拒食
高校に入って、夕食だけ吐くようになり、スルスルと痩せたことで自信がついた。同時に、食べるのが怖くなっていった。まだ自分が摂食障害だとは知らず、ちょっと食べ過ぎたなと思ったら吐けばいいと考えて、ときどき夕食を吐いていた。細いまま維持されるが、体調に影響がた。1ヶ月に1回のペースで風邪を引くのだ。当然だ。ティーンエイジャーが正しく食事せず、本来なら上から下へ移動する食べ物を、一度下ろして上げるのだ。吐いた後は疲れて寝てしまう。勉強どころではなかった。そもそも勉強する気はどこにもないのだが。
母は怒った。毎度風邪を引くことと、吐いていること。では、きちんと食べたらどうなるだろう。また体重が増え、「太った攻撃」が再開されるのだ。それなら風邪を引くほうがいい。怒られてもいい。私は体重を増やさない。増やさないように自分でなんとかできている。自分で自分を調節している。母からの呪いに抗っている。幾重にも複雑に絡まり、広がり、膜のように張り巡らされた呪いが、硝子の檻を取り囲んでいる。檻と呪いの幕には空間がある。もし、檻から出られたときに、膜を突き破る力を出せるように。もし、出られたら。
全く勉強せず、必要ならば吐いて生活していた私だが、なんとか私大に合格した。母はもちろん県内の国立を希望していたが、さすがに娘の成績から望みを捨てた。私大の教育学部に期待していたが1ミリも届かず、別の学部で入学した。大学には、おしゃれな子がいっぱいた。美人な子も、可愛い子もいる。その中でも私が目に留まるのは細い子だ。私と同じくらいの身長なのに、私より随分と細い。今考えてみれば、骨格によって人それぞれのベスト体重があることが理解できるが、当時の私はかなり焦った。もっともっと痩せなければ。あの子みたいにならなくては。
母が作った弁当はこっそり捨てることにした。夜は夕方から21時ぐらいまでバイトを入れ、夜食べたら太るから、という理由を付けてあまり食べないようにした。やってくる空腹は、次の日の朝の体重が打ち消してくれた。食べなければ食べないほど痩せるのだ。どんどん痩せろ!
「お弁当ちゃんと食べてるの?」
母に聞かれた。
「食べてるよ。」
お腹が空いているのは痩せていっている証拠。ああ、なんて気分がいいんだろう。気を紛らわす為に映画でも観よう。
そんな毎日が過ぎていった。
165cm 46kg。
あと1kg痩せたいなぁ。
硝子の檻 倉木まるり @Juriemon
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