は、まるで珍しい動物でも見るかのようだった
「変わった衣装...この硬いローブはなんていうんですか?」
と、一人の女性がツンツンと鎧を指でつつきながら言う。それに対してルシウスは
「え...鎧ですけど...」
と困惑した。すると、人々の間を掻き分けて、威厳ある老人が現れた。彼は一目でルシウスたちを見定めると、驚いた表情を浮かべて言った
「一体何事じゃ...って! お主たち...もしや、下界の者か?」と驚いた様子だった。ルシウスたちが頷くと
「そうか...これも龍神様のお導きなのかもしれん。旅人よ、名はなんという?」
ルシウスは3人を簡単に紹介する
「ワシは村長のヒューゲルト。お主たちに頼みがある。サンテリア彗星島を、救ってほしい」
「はいぃ!? ちょ、ちょっと待って! なぜそんな話に? 僕たちはまだ来たばかりだし...」
「うむ、すまぬ。順序立てて話そう。今、このサンテリア彗星島は崩壊の危機にある。昨晩、ワシは夢の中で神託を受けたのじゃ。明日、このサンテリア彗星島を守る者が現れる。彼らは下界より来たり、龍神の導きを受け、島を救うだろう…」
その時、地震が起きる。数分後、揺れがおさまると村に新たに崩壊した場所が見られる
「...これで分かったろう。そして今、お主たちがこうして現れた。これを神託と信じるほかあるまい」
ルシウスとリリーは互いに顔を見合わせ、困惑した様子を浮かべた。阿坐丸も静かに腕を組み、村長の話に耳を傾けている。
「その崩壊の危機というのは、具体的にどういうことです?」
ルシウスが慎重に尋ねると、村長ヒューゲルトは重い表情で語り始めた。
「この島は、虹の龍神様の力によって空に浮かんでおる。しかし、ここ数ヶ月、彗星の光が弱まり、島を支える力が失われつつある。虹の龍神様は、かつてのように島にその力を与えてはおられぬのだ…そして、龍神様が隠れたとされる古の遺跡に何かが起きている」
「遺跡?」リリーが反応する
「そうじゃ。島全体が遺跡であると同時に、最も神聖な場所が島の最上層にある『虹の祠』。そこに何かが起こり、龍神様との繋がりが断たれた。村人たちは不安に包まれ、天変地異が起こる兆候がある。時折空に走る彗星の軌跡も、以前とは違い、不規則で、まるで迷っているかのようじゃ」
村長の説明を聞き、ルシウスは考え込んだ。島の崩壊という事態は見過ごせない。しかし、助けるメリットはあるのか? そこは重要だ。命をかけるのだ。そこだけは妥協できない。
「...報酬は?」
「ほ、報酬とな...」
村長がアタフタしていると、阿座丸が憤りを見せる
「貴殿というやつは...! 人の命がかかっているのでござるぞ! 迷うことではあるまい」
阿座丸の断片的な記憶。
「阿座丸! 最後の頼みです...どうか、生きて」
その言葉が今も胸に残る。
(救ってもらった命。ならば今度は救うためにかける。それが拙者の流儀)
「...その命に僕たちは入らないのか? 僕たちは夢幻の月というテロ集団とガウシア王国の遺跡で出くわした。その時、僕たちは否応なしに命懸けで戦った。今回も夢幻の月が絡んでいる可能性が高い。今度も命懸けの戦いになるだろう。僕もリリーも目的がある。目的を成し遂げるまでは死ねない。ましてや同情くらいで命をかけてられないんだよ」
決してルシウスの考えも否定できない。だが、己の信念も曲げられない。二つの葛藤が阿座丸の中を渦巻いた。阿座丸は感情が溢れそうになるが、それを抑え込んだ
阿座丸は会話を放棄し先に行ってしまった。
「お仲間の方は大丈夫でしょうか...?」
と村長が心配する。ルシウスはため息をつき
「リリー、阿座丸を助けに行くぞ。すまない村長。報酬はもういい。他に理由ができたからな」
リリーはふっと笑って
「...それでこそリーダーね」
と言った
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます