2.私は猫である。名前は――

 酷く混乱し、狼狽した。


 猫なのに。


 でも、当たり前だ。


 自分が死んだという衝撃の事実――


 それを他人(石像)から教えられたのだから――


 だが、その混乱すらも上回る混乱が起きた。


 石像が放ったあの言葉――



 そうかも……?


 なんだその曖昧な受け答えは。


『言葉のままです』


 いや、だから混乱しているのだけども。


『なんと言えばいいのでしょうか。困りましたね』


 困ることもないだろ。


 君は私に、転生したと言った。


『はい』


 そして、転生とは生まれ変わるという意味だと言った。


『そうですね』


 それはつまり、私は死んだということになるだろ?



 それ。


 なんでそうなるの?


『すみません、我々も多忙なので』


『貴方がのです』


 ……はい?


『言葉のままです』


 天丼やめてくれるか?


『……天丼? なんですかそれは?』


 その説明は今度で……


 それよりも――転生した理由は分からないと言ったな?


『はい、我々は転生したいという願望を受けて、それを叶えているだけなので』


 つまり、私が『転生したい』と願ったから、この世界に転生したということなのか。


『そういう事になりますかね』


 であれば、話は簡単だ。


 石像よ。


『イズです』


 失礼。


 イズよ。


 私は転生など望んでいない。


 絶対に。


 そして、死んでない。


 絶対に。


『絶対に?』


 絶対にだ。 


『わかりました』


 …………


 え。


『では、転生は取りやめということで』


 ……本当にか?


『なぜ驚いているのですか?』


『あなたが言ったことですよね』


『自分は転生を望んでいないと』


 いや、そうだけども。


 思いの外、聞き分けがいいので……


 そう、こんなにすんなり話を聞いてくれると思っていなかったから。


 ちょっと驚いたのだ。


『では、転生取り止めで。元の世界に戻るということでいいですね?』


 ああ。


 本当に元の世界に戻れるのだな?


は知りませんが――元の世界戻りますよ』


 ああ、よかった。


 それなら早速やってくれ。


『わかりました』


『では、お名前をお聞かせ下さい』


 名前?


 なぜ?


『我々は忙しいって言いましたよね?』


『我々は日に1000の生命を、この世界に転生させているのです』


 そりゃ忙しそうだな。


『ええ、なので転生の作業は機械的に、転生者の抜粋も機械的なんです』


『なので、貴方がどの世界にいたのかを調べるために、名前が必要なのです』


 名前を元に、調べるということだな。


『その通りです』


『なので、お名前をお願いします』


 ああ、分かった。



 私の名前は―――――――――――――――


 ――――――――――――――――――――

 

 ――――――――――――――――――――


 ――――――――――――――――――――


 ――――――――――――――――――――


 ――――――――――――――――――――……



『どうかしましたか?』


 …………


『…………』


『まさか――忘れたのですか?』

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