第10話
母親との確執があると知っていても、鍾太郎はアカネがそこまで女性嫌いでいられることが理解できない。
自分がアカネの立場だったら。正直、噂も何も無ければ凛珠に言い寄られてなびかない自信は無い。今まで見てきた女の子の中でも凛珠は一番を争えるくらいに綺麗な顔をしているし、スラリとした四肢を持ちながらも胸は豊かだ。それでいて小柄で、どこか小動物のような雰囲気もある。
無造作に切られた前下りな髪も、伸ばして切り揃えればどこかのモデルくらい綺麗な女の子になると思う。
そんな女の子にも、アカネは微塵も動かない。
面白半分に声をかけてきた女達と何度か遊んだことはあるくせに。
この男が心を動かすのは、いつだって喧嘩と抗争だった。序列制を一番楽しんでいるのもアカネだと思う。むしろ、喧嘩をするためにこの制度を決めたんじゃないだろうか。
「アカネって謎だよなー。」
「あ? てめェなんだいきなり。喧嘩売ってんのか?」
「売ってねーよ。いつでも血気盛んだな。さっき散々大暴れしてきたの誰だよ。」
ふと漏らした言葉をきっちり拾った短気な友人は、遠慮なく鍾太郎を睨んでくる。
ここ最近傘下に加えたチームから喧嘩を売られ、それを返り討ちにしたのはつい先刻の話だ。だというのに、この男ときたらまだ暴れ足りないらしい。
「そーだアカネ」
一体何を思いついたのか。アカネの前に踊り出た洋平がその肩を組んだ。
「あ?」
「俺とお前。どっちにとっても良い話があんだけど。話っつーか、提案?」
洋平がそう言った時点で、鍾太郎、泰河、良の三人はその話がろくなものじゃないことを悟る。こういう笑顔で洋平が何か持ち掛けてくる時は、大抵内容がまともじゃない事はよく知っていた。
「俺さぁ、今好きな子いんだよね。スミレちゃんっていう、すっごい可愛い女の子。」
「だから」
「その子さぁ、守ってあげなきゃ生きていけない感じの子なの。」
「だから?」
洋平が言葉を紡ぐたび、アカネの機嫌が悪くなる。
──あーほら、洋平の奴またアカネの地雷踏みに行ってるよ。
──なんでアカネ相手に女の子の話すんだろーなー、あいつ。見ろよアカネのあの嫌そうなカオ。
──よへくん知っててそーゆーこと言う子だし、ほっとこ。
三人で顔を見合わせ、視線でそう会話をすると自分達に害が及ばないよう一歩離れる。そこからアカネと洋平の会話を見守った。
ちょっとした事をきっかけにアカネと洋平が喧嘩に発展する場面はもう何度も見てきた。毎度喧嘩に勝つのはアカネだが、それでも懲りずに突っかかりに行く洋平が理解できない。命知らずか、もしくは好きで突っかかってるんじゃないかと思う。
尤も、本当に命知らずなのはアカネの方だが。
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