1 ビッチと王様
第2話
「それでね、今日はね、」
「あーはいはい。“アカネくん”の話は分かったから早く飯食えって。今日の皿洗いオレなんだから。」
キラキラと目を輝かせて、今日あった出来事を話す凛珠。その凛珠の話を呆れたように遮るのは、彼女の双子の兄、陸だ。
「話くらい聞いてくれてもいいのに。」
「聞いてるって毎日。凛珠もよく飽きねーよなぁ。全く相手にさるてないんだろ?」
「うるさいなぁ。」
現在アパートにいるのは凛珠と陸の二人だけ。母は双子がまだ小さい頃、離婚して家を出て、それっきり。父は双子を養うために長距離トラックの運転手として働きっぱなしで、滅多に家に帰って来ない。
──でも全然寂しくないもん。りずにはお兄ちゃんがいるから。
「じゃあいいよー? りずの話じゃなくてお兄ちゃんの話聞くから。陸は
「何かって……別になんもないし。」
「嘘ばっか。照れてるじゃん。何あったの?」
陸はてれると絶対に顔を逸らす。絶対にだ。そうでなくとも、双子の凛珠に陸のことで分からないことなんて一つも無い。
「ねーねー、紫音と何あったの!」
「なんも無い! あっても言わない!」
「ケチ!」
「いーから飯食えよ」
教えろ、と騒ぐ妹をあしらい、陸は食事を続ける。
紫音というのは陸の彼女で、凛珠の親友だ。小学校から中学校まで、凛珠達は三人でいつも遊んでいた。
両片想い中の二人から事あるごとに相談を持ち掛けられていたのは、他でもない凛珠。凛珠はその時間がとても楽しかった。自分だけが全て知っていて、だからこそちょっともどかしくて。二人と過ごす時間は何よりもキラキラしていた。
だから高校は凛珠だけ別であることが、たまに寂しく思ってみたり。
「それよりさ、凛珠はそっち一人で大丈夫なわけ?」
さすが兄と言うべきか、陸はよく凛珠の考えていることや感じていることを言い当ててくる。
単純に凛珠を心配しているのもあるだろうけれど。
陸が自分を心配してくれている気持ちは、当然凛珠も分かっている。
「うん、大丈夫。自分で決めたことだもん。」
「“アカネくん”に会いたくて高校選んだことのどこが『自分で決めた』んだよ。」
陸に言われ、凛珠がギクリと肩を震わせる。凛珠が今の高校を選んだ理由。好きな人に会いたいから。ただそれだけ。そんな理由で、陸、紫音とは別の高校に通うことにした。
それでも一年経ったのに心配性な兄は未だにこうして聞いてくる。
無理もない。産まれた時からずっと、双子は一緒だった。幼稚園も小学校も中学校も、ずっと。それが離れ離れになったのだから、心配するのは当然だ。
とはいえ凛珠も陸ももう高校生。子供と呼ぶには十分大きくなってしまった。そこまで心配されずとも大丈夫だ。
「はいはい、りずのことはいーから紫音と二人きりなのを楽しみなよ。あー、二人が学校の中で仲良くしてるのを見れないのが少し残念かなー。」
「うるせー。凛珠こそ相手にされないくせによくやるよ。」
「アカネくんは高嶺の花なの! そんな簡単に女の子の相手したりしないんだから。」
陸とは毎日こうやって軽口を叩き合う。なんだかんだ言いながら、でもそれが楽しい。
だって、凛珠と陸は唯一無二だから。
兄がいれば、どんな嫌なことがあっても凛珠は乗り越えることができた。
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