第7話   ケーブルテレビに出演しちゃった 1

 とうとう念願が叶って東谷落語研究会の活動が、ケーブルテレビで紹介されることになりました。やって来た数人のケーブルテレビのスタッフの中で、カメラ担当の山上さんはそりゃぁもう一生懸命でありましたよ。我らの拙い芸をそれらしく五割増しにも数倍以上にも、良く見せてあげたいって思ったからでありました。


 それなのに東谷落語研究会のおじさん達ったら、「カメラはとても立派で上等だ、彼女も小柄な身体の割りには腕力もありそう、だから手ブレもないだろうな。うん、これなら良し!うまく撮ってくれよ、頼んだよ、いいか姉ちゃん、分かってるだろうな、よし!」ってなことを平気で言う仲間達なんですからねぇ、本当に申し訳ないったらありゃしない。


  脅しに似たお願いに、山上さんは腕を振るって下さいました。「きれいな人はより美しく、そうでない人はそれなりに、修正の技術を駆使します」という、鍋さんの写真館のモットーの如く、「上手い人はより上手く、下手な人はそれなりに!テレビ映りの技を駆使します」と、何とか皆のいいところを引き出してやろうと懸命でありました。

 

 何度かの打ち合わせで山上さんは、この品の悪い榎木さんに大いにかまわれ、佐川さんに結構おだてられ、皆に山ちゃん山ちゃんと可愛がられているうちに、皆のことが少々分かりかけて来ていましたから、これは下手なことは出来ないなと真剣でありました。

  

 町内寄席の会場はもちろん超満員でありました。何しろテレビ局が狂ってんですから、お~っと違った来るってんですからアァタ(あなた、の意です)、皆は機も来る湾馬鹿りに、お~っと気も狂わんばかりに喜んで(あらら、私のパソコンまで狂ってるし・・)、あらゆる仲間のつてを頼って、客集めに奔走したのでありました。


 東谷落語研究会にしては初めての大人数のお客でありますから、この沢山の観客を前にしてしかもテレビカメラを前にして、まだひとさまに聞いてもらえるような代物でもない、全く未熟な落語を披露しようとしたのでありますから、図々しいにもほどがあるってところでしょう。


 開演されると舞台の袖に「めくり」といって、演者の芸名が書かれて下がっている紙を捲る役を、本来ならば金ちゃんがやるべきところを、何故か五合さんが自ら志願してこれをめくり、次の演者の為に座布団をひっくり返して整えるという、一番テレビに映る回数の多いおいしい役どころを務めました。


 ところが五合さんったら、知ってか知らずか持ち前のマイペースで、そのひっくり返し方の酷いこと酷いこと。座布団は埃を立てずそっと裏返すのがすじってぇことをまるで分かってないらしく、ただ裏返すだけのことにも関わらず、全くメンコでもやってるように座布団をふっ飛ばして返すのです。


 演者が噺を一席終わって立ち去ろうとすると、その演技の余韻のまだ消えないうちに、彼は直ぐに出て行って座布団を裏返します。するとそのメンコの如き裏返しの度に、前の席に座っていたお客の顔に、座布団が起こした風がもろに当たって、前髪が乱れる始末なんですよ。


 でもねぇ、心優しいというか誠に辛抱強いとでもいうのでしょうか、お客様達は何の文句も言いませんから、本当にありがたいと感謝の気持ちでいっぱいになる私でありました。



 さて申し遅れましたが、この会場は榎木さんの行きつけのお蕎麦屋さんでしてね、新しく建て替えられたお店の二階の大広間に、テーブルを幾つも並べたその上に、私が用意した真っ赤なビロードの生地を敷いて舞台を作り上げました。そしてバックには借り物の金屏風をでーんと置きますってぇと、蕎麦屋の二階は「何とか亭」と呼べる寄席に早変わり致しました。


 この金屏風がなかなか立派なものでしてね、そんじょそこらの人には簡単にお貸し出来ない代物なんだそうですが、そこは会のお兄ぃさん方のことですから、「お貸し出来ません、はいそうですか」なぁんてすんなり引っ込む訳がございません。「断ったらお前どういうことになるかは分かってるんだろうな」と凄んだかどうかはっきりは知りませんが、人のいい郵便局長さんの迷惑そうな顔が、誰の頭にも浮かんだのでありました。


 出来上がった立派な舞台の上に立ち、さあそれではと金屏風の前に全員が集合すると、まずは賑々しくごあいさつを致します。金ちゃん、一兵さん、鍋さん、浦辺さん、広原さん、榎木さん、五合さん、つる子さん。そして二人の議員さんで楽扇さんと一歩さん、おあとは師匠なり。で、そうそう、郵便局長さんも勿論ちゃんと端っこに立っておりました.


 この日、金ちゃんがこの発表会のことをY新聞社に告発、じゃない宣伝しちゃいまして、取材に来て頂いていたと聞かされた時には、初めて知らされた人達はとても驚きました。発表会の様子をテレビで放送して貰える、と大喜びしていたわれ等でありますが、そのテレビ局が来るだけでも大変なこと、なのにですよ、更に新聞社までとはどこまでも図々しいじゃありませんか。



 

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