第2話 初動
その日はミサキの家で深夜十二時までお祝いをしてもらい、隣の自宅まで戻ってから風呂に入り疲れて寝てしまったコウスケ。
それでも習慣というもので、朝五時半には目覚めて日課の木刀の素振りをしてから顔を洗い、朝食の準備をする。
朝食を食べ終えて落ち着いてから昨夜、ミサキの両親から受け取った封書二通を開封するコウスケ。
一通目の母からの手紙は、
【光介へ。探索者になったのね。強く生きなさい! 弱きを助けられるような強い探索者となるのよ! あなたなら出来るわっ! お父さんの子なんだから!!】
とA4用紙二枚にわけて大きく書かれていた……
「お袋…… 紙の無駄遣いするんじゃねぇ!!」
コウスケは読み終えて大きな声でツッコミを入れた。
そのまま少し深呼吸をして気持ちを整えてから父からの封書を読む。
【光介、探索者になっちまったかぁー! やっぱりカエルの子はオタマジャクシだなあ。お前は母さんの子だよ。受ける〜。(ここで「アンタの子でもあるんだよっ!!」というツッコミを期待してるぞ)まあ自分で探索者となる事を選んだんだから、頑張れよ。それにどうせ闇属性を得たんだろ? お前はやっぱり母さんの子だなぁ。苦労するだろうが前を向いて進めよ。そういえば、進むと言えば美咲ちゃんとはどこまで進んだんだ? キスぐらいはしたか? それともイチャイチャするまでか? ひょっとしたら既に押し倒すぐらいまでか? 思えば母さんは俺が二十歳の時に十八歳で、俺の一人住まいのアパートに来た時に強引に俺を押し倒して(ここで「止めろ! 両親の生々しい話なんか聞きたくない!」というツッコミを期待してるぞ)…… まあ何だ、お前は母さんの子なんだから頑張れよ。ヤれば出来るんだからな。ここで父さんから的確なアドバイスをしておこう。イヤよイヤよも好きのウチっていう言葉は嘘だからな。その言葉を信じて無理やり美咲ちゃんを押し倒したりするなよ。以上が父さんからお前に伝えたい言葉だ。(ここで「オイッ、闇属性については!?」というツッコミを期待してるぞ)まあ、お前が頭を下げてそこまで頼むなら仕方がない。闇属性について知ってる事を教えてやろう。この属性はな…… 得た者自身で調べるしか手はない。何せ、父さんも母さんも闇属性だったが、得られるスキルは全然違ったからな。その者自身のスキルの進化系統によって変わるらしいと結論が出た。だから、お前も頑張って自分で調べろ! お前なら出来る! なんたって母さんの子だからな!! 最後に、美咲ちゃんと結婚したら孫は五人は欲しいと伝えてくれ。よろしく頼む!!(ここで「言えるかーっ!!」というツッコミを期待してるぞ)】
父からの手紙を読み終えて、両親からの二通ともビリビリに破りたい衝動に駆られながらも、何とか深呼吸して気持ちを落ち着かせるコウスケ。
「神様、もしも本当にいて、あの世というものがあって、俺の両親がそこにいるのならば、俺に代わって両親にゲンコツを入れておいてくれ!!」
まだ落ち着いてなかったようだ……
三十分後、支度をしてから家を出るコウスケ。そこに庭で草引きをしてるミユキがいた。
「アラ? 光介くんお出かけするの?」
「はい、さっそく活動してみようかと思って。ミユキさん、昨日はお祝いしてもらい有難うございました」
「いいのよ〜、光介くんには美咲を守って貰わないといけないから。あ、もしも探索者協会に行くなら岩男に伝言を頼みたいんだけど、良いかしら?」
「はい、大丈夫ですよ。何て伝えれば良いですか?」
「お母さんは、大事に取っておいたウィスキーを飲まれて怒ってますって伝えてくれるかしら? 岩男ったら私がとても大切に保管してたのを昨夜、主人と一緒になって飲みきったのよね。フフフ、だからちゃんと伝えてね、光介くん。主人には今朝になってちゃんと伝えたから、真っ青な顔をして役所に出かけてたわ、フフフ」
いつもニコニコ笑顔でコウスケに話しかけてくれるミユキ。この時も笑顔ではあったのだが、とても強い負のオーラをミユキから感じ、ミユキから届くそのプレッシャーは探索者養成高校一の実力者教員以上だった。
「はっ、はい! 必ず伝えます!」
思わず大きな声でハキハキと返事をしてしまうコウスケであった。
そして出かけた探索者協会。先ずは受付で今日から活動することを報告する。
「あの、本日より活動を始めるコウスケと言います。よろしくお願いします」
そう言いながら受付に探索者カードを差し出すコウスケ。受付のオジサンはそれを受取り、機械に通した。
「はい、コウスケさん。登録完了しました。コウスケさんの入れるダンジョンはこの街に二つある初級ダンジョンです。機関車公園と双子山ですね。これからの活動を協会は応援いたします。どうぞ頑張って下さい」
カードにはコウスケの属性が闇属性であることも記載されているが、この受付のオジサンは何も言わずに普通に受付をした。その事に内心でコウスケは感謝しつつ、そのオジサンに確認をしてみる。
「あの、上位ランカーで探索者のロックさんにご家族からの伝言を頼まれたのですが、どちらにいらっしゃるかご存知ないですか?」
「ああ、ロックさんなら今は協会長の部屋で打合せ中ですよ。少しアチラでお待ち下さい。時間が取れるのか確認をしてきますので。あ、名乗り遅れましたが私は受付担当の中林と申します。よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。中林さん」
とても感じの良い受付さんで、直ぐに席を立ちロックの都合を確認しに行ってくれた。
「ふう〜、第一関門は突破したぞ」
ひょっとしたら受付で闇属性ならば探索者になるのは辞めなさいと止められるかもと思っていたコウスケはそうはならなかったので安堵しながら中林が指し示した椅子に腰掛けた。
待つこと三分ほどでロックと共に中林が戻ってきた。
「何だ、光介。誰からの伝言だ?」
光介を見たロックがそう聞いてくる。コウスケはミユキから言われたままに、その言葉を伝えた。
「マッ、マジか? 母さんが、そう言ってたのかっ!?」
「はい、ミユキさんがそう言ってました。間違いなく俺は伝えましたからね。それじゃ、コレで」
しっかりとミユキからの伝言を伝えたコウスケはその場を去ろうとしたが、ロックによって止められた。
「待てっ、待てっ! コウスケ! 今日から探索者として活動だよな? 良し! 出血大サービスだ! 今日は俺がついていってやる。その代わり、俺と一緒に家に戻ってくれ、頼む!!」
最後には土下座しそうな勢いでそう頼むロックにコウスケは困った顔をした。
「ロックさん、俺が行くのは機関車公園だよ。初級ダンジョンだから、ロックさんに来てもらう訳には……」
「よろしいんじゃないですか。コウスケさんは今日が初日ですし、ロックさんほどの探索者が一緒ならば色々と教えて貰えると思いますよ」
断ろうとしたら受付の中林からそんな事を言われた。ロックはその言葉に乗っかってコウスケに言う。
「そうだぞ、コウスケ! 俺が手取り足取り基本を教えてやるから! なっ、頼むから俺と一緒に家に帰ると言ってくれ!!」
ロックも何とかミユキの怒りを少しでも抑えようと必死である。確かにコウスケが一緒ならそこまでミユキも怒りはしないだろう。けれどもそれはコウスケがいる間だけだろうにとコウスケは思っているが。
「それじゃあ、ロックさんがそれで良いならよろしくお願いします」
結局コウスケはロックと共にダンジョンに向かう事を了承した。
ダンジョンは初級(六、五級)、中級(四、三級)、上級(二、一級)に分かれていて、養成高校を卒業して探索者になったばかりのコウスケが入れるのは初級ダンジョンとなる。
今回向かう機関車公園は六級ダンジョンで、階層は五階層で手に入る素材も大した物ではない。
それでも半日ほど頑張れば手に入る素材を売った金額は二万円〜三万円ほどにはなる。一日の成果としては普通にサラリーマンとして働くよりは多い方だろう。
「いいか、光介。初級とはいえ中のモンスターは危険だ。養成高校で学んだとは思うが機関車公園に出るモンスターは?」
「はい、ロックさん。ジェリーと小鬼です」
「そうだ。ジェリーは体内の核を潰す事で倒せる。小鬼は角を切れば倒せる。なのに何でお前の持ってる武器は木刀なんだ?」
そう、コウスケが手にしているのは昭和の中学生が修学旅行で手に入れるような木刀だった。
「えっ!? ダメですか? 自分に合った武器を作るために三年前から準備して今日が初お披露目なんですけど」
コウスケの返事にロックはハア〜とため息を吐きながらも、
「分かった。先ずはそれでジェリーを倒してみろ。俺が見てやる」
とコウスケの木刀を認めた。
「はい。よろしくお願いします!」
機関車公園は半径が約二十五メートルの円形の公園で、ロックの祖父母が子供の頃は普通の公園だったらしい。
ダンジョンとなってからは地下に降りる階段が見つかり、最下層が地下五階だったので初級ダンジョン(六級)に認定された。
中にいるモンスターのジェリーは水玉型で五十センチほどの大きさだ。ドロップするのはジェリーの皮で、傘や雨合羽、又はビニールハウスに利用される。ビニールよりもかなり頑丈で、台風により木の枝などが飛んできても弾き返す強度を持っている。
地上部と地下一階に出るジェリーを前にコウスケは木刀でスパスパとジェリーを切っていた。
それを見て固まるロック。
「おい、光介! どうなってるんだ、その木刀!?」
たまらず五匹目のジェリーをコウスケが切った時に質問するロック。
「えっ? この木刀ですか? 何か
「取り敢えず一旦ダンジョンから出るぞ!」
ロックは強引にコウスケを連れてダンジョンの外に出たのだった。
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