第6話 友人

 何故かその日の夜からコウスケの家で一緒に住むことになったミサキ。

 既にミユキの許可もおり、トオルとロックからも「娘(妹)をよろしく頼む」と言われたので、円満ではあるのだが、トオルもロックも気死しているような目だったのだけが少し気になったコウスケ。

(翌日に理由は判明したが)


「う〜ん、私も二十年前だったら光介くんの家に押しかけたんだけど!!」


 口調は冗談っぽく、目は真剣にミユキから言われてハハハと空虚な笑いで誤魔化したコウスケであった。

 四十後半のミユキだが今でも若々しく、コウスケの初恋の人でもあるので内心では動揺していたが。


「コウちゃん、食事にする? お風呂にする? それともワ·タ·シ?」


 昭和なセリフを口にするミサキの額を軽く小突いてコウスケは


「あのな、俺はミサキが大切だからミサキと籍を入れるまではそういう事はしないぞ」


 そう言ってご飯を食べたのだった。その夜は悶々としたのは言うまでもない。


 翌朝、探索に出かけるコウスケ。今日はロックから一緒に行けないと言われていた。何でも昨日、ミユキから家の掃除を一日手伝えと言われたらしい。聞けばトオルと二人で買ってきたウィスキーがミユキが既に十本もストックしてあるものだったらしく、「どうせ買うならコッチを買ってきたら良かったのに!」と散々文句を言われ、更にはトオルと二人で飲んだ銘柄のウィスキーを三本は買ってこないと詫びにならないとも延々と言われたそうだ。

 その銘柄のウィスキーは一本が三万円でロックはともかくトオルの小遣いでは三本は難しい。それでトオルは気死していたらしい。

 ロックにはロックで週に一日は家の手伝いをする事を命じられたのでこちらも気死していたそうだ。


「うんまあ、頑張ってください。ロックさん…… トオルさんにも伝えておいて下さいね」


「光介…… 手伝ってくれても良いんだぞ……」


「いえ、俺も稼がないとダメなので、失礼します!!」


 慌ててその場を後にしたコウスケであった。


「さてと、今日も頑張って稼ごう」


 コウスケは昨日と同じく機関車公園へとやって来た。

 

「地道に地力をつけて稼がないとな。安全第一だ」


 今日はここに来る前に探索者協会御用達の商会に寄って刃渡り五十センチの刀を購入してきた。愛用する木刀とは別に、ロックに言われた通り人前で使用する武器だ。


「よし、先ずはこの刀に慣れないとな」


 ダンジョンに入りさっそくジェリーを相手に試し斬りを行うコウスケ。


「おっ、中々使い勝手が良いじゃないか。まあ、俺の作った木刀の方が良く切れるけど、コレはコレで使えるな」


 コウスケは木刀の時と同様に自身の魔力を刀に流して使用していた。

 ドロップしたジェリーの皮を拾いながら今日もボスまで行こうと思っていたコウスケ。


 順調にジェリーを倒して皮を五枚手に入れたので地下一階へと降りた。すると先客が居た。


「ミヤビ、そっちに向かったぞ!」

「分かった、ジュンヤ、エイッ!」


 そこに居たのはコウスケの同級生で椎名純也しいなじゅんや葦川雅よしかわみやびだった。

 ジェリー二匹と対峙しているようだ。


「やった! ジェリーの皮とジェリールビーまでドロップしたぞ!」


「ウソ!? ホントだーっ、ヤッターッ」


 ジェリールビーは一個一万円で買い取って貰えるレアドロップ品だ。


 そしてジュンヤがコウスケに気がついた。


「あっ! コウスケじゃないか! 久しぶりって、一昨日以来だけど」


「あー、ホントだぁ。コウスケくんも探索に来たの?」


 この二人は養成高校一年の時からずっと同じクラスで付き合っているのも知っている。コウスケが闇属性だと分かっても変わらずに話しかけてくれる貴重な友人だ。


「ああ、そうなんだ。でも二人の邪魔をしちゃ悪いから俺は双子山に行こうか?」


「何言ってんだよ。邪魔になんかなるか!」

「そうだよ、コウスケくん。実習の時みたいに一緒に探索しようよ」

「ドロップ品は倒した人の物って事で良いだろ?」

「私とジュンヤだけだとボスは無理だねって話してたけどコウスケくんが一緒に行ってくれるなら大丈夫だし」


 矢継ぎ早に言われて仕方なく頷くコウスケ。今日はあんまり稼げないなぁと内心で思ったのは顔に出さないように注意した。  


 地下二階に降りた三人は交互にジェリーと小鬼を倒していき、ドロップ品を拾っていく。


「けどコウスケはやっぱり強いな。さすがだよ」


 ジュンヤがコウスケの強さに素直に感心する。


「いや、ジュンヤだって俺と同じくらい強いじゃないか」


 コウスケはそう言ってジュンヤを褒める。


「でも俺は水面に映る月を切れなかったからなぁ」


「その代わり滝の水を切ったじゃないか」


 男二人の会話にミヤビが


「はいはい、二人とも余裕があるのは良いけど油断しないでね!」


 と注意を促しながら上から襲ってきたジェリーを風刃で倒した。


「ミヤビの風魔法も凄いな。属性が開花してそんなに日にちが経ってないのに、相当な訓練をしたんだろ?」


「エヘヘ、分かる? かなり真面目に取り組んだんだよ。魔力の制御からしっかりとね!」


 コウスケに認めてもらい嬉しそうにそう言うミヤビ。


「なあ、コウスケ。良かったらこのまま俺たちとパーティーを組まないか?」


 ジュンヤの言葉を嬉しく思いながらもコウスケは断りの返事をする。


「悪い、ジュンヤ。一年後に俺と組んでくれると言う子が居るんだ。その子とパーティーを組む為に俺は一年間、ソロで自分を鍛えたいと思ってる。勿論、今日みたいに臨時で組むのは二人が良ければよろしく頼むよ」


「そっか、分かったよコウスケ」


 ジュンヤは普通に受け入れてくれたが、ミヤビはニマニマとしながら言う。


「コウスケくん、それってあの子でしょ? 一個下のミサキちゃん!」


 ミヤビに言い当てられて驚くコウスケ。


「なっ!? いや、まあそうだけど、どうして?」


「気づいてなかったのコウスケくんだけだよ〜。学校でミサキちゃんと話す時だけコウスケくんの眼差しが優しかったもんね。沢山の女子がそれを見てコウスケくんにアタックするのを断念したんだから!」


 全く気づいてなかったコウスケは、『俺にモテ期があったとは……』と思ったとかなんとか。


「へぇ〜、そうだったんだな、俺も気づかなかったよ、コウスケ。で、そのミサキちゃんとは仲良く出来てるのか?」


 ジュンヤの質問に『昨夜から一緒に住んでるとは言わないでおこう』と思い、


「ああ、元々家が隣同士で小さい頃から一緒だったからな」


「キャーッ、幼馴染!! それは高校からコウスケくんを狙ってた女子は勝てないわね!!」


 コウスケの言葉にはミヤビが派手に反応した。


「ま、まあそんな訳だから、悪いな。ジュンヤ」


「いや、それなら良いんだ。コウスケが闇属性だと分かった途端に離れていった奴らが多かっただろ。だからちょっと心配してたんだ」


「有難う。でも俺は大丈夫だから」


「良し! それじゃミヤビに負けないように俺の土属性の凄さを見せてやる! コウスケ、その刀をちょっと貸してくれ!」


 ジュンヤにそう言われて素直に刀を差し出すコウスケ。ジュンヤはコウスケから刀を受け取ると魔力を流し込み始めた。


「ムウゥー、硬質化! ついで軟質化! 更に硬質化! 更に軟質化!! 最後に適度に硬質化!!」


 言葉に出して言ったのはコウスケに聞かせる為だろう。


 ジュンヤが返す刀を手に取りコウスケは唸った。


「凄いな! ジュンヤ!! 安物の刀だったのに、名刀ばりの刀輝とうきだ!!」


「へへへ、どうだコウスケ? これが俺が得た土属性の武器強化だ。鍛冶でいう焼入れ、焼鈍しを行って更に強靭にしたんだ! これでも最適な回数を調べるのに家の包丁を十五本もダメにして母親に怒られたんだぞ!!」


 『いや、そこは自分で100均の包丁でも買ってきて試せよ』とは内心で思ったが、コウスケは友の気持ちが嬉しくて素直に礼を述べた。


「有難うジュンヤ。この刀なら中級ダンジョンでも問題なく使えそうだ。大切に使うよ」


「へへへ、また色々と考えて思いついたらコウスケの為ならいつでもスキルを使用するからな!」


 コウスケの言葉に嬉しそうに答えるジュンヤ。


「ブゥ〜、私だっていつでもコウスケくんの為に出来る事はするからね。私たち二人はコウスケくんとずっと友だちなんだから!!」


「ああ、有難うミヤビ。俺も二人とはこれからもずっと友人でいるとここに誓うよ」


 属性開花の時にコウスケが闇属性だと分かって離れていった数多くのそれまで友人だった者たちと違い、この二人は変わらずにコウスケの友で居てくれた。それだけでも有難い事なのに、こうしてコウスケの気持ちをおもんばかってパーティーに誘ってくれたり、それを断っても今出来る事をしてくれたり……


 本当は涙が出そうだったのだが、照れくさくてそんな姿を見せたくなかったコウスケは二人にそう言って正直な気持ちを告げたのだった。


「良し! それじゃここからは交互にモンスターを倒して行こうぜ! でもボス戦はどうしようか?」


 ジュンヤがそう言うのでコウスケは二人に言った。


「危なくなったら手助けはするから、二人で大鬼に挑んでみれば良いんじゃないか? 俺は既にここの大鬼をソロで攻略しているから、今日は二人に譲るよ」


「ええーっ!? 既にソロで倒したっていうのかっ!!」

「う〜ん、やっぱりコウスケくんって規格外だよね。実習の時にも思ったけど。だけど技の名前は厨二病くさいから口に出して言うのは止めた方が良いよ」


 ジュンヤは驚き、ミヤビからは忠告が来た。


「えっ!? 俺の考えた技名ってそんな感じ?」


「うん。友だちだからハッキリ言うけど、心の中で留めとく方が良いと思う」


 ミヤビにキッパリと言われてミサキとパーティーを組んだ時には技名を豪快に叫ぶつもりだったコウスケはその前に教えてくれて有難うとミヤビにお礼を言ったそうだ……


 そして、三人でボス部屋まで行き宣言通りにコウスケは手出しをせずに見守り……


「ジュンヤ! 行くよ!!」

「良し! 分かった!!」


 ミヤビの掛け声に素早く後退するジュンヤ。そのジュンヤを追おうとした大鬼にミヤビの風魔法が突き刺さった。


「ヤッターッ! 初成功! 今の最大の威力を込めた風魔法、風大槍ふうだいそうだよ!!」


 そのミヤビの言葉を聞いてコウスケはミヤビの技名魔法名も厨二病的だぞと思ったとか…… けれども口に出しては指摘しなかったようだ。

  

 

  

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