第5話 俺は今、陽キャになっているのか⁉そうだよな⁉

時刻は18時過ぎ。窓から差し込む夕日が俺たちの影を落としている。

そう、「俺たちの」だ。

俺は今、人生で初めて複数人でファミレスに来ている。

メンバーは、俺、陽輪、理沙、そして、八代さんだ。

なぜこうなってしまったのか。それは今日の昼休みのこと。


***


「なあ倉竹、今日の放課後ファミレスでゲームやらね?」


と教室の隅で本を読むというザ・陰キャライフを送っていた俺に、ハイパー陽キャの陽輪が急に俺を誘ってきた。正直行きたかったが、今日も配信があるため俺は断った。


「あー悪い、今日も配信があるから行けな……」


「いいじゃん!私も一緒に行っていい?」


「お、剱持さん。いいよいいよ!」


「おい⁉」


「あーでも、女子一人はなー。せっかくだから、八代さんも入れない?」


「……は?」


(まったく、陽キャが考えることはわからん。どういう原理だよそれ。)


「それいいじゃん!」


「いやいや、それはちょっと良くないんじゃないかな……?」


大体、そんなことを八代さんが許可するわけがないだr


「私、行きたいです!」


「ファッ!?」


てなわけでファミレスに来た。

どのファミレスがいいか、というところでさまざまな議論が交わされたのだが、

最終的に「カバゼリア」に行くことに決まった。

にしても女子とプライベートで会うなんて初めてだ。

俺の心臓はこの状況によりパニック状態になってるらしく、なんだか落ち着かない。


店内は放課後ということもあってか、学生で溢れかえっていた。

何だこの「陽」の雰囲気は。

いるだけで隠れたくなる。

4人席に座った途端、俺の席の後ろから

「ドゥワァ!センナナヒャク!!」   

とどこかで聞いたことがあるような、会計額に驚く声が聞こえてきた。さすがファミレス。


(安いな。)


席に座ると俺の向かいに八代さんが座った。俺がメニューを開くと八代さんが


「倉竹さん、私こういうところ、来たことないんですが......おすすめとか、あったりします......?」


(と言った。そんな激甘ボイスで言わないでくれよ......!

 変な気出しちゃうじゃねーか!

 なんか、剱持からニヤニヤした視線を感じる。ほっとこう。)


「ま、まあ......この『フィレンツェ風ドドリア』とか、どうだ?」


必死に心を落ち着かせて、できるだけ冷静な声で答えた。

(ん?ドドリア?......まあいっか。)


「じゃあ俺はね〜、このカルボナーラとチョリソー頼もっかな!」


陽輪が明るい声で言った。


「私はハンバーグステーキとエスカルゴにナポリタン!もちろんライスも!」


「......おい理沙、そんなに食べて大丈夫なのか?」


俺が聞くと理沙は黙り込んでしまった。そして涙目を浮かべながら


「......っ!八代さんと横に並んでるのをみて、何か気づかない!?」


「身長か?」


「違う!!」


「じゃあなんだよ。」


「あなたにはわからないでしょうね!この脅威の胸囲格差が!」


「やかましいわ!てか八代さんが困ってるじゃねーか。」


八代さんはおろおろとしていた。お嬢様には理解しがたいだろうな。


(あ、そういえば何のゲームをするのか聞いていないな。)


そう思い、俺はふと陽輪が持っているゲームソフトを見た。


「大格闘 スラッシュシスターズ」


ん?大格闘?かくとう......格闘ゲーム!?

おいおい嘘だろ......いや、別に格闘ゲームが嫌いなわけじゃない。しかし、しかしだ。この場に理沙がいるという状況。俺の負けは確定しているようなものだ。ま、まさか陽輔が俺の恥を晒すためにあえて格闘ゲームを選んだのか......?いいや、陽輔はそんなことをしない。......しないよね?ふと俺は理沙の方を見た。すると目が合い、ゲスの極みのような顔を俺に向けた。クソッこいつ!格闘ゲームだと知っていたのか......普段は女子の友達と遊ぶのに、珍しく陽輔の誘いに乗ったと思えば......

すると店員が俺たちの席に料理を一気に運んできた。


「お待たせしました!注文の品はこちらでお間違いないでしょうか?」


「あ、は、えあ、」


しまった!知り合い以外と話したことがほとんどない人間に、いきなりファミレスの店員はキツすぎる......


「はい!ありがとうございます」


陽輔がサッと答えてくれた。や、優しい......これが陽キャの輝き.....陽輔の光を浴びていると、剱持がウキウキで提案してきた。


「そうだ!ゲームで負けた人の奢りにしない?」


いや待て待て。どうしてそうなる?負けを認めることになるが、先日新作のゲームを買ったから、今俺は金欠だ。ここは丁重にお断りしよう。


「それは良くないんじゃないかn」


「いいね!やろう!!」


「やりましょう!!」


陽輔!?八代さんも!?


「それじゃあ決定で!早速始めよう!!」


(はあ......なんかこの流れ二回目な気がする......こうなってしまったら、しょうがな い。ここは大物ゲーム配信者の実力を見せてやろうじゃあないか。理沙を完膚なきま でに叩きのめしてやる。)

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