新撰組は呪われたがる。-禁忌を冒してまで貫きたい忠義がある-

6勝手目 冷たい唐揚げ(2)

◇

　また目が覚めた。スズメが朝を知らせる声がする。

　見慣れたカーテン、嗅ぎ慣れた掛け布団。私の部屋だ。

　アレは――夢だったと思う。けど、足にはしっかりと握られた感触が残っている。痣もある。

　夢なのか現実なのか、もう全てが意味不明。寝ても覚めても非日常。

　寝ていたのに呼吸が乱れていて、汗までかいていて気持ちが悪い。

「随分うなされてたな」

「……」

　ベッドの脇で土方が頬杖をつきながら言う。笑うなら笑えよって言い返したいけど、それも億劫。

　言葉にならない感情があふれて胸と喉の奥を苦しくさせると、涙がボロボロっと出てきた。

　ゴーッ――っと音がする。地鳴りだ。そしてすぐにハンマーで地面を殴ったような大きな縦揺れが襲う。

　土方がすぐに私の左手を握った。何も言わず、私をじっと見ている。

　土方なんかに助けてもらいたくないから、鼻をすすり、心を落ち着けると地震はすぐに止んだ。

　本当なんだ。

　私が泣くと、災害が起きちゃうの。ほら、携帯の通知音が震度5強の揺れがあったって知らせてくれる。

　私が泣いてすぐに来たんだから、震源地は私。だから通知の震源地も仙台市になっている。

「洋ちゃぁーん、大丈夫！？」

　晴太くんが階段を駆け上がって、心配する声が聞こえる。土方は、やれやれと握っていた手を離した。

「今のはたまたまの地震だよね……って――なぁんで守がここにいるのさぁ！」

「沖田1人じゃあ火事場泥棒とかが心配でな」

「夜通しいたの！？　なんかしたの！？　ねぇ！」

「何もしとらん。沖田、着替えたら家へ来い。腹、減ってるだろ」

　そう言って騒ぐ晴太くんを押しながら、何もなかったみたいに部屋を出ていく。

　何か言えばいいのに。腹減ってるだろ？　そんな気分じゃないって。

　1人になった部屋で、夢を思い出してみた。けれど、頭が思い出したくないって言って、男から言われた言葉だけしか再生されない。

　服を着替えている間も、頭でずっと回ってる。

　いつものショートパンツ、ワイシャツとパーカーに腕を通し、髪の毛を結ってバレッタで止めた。

　あとは靴下だけだ。いつものくるぶし丈の靴下じゃ痣が見える。呪いの象徴って感じがカッコ悪い。

　引き出しが飛び出たタンスから、ニーハイソックスを引っ張り出して、太ももの真ん中あたりまで上げてみる。

　痣は隠れたのに、私らしくなくて機嫌が悪くなりそう。

　はぁとため息一つついた。そしたら、お腹がぐうとなる。

　呪われても、お腹は空く。バカくさいな。それでも土方の家に行く気にはなれない。おじさんやおばさんに、足のことを聞かれてもなんて言っていいかわからない。

　一階にある冷蔵庫の中を開けて、食べられるものを探す。お母さんが地震が起きた晩に作った唐揚げが、白くなった状態で残っている。

　停電で電子レンジは使えない。仕方がないから、手で掴んで、口に運んだ。冷たいけど、お母さんの味がする。

　いつもはお母さんが「温めてあげるからね」って言ってくれた。

　だから、毎日温かいご飯しか食べたことがないのに。

　朝と夜のご飯はお父さんとお母さんといつも一緒だった。お昼は土方と。いつも誰かと食べてたのに、1人で食べるのが当たり前になるのかもしれない。

「1人の方が気楽だし」

　強がってみたけど。誰に向かって？　

　ずっと生きるって、そういうことだ。