第4話

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ユートピア

ep.4 世界を拒む者たち

掲載日:2024年10月22日 15時07分

更新日:2024年10月24日 22時16分

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僕たちはダルヴァニアの森に足を踏み入れた。霧が辺り一面を覆い、木々の輪郭さえもぼんやりとしか見えない。森全体が不気味な静けさに包まれていた。


「この霧、何か…」


リリーが訝しげに辺りを見回す。僕は彼女に言葉をかけようとしたが、突然リリーがふらつき、膝をついた。


「リリー、大丈夫か!?」


僕は急いで駆け寄り、彼女の肩を支えたが、そのまま倒れ込んでしまう。呼吸が浅くなり、意識が遠のいていく彼女の姿に焦りが募った。


「くそっ…毒か?」


僕はリリーを抱きかかえ、急いで森の外へと引き返す。霧の中を駆け抜けながら、僕は不思議に思った。なぜ自分には影響がないのか。


森を抜けると、リリーはゆっくりと目を覚ました。僕はホッと胸をなでおろす。


「ルシウス…あたし、変な夢を見たんだよ」


リリーは疲れた様子でつぶやいた。


「どんな夢だ?」


「セーレンで、あたしとあたしの幼馴染とルシウスと一緒に伝説の武器『セレスの神弓』を見つけて、それで全てが幸せで…正直言ってこの夢が現実であって欲しかったよ。でも変なんだよ。まるで誰かがあたしを呼んでるみたいに...」


僕はその言葉を聞いて、ハッとした。


「それを詳しく!」


「すまないね。これ以上はなんとも...」


まさにその時、森の方から騎士団が到着した。セルヴァン卿を先頭に、彼らは立ち並び、私たちを見下ろした。


「何をしている?」


セルヴァン卿が厳しい口調で尋ねる。僕は霧に関する危険性を説明し、眠り姫の病と似た症状が現れる可能性があることを警告した。


「ふん、杞憂だ」


彼は一蹴し、部下たちに前進を命じた。僕は再びリリーに目を向けた。


「大丈夫か?」


リリーは頷いた。僕はリリーのため、マスクを作り始めた


「このマスクは特別性でね、アジスの葉と布を重ねて作れるものなんだ。アジスの葉には空気中の毒素を中和する効果があるから.......これで、もう大丈夫」


リリーは驚き、作ったマスクをまじまじと見つめる


「あんた...こんな器用なこともできたんだね。もしかして薬師なのかい?」


「あぁ...って、最初に会った時言ってなかったか?」


リリーは「言ってない」と不貞腐れる


「ごめんごめん。...さぁ、早く騎士団を追おう」


マスクを装着した僕たちは、再び森の中へと入っていった。しばらく進むと、やがて古びた遺跡が姿を現した。遺跡は霧に包まれ、長い間放置されたような雰囲気を漂わせている。遺跡の中は明かりがなく、闇に包まれている。僕はその辺に落ちていた木の枝を拾って持っているナイフで加工し、先端に止血用の包帯を巻きつけ、最後に包帯を巻いた場所に油を塗りつけた。そして持っている火打ち石で松明に火をつけた。


「ふぅ...これで松明の完成だ。先に進もう。遺跡の中の方がより濃い霧に覆われている。ここが発生源なのは間違いないだろう」


遺跡の中に入ると、長い廊下が続いており壁には古代人が書いたであろう壁画が壁一面に描かれていた


「この壁画...なんだか人々が何かを恐れているような...」


リリーは壁画を見てそういった


「明らかに人間じゃないような異形の者も描かれている...昔の人はそれを信仰していたようだね」


廊下を歩いていくと、奥に明かりが見えた。明かりの方は進むと、大きな広間にでた。中央の祭壇の上には逆さ三日月の紋章が描かれた奇妙な石碑がある。石碑の下には石碑を縛っていたであろう縄が落ちていた。石碑から絶え間なく霧が出続けており、マスクごしでも長居するのは危険な状態だった。ルシウスは石碑から離れるようにリリーに言い、自身は石碑に縄を巻きつける。すると、石碑から漏れ出していた霧が嘘のようにやんでしまった。その時、背後から誰かが意図的に近づいてくるような、ゆっくりと、だが確実に迫ってくる気配があった。

振り返ると、男と女の二人組が立っていた。男は不敵な笑みを浮かべ、大剣を片手に軽く振り回している。女は冷酷な瞳で僕たちを見つめ、楽しそうに笑っていた。


「それ直しても、もう手遅れだけど」


「ハハハ! なんでもいい! 殺し合おうぜ!」


男は大剣をルシウスの前に投げつける。直後、凄まじい衝撃波でルシウスとリリーは吹き飛ばされる。男はそのままルシウスの元に向かい、女はリリーの元に向かった


ルシウスは血反吐を吐き、意識が朦朧とする


(やばい...肋骨の骨が何本かいってる。早く動け...どこか動かせるところは...)


そのとき、ピクリとルシウスの右手の指が動いた。


(よし...確かポケットに痛み止めが...)


右腕だけを動かして、ポケットから錠剤を取り出すと、口に放り込み飲み込んだ。


(よし...だいぶ身体を動かせるようになってきた)


ルシウスが立ち上がると、土煙の中から男が現れる


「あの攻撃をくらってまだ立てるのか...面白れぇ!」


「僕が痛み止めを使ってるとき、土煙にお前の影が見えた。なぜ絶好の攻撃の機会を見逃す...?」


男は何を言っているのか分からないといった様子だった


「倒れてるやつを切っても面白くねぇ。やるなら向かってくるやつがいい」


ルシウスはフッと笑い、


「お前にはお前の信念があるわけか」


と言った。男は真っ直ぐと大剣を振り回しながら向かってくる。ルシウスは男の攻撃を受けながら、彼の動きや癖を観察していた。


「どうしたどうしたぁ!反撃してみろよ!」


と男が挑発してくるが、ルシウスは冷静だった。血を流し、肋骨の骨と脇腹の骨が何本かいっているが、ルシウスは冷静だった。激しい戦闘中でも的確に相手の動きのリズムや体力の消耗を見抜く。そして、この男が力を無駄に使いすぎていることを感じ取った。


「君の力は驚異的だ。自慢したくもなるだろうね」


ルシウスはゆっくりとポケットから薬草を取り出し、自分の手に塗りつけた。男が一瞬戸惑う。何をしているのか理解できないようだが、その隙をルシウスは逃さない

ルシウスはその薬草を剣に軽く塗りつけ、男の剣を受け流した瞬間、男の腕に剣先をかすめさせた。男は笑っていたが、数秒後、腕が重く感じられるようになった。


「なんだぁこれは!?」


「少し体が重くなってきただろう。僕が塗った薬草、ヘルムリーフは、筋肉の働きを弱める効果があるんだ。無理に動こうとすると、腕が折れるよ」


「面白しれぇ! これくらいのハンデなら、お前もすぐ壊れなくてすむよなぁ!」


男は気にせず大剣を振り回してくる。その動きは衰えるどころかさっきよりもキレがある。


「おい馬鹿やめろ!」


ルシウスは男を止めようとするが、男には聞こえていないようだった。ルシウスの頭に大剣が振り下ろされようというとき、男の腕が少し裂け、血が吹き出した。そしてそのまま男は倒れ込んだ。


「あ〜...クソッ負けちまったか」


男は天井を見上げる。男は過去を思い出す。男は貧民街の出身だった。そこでは殺人や盗難が相次ぐ毎日だった。当然そんな場所に生まれた男は真っ当に生きることも学ぶこともできずに殺人や強盗をして毎日を生きてきた。しかし男は強すぎた。向かってくる敵を切り伏せているうち、相手は戦う前から逃げ出すようになっていた。


「つまらねぇ...」


そう呟き、男は死体の上に座っていた。すると、後ろから声をかけてくる者がいた


「...同感だ。この世界は我々のような異物を受け付けぬ。ならば私が世界を変えてやろう。全ての者が幸せになれる夢のような世界を」


男は驚き、振り返った。立っていたのは顔と身体を覆う、黒いローブを身に纏った者だった。俺を知っている者ならば俺に話しかけることが死を意味すると分かっているはずだ。それと同時に男は高揚した。自分と対等に渡りあえる者が現れたかもしれないと。俺は大剣を手に取り、すぐに切り掛かった。だが、その大剣はへし折られ男は頭を地面に叩きつけられた。男は何が起こったかわからなかった。男の頭を抑えながらフードの人物は話を続ける


「話は最後まで聞きたまえ。...お前は自分と対等に戦える相手と戦いたいと思っているな?」


男の身体がピクリと反応した


「ならば私の下にこい。私の下に来ればお前が望む強者との戦いもおのずと叶おう。...強くなってみせよ。そして私を殺しにこい」


男は力を抜いた。フードの人物が手を離すと、男はゆっくりと立ち上がった。


「こんなにワクワクしたのは初めてなんだ...! いいぜ、お前の下についてやるよ。そして必ずお前の首を取りに行く」


そして、ルシウスにそのフードの男を重ねた


「俺はバルグ・バンデッド。お前は?」


「ルシウス。ルシウス・アルテリエ」


「ルシウスか...覚えたぜ。妙な術を使いやがるが、筋は悪くねぇ。また戦おうぜ」


一方、リリーは女との戦いを続けていた。リリーはあの衝撃波をくらう前、少し後ろに身を引いていたので軽傷で済んでいた。そのときルシウスも助けたかったが間に合わなかった。でもリリーはルシウスのことを全く心配していなかった


(ルシウス...あんたなら必ずあの男を倒すって信じてる...! だからあたしもこの女を絶対に倒す!)


リリーは矢を構えたまま女を見据える。対する女は、


「弓使いは遠距離が得意。でもこの遮蔽物の中じゃ当てられないでしょ」



とナイフをちらつかせながら軽いステップで近づいてくる。リリーはわずかに身を引き、慎重に距離を保つ。


(確かにこの状況だけ見ればあたしの方が不利...でもね、あんたとあたしには決定的な違いがある! それは...)



広間の中は遺跡の石柱や古びた彫刻が不規則に並び、影を作り出している。リリーはその柱の陰に一瞬身を隠し、素早く反撃の機会を伺った。女はその動きを見逃さず、ナイフを構えて接近する。彼女の動きは速く、ナイフの刃が鋭く光る。


「隠れても無駄よ」


女はにやりと笑みを浮かべると、近くの柱を蹴って一気に加速し、リリーに迫った。


リリーは冷静に弓を引き絞り、柱の影から女の脚を狙った。矢は狭い柱の隙間を正確に射抜き、女の足元へ飛んだ。


「へぇ...? 中々やるじゃないの」


だが、女は素早く回避し、弓の射線を外れて再びリリーに迫る。


「これで終わりよ」


と女が不敵に言い放ち、ナイフをリリーの胸元に突き刺そうとした瞬間――


(仕掛けるなら今!)


とリリーは小さく囁き、矢を放たずに弓を盾代わりにして女のナイフを受け止めた。そして、そのまま女を弾き飛ばした。


「弓矢を使わないなんて...。それに弓矢の正確なコントロール、いいわね。私はエメリット・シャッテンベイン。あなたは?」


「...リリー・アザナエル」


その頃、ルシウスの方は


ルシウスがバルグに問いかける。「お前たちの目的は何だ? なぜこの遺跡を…」


バルグは息を切らしながらも、意味深な笑みを浮かべた。「目的? あー...わかんねぇ。俺はただ戦いたかっただけだ。ただ、これだけは言えるぜ。俺たちは夢幻の月っていうテロ集団だ。今はな」


「夢幻の月...」


バルグは震えながらも立ち上がり、空中を大剣で切り付けると、ガラスのように砕けて空間が現れる。そこにエメリットが現れ、バルグとエメリットは空間の奥へと消え去った。空間が閉じ切る前にエメリットは


「君の相棒ちゃん。中々よかったわ。また戦いましょ」


戦闘を終えたルシウスとリリーは、祭壇の奥で倒れている騎士団員たちを発見した。彼らは霧の影響で深い眠りについており、動く気配はない。


「霧のせいだな…やっぱり眠り姫の病に似た症状だ」


ルシウスは騎士団の団長セルヴァン卿の脈を確かめながら言った。リリーが周囲を見渡しながら答える。すると、騎士団は一人、また一人と起き上がった。セルヴァン卿はルシウスたちに気づくと


「お前たちはあのときの...先刻ほどは失礼した」


「いえいえ、騎士団の皆様が無事でよかった」


騎士団員たちは全員が立ち上がり、再び整列した。セルヴァン卿がルシウスたちに深々と頭を下げる。


「この功績は王宮にも報告させてもらう。お前たちも一緒に王都に戻ってくれ。王に直接、この件を報告すべきだ」


騎士団を連れて遺跡の外に出ると、森全体を覆っていた霧がなくなっており、森は静けさを取り戻していた。

その後、ルシウスとリリー、騎士団は共にダルヴァニアの森を後にし、王都エルディアへと戻る道を進んだ。騎士団の先導で進む一行は、夕暮れ時、王都の城壁が遠くに見え始めた。


「霧が消えたおかげで、森の動物たちもじき戻ってくるだろうね」


リリーが笑いながら言い、ルシウスは静かに頷いた。


「でも、まだ全てが解決したわけじゃない。封印が解けた遺跡が他にもあるはずだ…夢幻の月。一体何をしようと...」


「分からない。けど、ルシウスとあたしなら大丈夫だよ。そんなボロボロになってても泣き言一つ言わないなんてあんた、意外と根性あるじゃないか」


「そ...そういえば薬の反動がまだ...イダダダ!」


急に薬の効果が切れ始め、痛みが全身を襲う。

倒れて動けなくなったルシウスを騎士団員の一人が抱える。


「め、面目ありません...」


とルシウスは申し訳なさそうにしている。リリーは少し微笑み


「どうも格好つかないねぇ...でも、それがあんたらしいね」


と言った。

そしてルシウスたちは騎士団と共に王都の門をくぐった。

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