第11話

 京子が顔を真っ赤にして「聞こえない、聞こえない!」と耳をふさいでいると、渚の柔らかな声が少し優しくなり、ふっと笑う音が聞こえた。


「京子さん、本当に気にしてたんですね」


「……そ、そういうわけじゃないけどー?」


 耳をふさいでいた手をそっと下ろし、京子は小さな声で言い訳をする。渚に本心を見透かされているのが恥ずかしく、視線をそらしたくなった。


 電話越しとはいえ、その微笑む顔が浮かんでくる気がして、胸が締め付けられるような不思議な感覚が広がる。


「そうなんですね。でも、京子さんがそんな風に思ってくれてたの、ちょっと嬉しいです」


「え……?」


 渚の言葉に驚いて、京子は思わず無意識に握りしめていた布団を強く掴んだ。心臓が急に跳ねるように鼓動を打ち、さっきまでの安堵感がまた別の感情に変わっていくのがわかる。


「え、そ、それどういう意味……?」


「どういう意味でしょうね」


 渚の笑い声がまた聞こえてきたが、それがどんな意味なのか、裏に何かがあるのかうまく掴み取れない。京子の頭は困惑と動揺でいっぱいになり、何を言えばいいのか分からなくなってしまう。


「……白沢さんって、やっぱり意地悪」


「ふふっ、ごめんなさい。でも、京子さんの反応が可愛くてつい」


 渚の柔らかな声が京子の耳に心地よく響く。京子は再び顔が熱くなるのを感じ、思わず布団に顔をうずめてしまった。渚にとっては軽い冗談かもしれないが、京子にとっては心が揺さぶられるだけだ。


 しばらく沈黙が続いたが、渚が穏やかな声で切り出した。


「来週の週末、遊びに行きましょう」


「えっ……?」


 急な誘いに心臓がまた高鳴った。少し前までの気まずさと相反して、新たな期待が膨らんでいく。


「いいけど……なんで?」


「京子さんと一緒にどこか行きたいなーって思ってたんです。せっかくこうして一緒になれたんですから」


 京子はその言葉に驚きつつも、胸がじんわりと温かくなるのを感じた。渚が自分との時間を大切に思ってくれていることが、嬉しくてたまらなかった。


「そっか……うん、あたしも行きたい。どこ行く?」


「んーそうだなぁ、お買い物、手伝って欲しいです。駅らへんはどうです?」


「……渚と一緒なら、別にどこでもいい」


 言った瞬間、京子は自分の言葉の恥ずかしさにハッと気づき、また顔が赤くなる。だが、渚の優しい声がすぐに返ってきた。


「ならそこで。デート、楽しみですね」


「うあっ、……もう、からかいすぎ! そんなの真に受けないから! もう切る!」


「はーい。じゃたまた明日会いましょう」


「……ん、また明日」


 電話を切った後、京子は心が温かく満たされているのを感じた。ベッドに横たわり、天井を見つめながら、渚との週末のことを想像し、自然と笑顔がこぼれる。

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