第3話 兄弟の誓い

 田辺との再会に胸を躍らせながら、源次は面接会場へと向かった。旧友の励ましや新しいチャンスの兆しが、彼の心に灯をともしたかのように思えた。田辺の会社でライターとして働ける可能性に加え、今回の面接も良い結果が出るかもしれないと期待が膨らむ。


 しかし、現実は彼の甘い予感を打ち砕いた。面接は順調に進んでいるかと思われたが、面接官たちの反応は冷たかった。彼の経歴に対する質問が重なり、最後には遠回しに「あなたには合わないかもしれない」と伝えられた。面接を終えて建物を出ると、源次の胸の中には虚無感が広がっていた。


「やっぱり、俺は必要とされないのか…」


 その夜、源次は居酒屋で一人酒をあおった。最初は一杯だけのつもりが、次第に深酒になり、気づけば終電を逃すまで飲み続けていた。頭の中はぐるぐると、無力感と焦燥感が交互に駆け巡っていた。「家族や周りが期待しているような人間にはなれない」という思いが、胸の奥でくすぶり、彼を苛んでいた。


 それから数日、源次は荒れた生活に身を委ねた。昼夜の区別もつかなくなり、昼間はパチンコに通い、夜は酒に逃げる毎日。数少ない貯金はみるみる減り、生活も乱れていった。彼は心のどこかで、このまま堕ちていく自分を見つめているような気がしていた。家族や友人からの連絡も無視し、孤独な世界に自らを閉じ込めていった。


 そんなある日、田辺からの連絡が入った。田辺は気さくに「源次、最近どうしてる?」と声をかけてくれたが、源次は面倒くさそうに話をはぐらかした。しかし、田辺はそれを見逃さず、彼の様子に何か異変を感じ取ったのだろう。


「お前、元気ないな。何かあったのか?」


 田辺の優しい声に、源次は一瞬心が揺らいだが、すぐにそれを打ち消した。彼は無理に笑いながら、「なんでもないよ、大丈夫だ」と言い放ったが、その言葉とは裏腹に、胸の中の重みは消えなかった。


 数日後、田辺が源次を誘い出し、無理やりカフェで話をする機会を作った。田辺は源次に対して何も責めず、ただ黙って彼の話を聞く準備ができていると伝えた。その温かさに触れ、源次は少しずつ自分の苦しみや挫折、家族への負い目について語り始めた。そして、自分の中でくすぶっていた不甲斐なさが、初めて言葉として表れた瞬間だった。


 田辺は黙って頷き、源次の背中を静かに叩いた。「大丈夫だよ。お前はまた立ち上がれる。俺は信じてるぞ」


 その言葉に、源次はほんの少しだけ、再び立ち上がる勇気を取り戻した気がした。


 荒れた日々を過ごしていた源次だったが、ある夜、ふとテレビをつけると、大河ドラマ『源義家』の再放送が始まっていた。懐かしさと、どこか心に引っかかるものを感じながら、彼はコタツに入ってじっと画面を見つめた。


 ドラマの中で、義家が仲間とともに困難に立ち向かい、理想を追い求める姿が描かれていた。義家は時に孤独に耐え、自分の信念を貫くために多くのものを犠牲にしてきた。そんな姿を見ているうちに、源次の中で、いつの間にか薄れていた夢や情熱が少しずつ蘇ってきた。かつて自分も、ライターとして世の中に何かを伝えたいという強い思いがあったことを思い出した。


「義家も…苦しい時があったんだよな」


 そう呟きながら、源次は画面越しに義家の姿をじっと見つめた。自分も過去の失敗や周囲の期待に押しつぶされそうになり、情熱を失ってしまったが、義家のようにもう一度立ち向かってみる価値があるのではないかと思うようになった。胸の奥でくすぶっていた小さな火が、再び燃え始めているような感覚があった。


 その夜、源次は眠る前に久しぶりにメモ帳を取り出し、かつて書き留めたアイデアや取材メモを読み返してみた。夢中で書いた言葉たちが、彼にもう一度語りかけているように感じられた。失敗してもいい、自分の言葉で何かを伝えたい、そんな思いが再び心に芽生え始めた。


 翌朝、源次は自分に誓いを立てるように、もう一度ライターとしての道を歩んでみようと決意を固めた。


 大河ドラマ・ストーリー概要

  承暦3年(1079年)、源義家(磯村勇斗)は、官命によって美濃で源国房(上杉祥三)との闘乱を鎮圧する使命を受ける。義家は自身の武士としての使命感を強く感じ、弟・源義綱(道枝駿佑)と共にこの任務に挑む。兄弟の絆や信頼が試される中、二人は互いに支え合いながら困難な状況に立ち向かう。


 永保元年(1081年)には、義家が園城寺の悪僧を追補するため、検非違使と共に行動する。この時、義家は本官ではないにも関わらず、関白・藤原師実の前駆の名目で白河天皇(小野武彦)の護衛を務める。義家は公私を超えて天皇を守る姿勢を示し、また彼の武士としての誇りをも感じさせる。


 その後、義家は天皇の乗輿の側で警護を行うため、布衣に着替え、弓箭を帯びて緊張感のある警護にあたる。この時の姿は、藤原為房の記録にも「布衣の武士、鳳輦に扈従す」と記され、義家の姿勢が世に知れ渡る。


 12月4日、再び白河天皇の春日社行幸に際して、義家は甲冑をつけ、弓箭を持った100名の兵を率いて警護を行う。この行動が官職によらず天皇を警護する常態を生み出し、後の「北面武士」の始まりとなる。義家と義綱兄弟はこの頃から白河天皇に近侍し、彼らの名声が高まる様子が描かれる。


キャスト:


源義家(磯村勇斗): 武士としての誇りを持ち、兄として弟を守り、天皇を護る決意を固める。


源義綱(道枝駿佑): 義家の弟であり、共に戦う忠実な兄弟。義家を支える存在として描かれる。


源国房(上杉祥三): 美濃での闘乱を起こした敵役。義家と義綱の相手となる重要なキャラクター。


白河天皇(小野武彦): 天皇としての威厳を持ちながらも、義家兄弟に信頼を寄せる。


藤原師実(甲本雅裕): 議論や決定に影響を与える重要な官人。義家の行動を見守る立場。


検非違使(六角精児): 義家と共に悪僧を追補する役割。義家に対する信頼を持つ。


謎の僧兵(陣内智則): 園城寺の悪僧で、義家に立ちはだかる敵役。


武士仲間(りょう): 義家を支える仲間として登場し、共に戦う姿を描く。



 このエピソードでは、義家と義綱の兄弟愛や忠誠心、さらに義家が武士として成長していく過程が中心に描かれ、平安時代の政治的な緊張感が強調される。義家の名声が高まる一方で、彼を取り巻く人々との関係性が深まることで、物語はより複雑な展開を見せていく。


 数日後、源次は兄である山梨県知事の智彦と再会することになった。家族に顔を見せることも長らく避けていた源次にとって、特に智彦と会うのは気が重かった。成功した兄と比較されるのが嫌で、ましてや面接に失敗し、荒れた生活をしていた自分がどんな目で見られるのかと考えると、不安が募るばかりだった。


「どうせまたバカにされるだろう」


 そう思いながら待ち合わせの場所に向かうと、智彦はすでに待っていた。いつも通り落ち着いた表情で、堂々とした佇まいに、源次は少し萎縮してしまった。しかし、いざ挨拶を交わすと、兄の表情は予想外に優しかった。


「久しぶりだな、源次。元気にしてたか?」


 驚きつつも頷くと、智彦は穏やかに微笑みながら話を続けた。「最近、大河ドラマの『源義家』を見ていると聞いたよ。お前も少しずつ何かを見つけ始めたんじゃないか?」


 まさか智彦がそんな話をしてくれるとは思ってもみなかった源次は、少し動揺しながらも正直に頷いた。自分がもう一度ライターとしてやり直す決意をしたこと、義家の姿に励まされたことを話すと、智彦は真剣に耳を傾け、やがて静かに言葉を紡いだ。


「俺もな、最初から知事になりたかったわけじゃない。やっぱり挫折や迷いはあったし、今も不安になることはある。でも、お前が見つけたように、続ける価値があると感じたからここまでやってきたんだ」


 兄の言葉に、源次は胸の奥が温かくなるのを感じた。智彦の目に、どこか自分と同じ苦悩が映っているように思えたのだ。勝手に見下されると思っていた自分の先入観を恥じながらも、兄の話を聞いているうちに、自分もまた立ち直れるかもしれないと確信を抱いた。


「ありがとう、兄貴。俺、もう一度頑張ってみるよ」


 その言葉に、智彦はしっかりと頷き、「それでこそ俺の弟だ」と肩を叩いた。兄の言葉に励まされ、源次は新たな決意を胸に再出発する力を感じていた。


 その後の大河は以下のとおり。遙か北の地で、名門の豪族たちが広大な土地を巡り熾烈な覇権争いを繰り広げていました。舞台は出羽国でわのくに陸奥国むつのくに。出羽国を支配する豪族・清原氏と、陸奥国で圧倒的な影響力を持つ安倍氏の物語です。


 静かな村落に夕陽が落ちる中、安倍氏の一族が狩りを終えて戻ってきます。武者装束の若い豪族たちは誇らしげな笑顔を浮かべ、町人たちから称賛の声が上がります。


  一方、清原氏の砦。清原氏の若きリーダー、清原武貞きよはらたけさだは、地図を広げながら険しい表情をしています。彼は部下たちに向かって、安倍氏との争いについて語りますが、冷静に状況を分析しつつも、どこか苛立ちを隠せません。


キャラクター設定:


 清原武貞: クールで冷静、知略に長けた若きリーダー。端正な顔立ちで、冷徹な瞳が特徴。


 安倍頼時: 自信家で豪快な性格。戦場での武勇を誇り、口数も多いが、部下には愛されている。


 安倍氏の部下が、出羽国境付近で密かに清原氏の動きを探っています。コソコソと草むらをかき分けて進む姿が、少しコミカルに描かれます。

 清原氏の領地での宴の最中、急に伝令が入り、清原武貞は眉をひそめます。「前九年の役」の火蓋が切られようとしている――。


 コミカルな要素: 安倍氏と清原氏の若い兵士たちが偶然森の中で出会い、緊張の対峙を繰り広げる場面。しかし、あまりに緊張しすぎたあまりに互いに反発し合い、軽い衝突が繰り広げられます。






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