第3話
鏡の前で、凛珠は今日も気合いを入れて身だしなみを整える。とは言っても、大したことはしていない。寝癖が酷くないか、とか、そんな程度だ。
つり目がちな目も高い鼻も、女の子としてはあんまり可愛い顔じゃないんだろうけれど。陸とそっくりな自分の顔が凛珠は好き。
「凛珠ー、先出るぞー。鍵ちゃんと閉めろよ?」
「はーい。」
いつも先にアパートを出るのは陸だ。兄が出た十分後くらいに、凛珠もアパートを出る。
──今日も朝から会えるかな〜。
誰に? それはもちろん“アカネくん”だ。“アカネくん”に会えなかったら皆勤で通う意味が無い。陸には「相手にされないくせに」と言われたが、凛珠にとってこれはもう毎朝のルーティンなのだ。
ところで、自分はいつから“アカネくん”に話しかけていたんだっけ。“アカネくん”を好きになったのはいつだったっけ。いや、そんなことは今は重要ではない。
校門の前で、目当ての人を見つける。至極だるそうな後ろ姿。間違えるはずがない。“アカネくん”だ。
「アカネくん、おはよう!」
「……。」
凛珠を視界にすら入れてくれないアカネ。今日もクールでかっこいい。挨拶を返してくれないなんていつものことだから、今さら気にしない。それに、そういう態度を取ってくるのは何もアカネに限ったことじゃないし。
アカネが女の子に挨拶を返してるところだって、一度だって見たことがない。だからそういうものなんだと、凛珠は納得している。
アカネは裕福な
この誰も寄せ付けないオーラに加え、かの有名なアンダーグラウンドで最も勢力のあるチーム、RAVENの序列第一位。まさに孤高の王様。
──かっこいいなぁ。
その綺麗な横顔を見ながら、昨日学校であったことなどを凛珠が一方的に話す。
たとえ相槌を返してくれたことがなくても、あまりにも楽しそうに凛珠が楽しそうに話すものだから、傍から見ればさしずめ幼なじみの二人が仲良く歩いている、といったところだろうか。もちろんそうではないことは、凛珠も分かっている。
それでも凛珠を追い払わないのだから、アカネは優しい。もしアカネが隣を歩くことすら許してくれなかったら、凛珠はずっと独りぼっちで一日を過ごすことになるのだから。
この時間だけでも誰かと、それもアカネといられるなら返事なんか無くても十分だ。
とはいえ、幸せな時間が長く続くことはなくて。大体いつも、玄関辺りでアカネの友人でありRAVEN第二位の男、
「よぉアカネ。今日も今日とて磁石ちゃんに絡まれてんなー。」
「うぜェから追い返してこい」
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