第4話 牙の刀についてとツインムゲンジェネレータ
戌人族は五歳になる頃に初めての牙の生え変わりを経験する。その時一番最初に抜けた牙を本人の血で培養し肥大化させたものを鍛錬する。
火に焚べ、鉄で鍛ち、水で清め、石で砥ぐ。
生涯に一度だけ作り出す事を許される「牙刀」は戌人族の魂とも呼ばれるものである。
――故に牙刀を手放すということは戌人族の社会において人権を手放すことに等しい――。
「――ってのはまぁ三百年くらい前までの話でな。今は…そうだな、大通りでケツの穴に木の枝挟んで逆立ちしながらサンバ踊ってる奴くらいの扱いだ」
『すみません、それは人権と同じくらい人として大事なものを投げ捨ててます』
「まぁそんなわけでこの田舎惑星に移り住んだわけだ。この
『申し訳ありません。立ち入ったことをお訊ねしました』
「まぁ戌人族の牙刀のこと知ってる奴からしたら不自然だからな。気にしなくていい」
「あら、いつの間に仲良くなったの?」
お姫様が戻ってきた。ライラさんはまだ向こうで作業してるので説明は終わったらしい。
「初対面の人と仲良くなるの得意なんだぜ俺。……ジャジャって人扱いでいいのか?」
「問題ないわ。人と区別出来ない程に自然な自我を持つ人工知能。お母様の研究成果の一つ。そしてわたしの大切な友人だもの」
お姫様がジャジャのお腹…もとい船体を撫でる。
「お母様ってことはジャジャを作ったの前の女王だったのか?」
「実際にこのジャジャを作ったのは別の人だけどね。人工知能の基本理論の考案とインテリジェンスプログラムの開発はお母様の功績ね。まぁ本人そこまで作って飽きて放っぽってたみたいだけど」
「飽きちゃったの?」
「そういう人なのよお母様は」
『先代女王キセツ様だけでなく代々王家は生物化学や機械工学の分野において造詣が深く、特にここ七〇〇年ほどは目覚ましい功績を数多く残しておられます。………おられるのですが、代々飽きっぽいらしく途中で止まった研究が山のようにあります。王室には歴代女王の未完成の研究のデータを管理する専門の部署が存在するくらいです』
「…いずれその中にこのお姫様の研究も加わるのか」
「…そうならないようにしたいところね。正直お母様は歴代でも相当な飽き性だったんじゃないかと思ってるけど」
『キセツ様が途中で飽きて放り出した研究は今現在【人工知能プログラム】【生物学ホムンクルス開発】【バジリスクの無毒化品種改良】【人工惑星の建設理論】【魔素の科学利用研究】の五つが確認されています。おそらく歴代最多かと』
「マスコミに知られたら王室のスキャンダル間違いなしね」
「しょーもねースキャンダルだな」
そんなことを話しているとジャジャの影からライラさんが顔を出した。
「おう、ムゲンジェネレータの方は終わったぞ。確認しとくれ」
「ええ、ありがとう」
「ムゲンジェネレータってこんな短時間で直るもんなのか」
「ああ、今回はパーツ外してこいつを繋いだだけだからな」
「こいつ?シリンダーじゃないの?」
ライラさんが指刺した先には俺には見覚えのある物があった。
田舎の山道を走破する為に特注のゴツいタイヤと強力なバネを装備した見覚えのある自転車
…正確には俺の自転車だったものがジャジャに組み込まれていた。
「おい、これいったいどういうことだライラさん」
「なんでジャジャに自転車が付いてんのよ」
『待ってください当機今自転車ついてるんですか?!どういうことですかライラ様?!』
「まずこの宇宙船の規格に合うシリンダーも替えのムゲンジェネレータもウチじゃ扱いがなかった。なので代わりにサーベラスの自転車付けてみた」
「お巡りさん、このご老人に宇宙共用語で話すように伝えてくれないかしら?途中から意味がわからない単語の羅列になっているわ」
「あーもう歳だもんな。今年で七十八歳とかだもんな」
「最後まで聞けやガキンチョ。後、勝手にレディの歳を明かすんじゃねぇ」
年齢のことには敏感なばーさんだった。
「そもそもこの宇宙船、設計が普通じゃねぇ。このサイズでムゲンジェネレータ二つ積んでるなんざ初めて見たぞ」
「ツインムゲンジェネレータなんて貨物船なんかだと珍しくも無いでしょ」
へーそーなんだー。ついんじぇねれーたって単語今初めて聞いたけど。
「普通のツインムゲンジェネレータは片方が不調になっても問題なく航行できる安定性がウリなんだよ。だがコイツはそうじゃねえ。ムゲンジェネレータ同士を連動させてぶん回してやがる」
「うん。なんかよくわかんねーけど凄そうだな」
「この出力がありゃ並みの惑星の引力なんざものの数秒で振り切っちまうだろうよ」
「すごいでしょ」
「そうだな。すごすぎてもはや使い道がわかんねーけどな。どう考えても個人用の宇宙船にゃオーバースペック過ぎる代物じゃろ」
「一国の王女のプライベートジェットよ?何持ってたっていいじゃない」
いやその理論は無理があるんじゃなかろうか。
「ところで空気生成システムがムゲンジェネレータ繋がってないどころかなんか見た事もない部品付いてるんだけどなんじゃこりゃ」
「空気生成はバリア正面に衝突した微細な粒子や電磁波を吸収して稼働するシステムになってるわ。確かどっか辺境の惑星に生息するハヤトマグロとかいう魚類の呼吸器の仕組みを参考にしたとか」
「うんその辺境の惑星って今まさに俺らがいるこの星の事だね。惑星ココノスの特産品だねハヤトマグロ」
「ハヤトマグロの呼吸っていうと常に泳ぎ続けないと死ぬっていうのが有名だな」
―――つまり宇宙空間で止まると空気も止まる?───
「とんでもねー欠陥じゃねーか。ジャジャお前どーなってんの?」
『仕様です』
食い気味に来た。一般的な仕様では無い自覚はあるようだ。
「まあそう言うわけでお前の自転車の出番だ」
「何がどう言うワケなんですぅ?どういう脈絡でそのなんかすげぇジェネレータと俺の自転車が繋がるのかさっぱりわからんのですけどぉ?」
「お前の自転車の車輪の回転エネルギーをムゲンジェネレータの稼働エネルギーにコンバートできるようにした。お前体力あるしいけるじゃろ」
「もっと簡潔に説明プリーズ?特にジェネレータと自転車と俺の体力の相関関係のあたり特に詳しく。なんかいやな予感してきたから」
「今日からお前とお前の自転車がこの宇宙船のムゲンジェネレータになるんだよ」
「莫迦じゃねーの?」
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