第5話

コーラを片手に洋平を野次るのは、RAVENの現状第三位、櫻庭さくらば鍾太郎しょうたろう


アカネの恩恵に預かり金のメッシュを入れている洋平と違い、鍾太郎の髪色は茶色に留められている。もちろんピアスも開けていない。


中学生の頃からずっとつるんでいる五人の中で、一番爽やかで真面目な印象を与える。と言っても、鍾太郎の姿こそ本来生徒として普通なのだが。


窓際ではピンク色の頭が寝ている。おそらくこの学校で一番派手な髪をしている男が喜戸良きどりょう、鍾太郎の横にいる茶髪が赤松あかまつ泰河たいがだ。この二人は暇さえあればじゃれ合うように喧嘩をするため、しょっちゅう序列が入れ替わる。


ここにいる五人こそ、RAVENを結成したメンバーだ。たった五人しかいなかったガキの集まりが、アンダーグラウンド一番のチームになるなんて。一体誰が予想しただろう。


もしかしたら、アカネは考えてたいたかもしれない。



「しっかし、磁石ちゃんもすげぇ根性だよなー。女嫌いのアカネによくもまぁ毎日飽きもせずに言い寄れるもんだ。」


「バカだからじゃねーの。」


「アカネひどっ。たしかに、あの子頭弱そーだもんな。それより俺は、よーへいもよく飽きねーなーって思ってるけど。」


「飽きてるに決まってんだろ。そう言うならてめーが代われや鍾太郎」


「遠慮しとく。よく分かんねぇもんあの子。泰河に譲る。」


「は? ビッチの相手なんかするかよ。こういうのは良だろ。」



寝ているのを良いことに、友人に押し付ける三人。アカネはとっくに会話に加わっていないようだ。



「てかさー、なんであの子男好きの割にあんななん?」


「はん? どゆこと鍾太郎。」



ふと疑問を口にした鍾太郎に、泰河が首を傾げる。



「もっと見た目がギャルとかなら分かるけどさ、そうじゃねーじゃん。」



関わりは無いとはいえ、凛珠の見た目くらいは知っている。ビッチと言われているのに、遊んでいるような格好をしていないことが鍾太郎はなんとなく不思議だった。



「あー……言われてみればたしかに。洋平、毎朝近くで見てるだろ。どう?」


「どうとか言われても知らんし。興味ないね。」


「あっ! 人は見た目によらずってことじゃね? あーいう子こそ、的な! 一理あるくね? なぁアカネ」


「あ?」



泰河に話を振られたアカネが、面倒臭そうな声を出す。



「毎朝捕まってるアカネの意見は?」



楽しそうにニヤニヤ笑う洋平を見て、アカネは苛立たしげに舌打ちをした。洋平はアカネが凛珠に絡まれて鬱陶しがっているのを、多少は面白がっているらしい。



「あんな女のことなんざクッソどうでもいい」


「わー、かわいそ。あんな健気にアピってんのに。『アカネくん!』て。」


「洋平雑すぎ。似てねぇ。」



面白半分に凛珠の真似をした洋平に鍾太郎が突っ込む。


五人にとって学校は単なる暇つぶしの場所でしかない。いや、その暇すら潰せていないのが正直なところだ。勉強どうこうより、危険な街で遊ぶ方が面白かった。


他のチームとの喧嘩も面白いが、それ以上に二年ほど前から決めた“ルール”が刺激を与えてくれる。


RAVENはアカネをトップに据えたチームだったが、他のチームを傘下に加えていくにつれチーム内での抗争が増えてきた。


それを解決するために決めたルールこそ、この序列制だ。


それは至極単純なもの。喧嘩に勝てば序列が上がる。負ければ下がる。順位がそのまま、力の強さを表す。


チームの一位になれば、誰だろうとRAVENの頭になれる。アカネでなくとも、だ。


アカネの投げたバタフライナイフが缶に当たり、高い金属音を立てて積まれた缶が崩れる。


ナイフの刃は出ていない。鈍色の柄に埋め込まれた、赤い石が太陽の光を受けて輝く。


それを拾い上げて、柄のストッパーを指で弾くアカネ。手遊びに回せば、刃が空気を切り裂く小気味いい音が鳴った。


「……どーせ暇だし、今から行くかァ」


「学校来たばっかだってのに? いいねぇ、早退といきますか」



アカネの提案に洋平が乗る。反対を示す者はもちろん誰もいなかった。

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