第11話
「俺としても不本意なんだけどよー、RAVENで一番強いのお前じゃん?」
「それがなんだよ」
否定しないところがアカネらしい。
「スミレちゃんの彼氏のフリしてくんね?」
その瞬間、アカネが洋平の胸ぐらを掴み上げた。ほらぁ、と三人はまた視線を交わす。
──何言ってんだよ洋平、そんなんアカネが良いって言うわけないだろ。
──メリットどころか、どっちにもデメリットじゃね? てか、喧嘩したら誰止めに行く?
──ほら、よへくんそういう子だから。俺やだよ、しょたくんか泰河行ってよね。
「てめェナメてんのか? それのどこが俺にとって良い話なんだよオイ」
三人の心配は的中するかもしれない。アカネと洋平の間に流れる空気は、どう見ても穏やかではなかった。
「んな怒んなって。フリって言ってるだろー? ホントにカレカノっぽいことしろってわけじゃねーし。名前だけ貸してくんね?」
「断る」
「まぁ聞けって。偽装で彼女いるってことにしとけば、アカネも女避けできるじゃん? 磁石ちゃん対策ってことでさ。ほら、良い話だろ?」
つまり、アカネは名前を貸すだけで鬱陶しい思いをしなくなり、洋平は意中の少女を周りに牽制できるというわけだ。
洋平を睨んでいたアカネの表情が、ほんの一瞬思案した。そして、何も言わずに洋平を離す。
「な? どーよ、俺の提案。悪くねーだろ?」
「……好きにしろ」
アカネの後ろ姿は不機嫌。それに対し、洋平は満足そうだった。
何はともあれ、喧嘩に発展しなかったのは良い。後ろで成り行きを見守っていた三人は、ホッと胸を撫で下ろした。
いつも通り、校門の近くで凛珠はアカネを見かけて駆け寄った。
「アカネくん、おはよう!」
アカネは今日も凛珠を見てくれない。でもいつものことだから気にしない。
本当に?
いや、昨日紫音と話したばかりだ。アカネが卒業するまでは頑張ると決めたのだから。
いつもと違うのは、この時点で洋平がアカネと一緒にいることくらいだ。二人が会うのは、普段だったらもう少し後だ。今日はたまたま来る途中で一緒になったのだろうか。
「ごめんねー磁石ちゃん。アカネ彼女できたの。」
「かのじょ。」
「そー彼女。だからさぁ、もう話しかけないでくんね? 彼女ちゃんが見たら誤解して泣いちゃうじゃん。」
凛珠とアカネの間を隔てて立つ洋平。笑顔ではあるけれど、その目はやっぱり冷たくて怖かった。
「アカネくん、ほんと?」
答えてくれるわけがないと知っていても、聞いてしまう。女の子が嫌いで、会話どころか目さえ合わせようとしないアカネに、彼女?
だって、凛珠の知っている彼氏彼女というのは、陸と紫音だ。陸みたいにアカネが、一人の女の子を大切にする? 想像できない。
疑問を抱く凛珠を置いて、「じゃ、言ったから」と洋平はアカネの横を歩いて行く。案の定、アカネが凛珠の問いに答えることはなかった。
本当なのだろうか。彼女がいるなら、諦めるべきか。けど本当の話か分からない。諦めるなら、ちゃんと納得して諦めたい。やっぱり、昼休みにアカネに聞いてみよう。
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