第4話 大金

 初級ダンジョン、機関車公園の最下層である地下五階に降りたコウスケは目の前の扉をユックリと開けた。

 地上部と同じ広さの空間があり、その中央にボスモンスターの大鬼が大鬼の斧を持って立っていた。

 実習の時にも相対したが、心なしかあの時よりも大柄に見える大鬼。


 それをコウスケはソロで挑むから己の心の中の恐れからくる目の錯覚だと認識して気合いを入れる。


「行きますッ! ウオオーッ!!」


 雄叫びを上げて大鬼へと向かうコウスケ。大鬼はそんなコウスケを馬鹿にしたような顔で見て、手に持つ斧をユックリと頭上に振り上げ、そしてコウスケが目の前に来るかなり前に自身の前で鋭く振り下ろした。

 すると、風の斬撃がコウスケに向かって飛んでくる。


「なっ!? しまった! ユニークか!!」


 その攻撃を見てロックが焦ったように前に飛び出すが間に合いそうにない。

 大鬼が振り下ろした斧から出た斬撃はそのままコウスケに向かって行き……


 コウスケによって切られた。


「グガッ?」


 突然消えた斬撃に不思議そうな顔をする大鬼。それは前に飛び出したロックも同じだった。


「なっ!? 消えた!! 切って消すなんて出来ないだろ、普通!?」


 そんな二人? の驚きを他所にコウスケは大鬼の目前に迫りそして……


「喰らえ! 斬月!」


 水面に映る月を完璧に切る事によって身につけた秘剣、【斬月】と名付けた技をユニーク個体の大鬼に切りつけた。


「グギャーッ!!」


 大鬼の大角が切り飛ばされて、大鬼が消えた。


「フウ〜、ソロでも何とかなった。良かった!」


 コウスケがそう言って一息ついた時にはロックの叫びが辺りに響いた。


「良かった! じゃなーいっ!! 何だ今のは、どうやってあの大鬼の斬撃を消したんだ!? あの斬撃には風の魔力と僅かだが地の魔力もこもってたんだぞ! どうやったんだ! 光介!?」


 ロックの叫びに逆に驚くコウスケであったが、聞かれた事についてはコウスケ自身にもよく分からないので返答に困っていた。


「えっと…… 俺にも良く分からないんですよ、ロックさん。さっきも言いましたけど、出来そうだなって頭に浮かぶのでやってみたら出来たっていう感じなんです……」


 コウスケの言葉にロックは、


「ムウッ! 多分だがスキルが関係してるんだろうな。低位だからまだタブレットは持ってないからステータス確認も出来ないし…… だが、普通はこんなに直ぐにスキルが発動しだす事は無いはずなんだが……」


(中位ランカーに認定されれば体内の電気信号を読み取り、自分のステータスを確認出来るタブレットが探索者協会より支給される。但し、中位ランカーの時に支給されるタブレットでは得たスキルの確認は出来るがスキルレベルは確認出来ない。

 上位ランカー認定時に支給されるタブレットではスキルレベルも確認出来る。

 それらのタブレットは支給時に個人認証設定があり、支給された者しか使用出来ないようになっている。)


 一人で考察を始めてブツブツと言い出した。そんなロックを横目で見ながらドロップ品を拾っていたコウスケが突然、声を出した。


「アッ!? やっ、やったーっ!?」


「何だ!? どうした?」


 コウスケの突然の叫びにロックも考察を止めて聞いてくる。


「やりましたよ、ロックさん。千分の一を引き当てました!!」


 コウスケの目線の先には宝箱があった。それはボス戦に勝利した際に千分の一の確率で出る宝箱であった。

 勿論だがこの機関車公園は初級も初級、六級ダンジョンである。

 これまでも何度か宝箱が出たという情報があり、その中身の情報も出ている。これまでに出た宝箱の中身は、【魔法鞄(容量小)】【スキル経験値(一つレベルを上げる)】【金塊(10g〜50g)】の三つだ。


 当りと言われるのは【魔法鞄】と【スキル経験値】で、【金塊】は外れと言われている。探索に役立つ物ではないからだ。勿論だが売ればお金は得られるのだが。

 魔法鞄は容量が小でも田舎の小学校の体育館ぐらいの容量がある。

 スキル経験値は低位〜中位のランカーでは知りようもない経験値を得て、スキルを確実にワンランクレベルアップさせてくれるものだ。

 金塊は売れば確かにお金にはなるが、そもそも初級ダンジョンで経験を積んでいる状態では、装備にお金をかけれる訳でもなく、また探索者になる若者のほぼ九割五分が家庭が裕福なので、外れと呼ばれているのだ。


 しかしコウスケは違う。一日の稼ぎの目標を一万八千円に設定してある通り、お金を稼ぎたいのだ。

 それは老後をも見据えた気の早いコウスケならではの理由ではあったが、それでも稼げるならば大歓迎という気持ちである。

 なのでコウスケは宝箱を開ける前にいるかいないか知れない神に祈った。

「どうか、金塊50gが入ってますように……」と。


 その願いが届いたのかは分からないが、宝箱をユックリと開けるコウスケの目の前には金塊が見えた。


「ヤッターッ! やりましたよ! ロックさん! 俺の最も欲しかった金塊です! しかもこれは初じゃないですか? どう見ても50g以上の重さがありそうです!!」


 金塊を見たコウスケの喜びように若干ではあるが引きながらもロックはコウスケに言った。


「おっ、おう! 良かったな光介。願い通りの物が入っていて。しかし、俺的には魔法鞄の方が良いと思うんだが?」


「ロックさん、何を言ってるんですかっ!? 魔法鞄はお金さえあれば容量中(大型の倉庫店舗の二店舗分ほど)が買えるじゃないですか。まあ三百万もしますけど、それを買う為にも先ずはお金ですよ!!」


 ロックの言葉に反論しながらコウスケはいそいそとリュックから電子秤を取り出して金塊をその上に乗せる。


「オッ、オオーッ!! 70gですよ! こんな重さのは初めてじゃないですか!? ロックさん、今日の金の買取相場はどうなってますか?」


 興奮してるコウスケに引きながらも、上位ランカーに渡されているタブレットを取り出して確認するロック。


「えっとだな。一般買取がグラム一万二千円で、探索者協会の買取額はグラム一万五千円だな」


「ウオオーッ! キュ、いや百万超えですか!! ヤッターッ!!」


 全身で喜びを現すコウスケにロックはドン引きである。 


「おっ、おう、良かったな光介」


「ハイ! これでミユキさんにウィスキーを買って帰りましょう! 少しでも機嫌が良くなるように!」


 コウスケのその言葉にロックはドン引きした事を反省したのだった……


 ダンジョンを出て、探索者協会に向かう二人。そして協会にてドロップ品の買取をコウスケが頼みにいき、ロックは協会長と話をしてくると言って二階に上がっていった。


「それではコウスケさん、こちらが本日の買取額となります。口座にいくらか入れておきますか?」


「はい。七十万を口座に入れて残りは受取ります」


「畏まりました。それではカードを出して下さい」


 手続きを終えて買取窓口を去ろうとしたコウスケに後ろに並んでいた探索者から声がかかる。


「おい、外れのコウスケ。お前、どつやってそんなに高額を稼いだんだ? どんな不正をしたんだ?」


 声をかけてきた探索者は三人組で、コウスケの同級生でもあった、ナオト、ケンタ、ミヤであった。

 ナオトは火属性、ケンタは水属性、ミヤは光属性である。


「ん? ああ、ナオトか。不正なんてしてないぞ。ちゃんと初級ダンジョンの機関車公園を攻略してきてその時に得たドロップ品を売っただけだ」


 コウスケの返事にケンタが反論する。


「嘘だ! 俺たちは今日は双子山(五級ダンジョン)を攻略してきたが、三人で十五万円、一人五万円しか稼げなかったんだぞ! お前はパーティーも組んでくれる人もいないソロで、機関車公園のボスを倒せるわけないだろう!?」


 しかしそこで買取窓口の受付の人がコウスケをフォローする。


「お待ち下さい、火焔組(三人のパーティー名)の皆さん。探索者カードの記録でコウスケさんが間違いなく機関車公園を攻略した事を確認できております。皆さんは協会の記録を疑うという事になりますが?」


「いえ、ミヤは疑ってないです。この二人が勝手に疑ってるだけです」


 紅一点のミヤはすかさず自分は言ってないと保身にまわる。


「なっ!? そもそもミヤが言い出したんだろう。コウスケが一人で攻略出来る筈がないって!!」


 ナオトが暴露する。そして三人はお前が、お前がと責任のなすりつけ合いを始めたので、コウスケは買取窓口に軽く頭を下げてその場を後にした。


 受付前の椅子でロックが来るのを待っていたら、先ほどの三人、火焔組というコウスケなら人に聞かれるとちょっと恥ずかしいなと思うパーティーが再びやって来た。


「コウスケ、お前の所為で俺たちが怒られたじゃないか!」


「そうだ! いつの間にか姿を消しやがって!」


「ミヤは悪くないのに、コウスケの所為で責められたんだからねっ!!」


「いや、知らんし…… お前らの自業自得だろ?」


 正論をかますコウスケに更に逆ギレする三人。


「お前が探索者カードをも書き換える様な不正をしたのは明白なんだ! その不正を黙ってて欲しかったら俺たちに稼ぎの半分を寄越せ!」


 ナオトがそう叫んだ時にパーティーの真後ろにはロックと協会長が立っていた。コウスケは気がついていたが、敢えて三人には何も言わなかったのだ。


「ほう? お前たちはそこの初級探索者が協会のカードを不正に書き換えたというのか? どういう手段で書き換えたというのか俺に教えてくれないか?」


 探索者協会の協会長は養成高校に講師として何度か来ているので卒業生なら顔を知っている。その言葉にパッと振り返った三人は


「あっ、いえ、その……」

「違うんです、僕たちは……」

「ミヤは何も言ってません……」


 途端に勢いをなくししどろもどろになる。

 

 元々、言いがかりをつけて高額を稼いだコウスケから金を奪ってやろうと考えていた三人はそのまま逃げるように去って行った。


「どこにでもあんなアホはいる。まあコウスケなら心配ないだろうがな」


 ロックがそう言い協会長にコウスケを紹介した。


「君がシンヤとキョウコの息子か…… そうか…… 明後日にロックと一緒に私の部屋に顔を出してくれないか? ああ、何か用事があるなら違う日でもかまわないが?」


 唐突にそう言われロックを見ると頷いているので、コウスケは


「いえ、特に用事はないので明後日、協会長の部屋にお伺いします」


 と返事をした。それじゃ頼むなと言って協会長はその場を後にした。


「ロックさん、協会長が俺に何の用事なんでしょうか?」


「さあな、俺も理由は聞かされてないんだ。ただ明後日に光介と一緒に来てくれとしか言われてなくてな。さっ、それよりも光介、母さんの機嫌の良くなる物を買いに行こう!!」


 というロックの言葉にコウスケは『ミユキさんに怒られないように必死だな。ロックさん、上位ランカーなのに自分の母親を恐れるって…… 実はミユキさん最強なのか?』と内心で思っていた。

 

  

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