第4話
凛珠を見ずに言うアカネと、仕方なさそうに笑う洋平。“磁石ちゃん”というのは凛珠のことらしい。凛珠がいつもアカネにくっついていることから、洋平はそう呼んでいる。
たしかに、アカネと話したいからいつもアカネの所にいる。けどそう呼ばれてもあまり嬉しくはない。それどころかちょっと不快だ。馬鹿にされていると分かるから。
「磁石ちゃん、俺が送ってやるから教室行こ?」
「いいです。一人で行けます。」
「遠慮すんなって」
圧のある笑顔で洋平は凛珠の肩を掴んで、二年生の廊下まで連れて行く。アカネを怖いと思ったことはないけれど、この人はなんだか怖くて苦手だ。
「見て、
「RAVENの上位なら誰でもしっぽ振る女だもんね。」
「アカネさんが尻軽女なんか相手にするわけないのに。いい加減、自分が何とも思われてないの字画できないの?」
ヒソヒソと、でもしっかり聞こえてくる言葉の棘。自分を嗤う声には慣れている。
母親に捨てられた子。片親の貧しい子。
どうやら母親は不倫して出て行ったらしい。父親も、子供を置いて遊んでるから家にいないんじゃないか。
否定できない事実から、全く根拠も何も無いデマまで、いつだって双子を中傷する言葉は凛珠に付き
その度に凛珠を守ってくれたのは兄だった。兄の存在がある限り、誰に何を言われても大丈夫だ。
「じゃあな磁石ちゃん。もう来んなよ、つっても無駄か。」
凛珠を教室へ放ると、一仕事終わったとばかりに洋平は廊下へ出て行く。
「ちゃんと教室まで送り届けてきましたよー、我が君。」
自分の教室──ではなく、自分達が陣取っている空き教室に洋平が戻れば、積み上げた空き缶を的にお気に入りのバタフライナイフで遊ぶアカネの姿。それを横目にじゃれ合う他のメンバー。
当然、一時間目の授業をサボるつもりで全員ここにいる。
「おいおい、学校で出すなよそんなモン。バレたら取られんぞ。」
ごもっともな洋平の言葉にも、アカネは鼻で笑うだけ。
「俺の家にビビってなんも言えねぇクソ教室共が取り上げると思うか?」
どこか自嘲的に笑いながら、アカネは手遊びをやめない。アカネが言っていることは洋平も分かる。その証拠に、アカネが派手なピアスを開けようがその黒い髪の内側に鮮やかな赤を入れようが、彼らは指導どころか注意の一つもしなかった。
もちろん、ピアスも髪染めも校則で禁止されている。「まぁ、おかげでアカネと行動してる俺らも自由にできるし」と考える洋平達にはありがたい限りだった。
「ま、そーだな。何せアングラのトップ、天下のアカネ様相手じゃあな。」
「天下って、アンダーグラウンドは地下だろ。」
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