最善の悪夢

分倍河原 秀明

序章

広がる理想

                    



 目の前には原っぱがある。

 グルッと囲むように木々が生い茂り、奥には湖がある。

 木々は終わりが見えないほど広がっている。

 湖の近くには庭においてあるような白いテーブルと椅子がありそこには女の子が一人で座っていた。

 自分がいるところからは少し距離があるように感じるが、それでもかなり美しく見える。

 白のワンピースに白のサンダル、長く黒い髪。

 僕は自然とあちら側へ歩き出す。

 テーブルの近くに来ると彼女はニコニコしながら言った。



「こんにちは。お茶でもいかが?」



 かなりタイプの顔。

 年の差はあまりないように感じる。

 おとなしそうな顔で大人びている気がし、肌はきめ細かく白い。

 僕と女の子の席にはそれぞれ紅茶とケーキが置いてある。

 僕が座ると女の子は話しだした。



「ここ、とてもきれいですよね。私大好きなんです」



 たしかにここはきれいだ。

 来たことはないし、見たこともない。

 でも、ものすごく来たかった場所のように感じる。

 記憶の中にあるような感覚。



「ここはどこなんですか?」



「君がいたい場所じゃないの?大輝くん」



「なんで俺の名前を?」



「まあ、大輝っぽい顔してるもん」



 わけがわからない。

 ミステリアスな女を気取られるのは少しムカつく。

 でも、不思議な雰囲気があるのはわかる。

 女の子はずっと微笑んでおり、ずっと僕を見ている。



「私はね、あなたのためにここにいるんだ。あなたとお茶をして、話して、楽しみ合いたい、喜び合いたいの。でも今の貴方にはそれができない」



 ますます訳が分からない。

 だが、何か違和感があるように感じる。

 体が身構えてしまう。



「大丈夫、どうにかしてあげる。あなたもあっちも、どっちも悪い。でしょ?」



 女の人はずっとニコニコしながら話している。

 心臓が締め付けられるような感覚が来る。

 置いてあるケーキと紅茶に手がつけられない。

 逃げ出したい気分だ。



「あなたがこのままなのはあなたが良くても私が良くない。あなたは性格上自分では何も解決できないことを知ってるの」



 気持ち悪い。

 何がどうにかしてあげるだ。

 寄り添われるのは嫌いだ。

 自分のことを一番わかっているのは自分だ、他人がわかるわけがない。

 わかりあえるわけがない。

 自分が恥ずかしくてならない。

 次に何を言われるか不安で仕方ない。

 何に関して言っているのかが何となくわかってきた。

 いや、ずっとわかっていた気がする。

 早く逃げ出したい。

 もう何も言われたくない。

 帰りたい。



「だからこそ、最善を選ばせてもらう。あなたが変わるまで、変わろうとするまで。辛いかもしれないけど、まあ、大丈夫でしょ。そんぐらいしないとあなたのその小難しい考え方は変わらないだろうし。あっ、あともうちょっとで終わっちゃう。私はこれを言うことしかできないからあとはあなた次第。ね?」



 最後に女の子が見たのは僕ではなく僕の隣だった。

 見るとそこには今までいなかった人型の黒い何かがいた。

 2つある目はじっと僕を見つめている。

 その瞬間僕は目が覚めた。










 




































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最善の悪夢 分倍河原 秀明 @bubaigawarahideaki

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