第5話
王宮の広間にて
ルシウスとリリー、騎士団が王宮に到着すると、広大な石造りの大広間が迎えてくれる。豪華なシャンデリアが天井から輝き、重厚な装飾が施された壁には歴代の王たちの肖像画が並んでいる。王座の前に立つと、目の前には威厳ある王が座している。王の名はアウグスト・フォン・デッケンハーグ王。中年を過ぎた男性で、知恵と冷静さをたたえた目が印象的だ。
「ルシウス・アルテリエ、リリー・アザナエル、よくぞここまで参られた」
セルヴァン卿がアウグスト王に向かい、跪きながら二人を紹介する。
「この度の森での霧の封印、貴公らの功績によるものと聞いておる」
王は静かな声で語りかけるが、その声には力がこもっている。ルシウスは敬礼をしながら簡潔に報告する。
「お言葉を返す前に、陛下にひとつお伺いしたいことがございます。この霧や遺跡の封印、さらに夢幻の月と呼ばれる組織について、何かご存知でしょうか?」
王は少し考え込むように目を細める。リリーがルシウスの隣で静かに見守る中、王はため息をつきながら、穏やかに答えた。
「夢幻の月…それは古の時代、この世界を襲った大厄災だ。我が王国の古い記録によれば、かつて世界を覆った霧により、人々は眠りについたとあるが、その詳細については曖昧なものが多い。確かに、ダルヴァニアの森で発生した霧はそれと関連している可能性が高いが…確かなことは、王立図書館でしか見つけることができまい」
アウグスト王の言葉が静かに響くと、ルシウスはすぐに行動を決意した。
「陛下、図書館で調査を行う許可をいただけますか?」
「無論だ。騎士団も共に手を貸そう。必要な情報を集めたまえ」
広大な図書館は、王宮の一角にそびえ立ち、その中には古代の記録や魔法の文書が所蔵されている。図書館の高い天井には幾何学模様のステンドグラスが光を取り込み、柔らかな光が本棚の間に差し込んでいる。石造りの床には静かな足音が響き、古びた書物の香りが漂う。
ルシウスとリリーは図書館の奥深くへ進み、司書の老人に案内をしてもらい、古代の呪術に関する書物を探し始める。書棚の間を歩きながら、リリーが不安げに口を開く。
「夢幻の月…古代人は世界を襲った大厄災をどうやって切り抜けたのさ…?」
(夢幻の月...調べれば調べるほどに気になる点が多い)
ルシウスは黙って本を手に取り、古い羊皮紙に書かれた文字を目で追う。
「ここに何かあるはずだ…過去に起こった封印や、夢幻の月に関する記述が残っていれば…」
彼は一冊の重厚な本を開き、ゆっくりとページをめくり始めた。すると、あるページに古代の紋章が刻まれた石碑の図が描かれている。そこには、封印の呪術と、霧を操る力についての説明があった。
「これは…まさにダルヴァニアの森で見つけた石碑の一部だ。夢幻の月はこの力を使って世界を眠りに導こうとしているのか…」
リリーがそのページを覗き込みながら言う。
「でも、なぜ眠らせるのさ? 眠らせることで何が起きるんだい…」
ルシウスは眉間にしわを寄せながら、さらに本を読み進める。そして、ページの最後にこう記されていた。
「『全ての封印が解かれし時、楽園への扉が開かれ、世界は新たなる秩序のもとに生まれ変わる』…」
ルシウスは顔を上げてリリーを見つめる。
「楽園…ユートピアだ。彼らはこの世界を理想郷にしようとしているのかもしれない」
リリーが息を呑んだ。
「ってことは...ダルヴァニアの森で起きたことはその前兆ってこと...? でもルシウスが再封印したし、遺跡の出入り口も壊してきた。やつらが再び封印を解くのは無理だと思う...」
そのとき、リリーはエメリットの言葉を思い出した
「ハッ! まさか...遺跡の封印を解くことに意味があるってのかい?」
「あぁ...そのまさかだ。一度動き出してしまえば、もう止まらない。夢幻の月が他の遺跡の封印を解くのを阻止しなければ」
ルシウスは次の書物を手に取った。手に取った書物には、世界に存在する5つの遺跡について記されていた。そこにはそれぞれの遺跡がどの国にあるのか、朧げにではあるが描写されていた。
「ガウシア王国の遺跡はこの国に、サンテリア彗星島。そして砂の国カルノッサ、玩具と小人の国シチャコチャ、雪の国セーレンにそれぞれ遺跡が…」ルシウスがページを指しながら解説する。
王立図書館での調査を終えたルシウスたちは、再び王の前に戻ってきた。王は騎士団長のセルヴァン卿から遺跡についての報告を受け、思案にふけっていたが、ルシウスたちの姿を見るとゆっくりと口を開いた。
「次に進むべき道が見えたようだな、ルシウス」
「はい、陛下。遺跡の一つがサンテリア彗星島に存在することが分かりました。次はそこへ向かう必要がありますが、サンテリア彗星島は他国の領域。国境を超えて進むには、陛下のご協力が必要です」
ルシウスは一歩前に出て頭を下げた。リリーも隣で深々とお辞儀をする。王は静かに頷き、立ち上がった。
「サンテリア彗星島…空の上に浮かぶ神秘の島だな。国境を跨ぐには特別な許可が必要だが、君たちには既にその資格があるだろう。ガウシア王国の名において、君たちにサンテリア彗星島への自由通行を許可しよう」
王は傍らの侍従に目をやり、彼はすぐに書簡を用意し始めた。王が直々に署名した書簡は、他国への協力要請を含む特別なもので、これがあれば国境警備や他国の役人もルシウスたちの通行を妨げることはできない。
「感謝いたします、陛下」
「気をつけて行くがよい、ルシウス、リリー。お前たちが遺跡の謎を解くことが、ガウシア王国のみならず、世界を救う手がかりとなるかもしれない」
王は真摯なまなざしで二人を見つめ、彼らの安全を祈るように告げた。
「ありがとうございます、陛下。我々は必ずや使命を果たしてみせます」
ルシウスは深々と礼をし、リリーも同様に頭を下げた。こうして、彼らは次の目的地、サンテリア彗星島へと向かう決意を固めた。
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