闇属性で回復(治癒、治療)出来ないって誰が言った? 

しょうわな人

第1話 属性

 一人の男子生徒が本日、無事に通っていた高校を卒業した。

 

 公立探索者養成高校の卒業生である矢水光介やみこうすけは、校舎を後にしながらため息を吐いた。


「ハア〜…… 名字と字が違えども…… まさかの闇属性だなんて…… こりゃソロで頑張るしかないなぁ…… まっ、親も兄弟も親戚も居ないから文句はどこからも出ないから良いか」


 コウスケはそう言いながらも顔は憂鬱そうなままであった。


 公立探索者養成高校とは、世界各地にあるダンジョンを探索する能力を身につける為の高校である。中学までに特に身体能力に優れていたり、頭脳が著しく高い者を国が集めてこの高校に入学させる。

 家が遠い者は寮生になり食事も提供される。なので両親が事故で亡くなり一人暮らしをしていたコウスケは渡りに船とばかりに入学した。家が近いので寮生にはなれなかったが、昼食は寮の食事を無料で食べて良いと許可を得たからだ。


 公立ではなく私立でも探索者養成高校はあるが、現在上位ランカーと呼ばれる探索者は九割が私立の卒業生である。


 コウスケの住む国、日本ヒノモトだけでなく他の国でも探索者は属性を十八歳になると開花させるのが普通だ。属性は全部で六つあり、風、火、水、地、光、闇となっている。


【風属性】

 空気を自由自在に操る事が出来る。

【火属性】

 何もない所から火を生み出せる。

【水属性】

 何もない所から水を生み出せる。

【地属性】

 地面に落ちている物を利用できる。

【光属性】

 闇を打ち払う事が出来る。

【闇属性】

 光を覆い無くす事が出来る。


 などと簡単な説明を入学時に学ぶが、実際はそれだけで無いことを卒業生は知っている。

 風属性は空気を圧縮したり、無くす事も可能である。

 火属性ならば生み出した火を自分の好きな形に変えて打ち出したりする事も可能だ。

 水属性ならば体内に循環する血液を浄化したりも出来る。

 地属性であれば植物をも利用する事が可能である。

 光属性は雷を利用でき、その光で病を治療する事も出来る。


 稀にいる二属性持ちともなれば風と火の属性持ちならば火属性だけの者よりもより強力な火力を得たり出来る。


 探索者上位ランカーの一割は二属性ダブル持ちである。


 そして闇属性であるが……


 闇という言葉から連想されるのが悪いイメージなので研究する者も公にはおらず、定説としてダンジョン内にいるモンスターの力と同義とされている為に、闇属性を持つ者は探索者として生活する者はいないのが現状である。

 なにせ闇属性だとバレただけで五十年前にはモンスターだと言われて探索中にダンジョン内で他の属性の探索者から攻撃されてしまったらしい。

 今では国からの通達でそんな事はされないとなっているが、闇属性だとパーティーを組んでくれる仲間などは居らず、ソロで活動するのが当たり前なので、中ランクダンジョンにも入れずに稼げないので、探索者になる者が居ないのが現状だ。

 闇属性だと分かった者はひっそりと隠れて、自分の属性なんて知りませんよという顔で一般人として生きている。


 そんな闇属性を得たコウスケだが、それでも探索者となって大成してやると内心で思っており、それがとても大変な事なのも理解しているからこそ、ため息を吐いているのだった。


「けどなぁ…… まさかと思ってたけど闇属性とはなぁ…… どうせなら名前の方に因んで光属性であってくれたらな…… まっ、今さら言ってもしょうがないけどな。それよりも先ずは初級のダンジョンで小銭を稼ぎなから、レベルアップだな。闇属性って研究されてないからレベルが上がったらどんな能力が身につくのか分かってないからな。探り探り焦らずにやって行こう!」


「コウちゃん! 待ってよ!」


 そう思い取り敢えず今日は大人しく家に帰ろうとしたコウスケに声がかかった。


「なんだ、美咲ミサキ? 何か用事か?」


「もう! 今日はうちで卒業祝いと就職祝いをするから来てねってお父さんもお母さんも言ってたでしょう! まさか忘れてたの?」


 コウスケは隣の家に住むミサキとは幼馴染である。コウスケの両親が存命の頃から家族ぐるみで付合いがあったし、ミサキの両親はコウスケの両親が亡くなってからも一人暮らしになったコウスケを何かと気にかけてくれているのだ。


「いや、でもだな? アレは俺の属性が分かる前の話だろ? 俺は闇属性だったからな。これからは独りソロでダンジョンに潜るようになるし、両親のようにいつ亡くなるか分からないんだから、祝いなんていいよ」


「ダメーッ! 絶対にダメだからね、コウちゃん! それにこれから一年間は独りソロかも知れないけど、来年には私も学校を卒業するから、そしたら一緒に探索するのっ!! 分かった、コウちゃん!?」


 コウスケより一つ年下のミサキも公立探索者養成高校に通っており、既に探索者資格は有している。来年の卒業時に属性検査をすれば晴れて探索者となる。


「いやいや、それこそダメだろ? 闇属性だぞ、ミサキ。分かってるのか? トオルさんもミユキさんもそんな奴と探索なんてさせられるかって言うと思うぞ」


 コウスケが言うようにそれが一般人の反応だろう。しかし、


「甘いっ!! コウちゃんはうちの両親を甘く見過ぎてる!! 例えコウちゃんが闇属性だろうが、何処の誰とも知らない男性と一緒にパーティーを組むよりかは、コウちゃんの方が良いって絶対に言うよ! お兄ちゃんもね!!」


 ミサキの兄である岩男イワオは水属性と地属性を持つダブルで、ヒノモトの上位ランカー五十人の中に入っている。順位は五番だ。


「え〜…… ロックさんからは絶対に反対されると思うけどな?」


 イワオは自分の名前が気に入らないようで、探索者ロックと名乗っているのでコウスケはそう呼んでいる。 その端正で整った顔立ちに名前が似合わないというのもコウスケがロックと呼ぶ理由の一つだ。


「そんな事ないよ! お兄ちゃんだってコウちゃんの事をすっごく信頼してるんだからね!」


 そう言いながら半ば強引にコウスケを自分の家に招き入れるミサキ。


「ただいま〜、コウちゃんも一緒だよ、お母さん!」


「アラアラ? おかえりなさい、美咲。光介くん、無事に卒業、おめでとう。それに探索者としての就職もおめでとう!!」


「あ、ああ、有難うございます。ミユキさん。でも俺、闇属性だったので……」


「アラ? そうだったの。やっぱり親子ねぇ。あなたのご両親も二人とも闇属性だったらしいからちゃんと受け継がれたのね」


 サラッとコウスケの知らなかった事実を言うミユキに驚愕の視線を向けるコウスケ。


「えっ!? ええーっ!! そ、それ、ホントですか、ミユキさん?」


「アラ? 光介くんは知らなかったのかしら?」


「いや、知りませんよ、親の属性が何かなんて。探索者だったのは知ってましたけど」 


「そうだったのね。まあ慎也さんも響子さんも忙しかったからね。それに最後はたくさんの探索者を助けて自分たちが犠牲になってしまったしね…… でも、光介くんは二人と同じような道を辿っちゃダメよ。美咲をちゃんと守れるような探索者を目指してちょうだいね」


「えっと、あの、一年後にミサキと俺がパーティーを組んでも良いんですか?」 


「勿論よ〜。主人も岩男も賛成してるわよ。さ、あの二人ももうすぐ帰ってくるから光介くんも早く上がってちょうだい!」


 ミユキの言葉に嬉しく思いながらも、先ほど知った自分の両親も闇属性だったという事実にコウスケは思い悩むのだった。


『えっと…… 親父やお袋が亡くなったのは四年前の大暴走時だったよな。あの時は厳戒命令が政府から出て、上位ランカー探索者以外は外出禁止だった…… って、今さら気付いたけど俺の両親って上位ランカーだったのか!?』


 ただ単に探索中に逃げ遅れて亡くなったと思っていたコウスケは、今さらながら真実に気がつき愕然とした。


 そんなコウスケにミユキが声をかける。


「はい、光介くん。これは響子さんからの手紙よ。自分にもしもの事があって、光介くんが探索者への道に進んだならば渡して欲しいって頼まれてたの」


 一通の封書を手渡されたコウスケは家に戻ってから読みますとミユキに言った。


「そうね、今日はお祝いなんだから落ち着いてから読んでみれば良いわ。あ、慎也さんからの手紙は主人から受け取ってちょうだいね」


 と、父親からの手紙もある事を知らせてくれるミユキ。


「はい」


 と返事をして母親からの手紙を胸ポケットにしまったコウスケの耳に、この家の主であるトオルが帰ってきた声が聞こえた。


「ただいま〜、美幸、美咲。そこで岩男に会ったから一緒に帰ってきたよ〜」


「おかえりなさ〜い! 光介くんももう来てるわよ、あなた」


「おう! おめでとう、光介くん。ささっ、今日はお祝いだーっ! 飲め、飲め!!」


「ダメですよ、父さん。光介はまだ未成年です!」


「何を言ってるんだ岩男! この間、国が正式に発表しただろう? これからは十八歳で成人だって?」


「アレには但し書きがついてたでしょう、父さん。但し、お酒とタバコは二十歳からだと」


「ん? そうだったのか? でも成人だぞ、成人!」


「それでもダメなものはダメですよ」


 「うん、安定の親子の会話だ」とコウスケは思いながらも、トオルにもお礼を言った。


「有難うございます、トオルさん。俺もお酒は二十歳になってからにしますね。ロックさん、今日は俺の為に忙しいのに有難う」


「何だってそんなに真面目なんだ、光介くん! 本当にあの慎也の子供なのか?」


「光介、水臭いことを言うな。お前の為なら俺はいつでも時間を作るよ」


 この人たちが隣に住んでいて、仲良くしてくれて本当に良かったとコウスケは心から思った。

 

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