第3話 街案内することになったんですけど

朝から大騒動だったけれど、そのあとはいつも通りに進み、放課後になった。


「はい。じゃあ気をつけて帰るように。日直、号令」


「起立。さようならー」


『さようなら!』


(あぁ、やっと学校が終わった。結局、自己紹介からは八代さんと話してないし、

 もう話さないのかな。まぁ、別にいいんだけど。)


椅子からたちあがり、リュックを背負って歩き出そうとしたその時、急に前を歩いていた八代さんがこっちを振り向いて向かって来たではないか。


(え、ど、どういうこと?俺なんかした今日?あ、もしかして、自己紹介でキモい声を   聞かせてしまったから、気分を害させてしまった?こ、56される?!)


「あ、あの!」


「ふぁい⁉」


「えっと、倉竹……さん。私、まだこのまちに来たばかりで、帰り道が、分かんなくて……さっきの自己紹介で言い忘れたんだけど、私の家が倉竹さんの家と近くて。だから、その、できれば一緒にお帰りいただけないでしょうか⁉」


(あ、自分の家と近かったのか。驚いた。……って、え?一緒に、帰る?美少女と?マ     ジで今日何なの?!もうこれラブコメなんじゃない⁉)


「え、あ、と、友達でそっち方面の人はいないんですか?」


「みんな別々で……」


(マジで!?!?本当にいいのかよ!2人で帰るなんて……

もうこれほぼ陽キャの仲間入りじゃね!?陰キャから抜け出せたんじゃね!?

最近、陽輪みたいな陽キャな友達もできるし、マジで俺の運気どうかしてるぜ!

……って、ダメだろ!もし誰かに見られて、)


「え、八代さんってあんな奴と帰ってるの?終わってるわー。関わらないようにしよ。」


なんて思われたら、八代さんの高校生活に泥を塗ってしまう!

というかそもそも俺ごときが転校してきたばかりの転校生と一緒に帰る権利なんてあるのか?

ひとまず、もう一度聞いてみるか。


「ほ、本当にいいんですか?」


「い、いや全然!隣の席だから、仲とか深めたいし、ここら辺熟知してそうだから……ダメ……かな……?」


(い、いや、上目遣いはダメだろ上目遣いは‼

アウト!俺の理性のダムが決壊するから!こ、断れ、俺!断るんだ!)


「い、いいですよ」


(しまった!陰キャが人のお願いを断ることができないのを忘れていた……くそ!)


「あ、あと、この町も紹介してほしいんです……」


「あ、え、え……」


「あ、すいません。倉竹さん、忙しいですよね。無理なお願いを言ってごめんなさい……」


(な、なんだよその目線!くそ!今日も配信があるんだよ……

しかも、初対面の女子と一緒に帰るのでさえ初めてなのに、町案内?!そんなの俺には無理だ!無理に決まってる!

よし、今度こそ断るんだ、俺!)


「……あ、い、い、イイデスヨ……」


「やったぁ!よろしくお願いしますね、倉竹さん♪」


「は、はい……」


(うん、もう配信とかどうでもいいや。

ツイッチャーに今日は休むって投稿しよう。うん。)


「あ、ちょ、ちょっと待ってて……」


そう言って俺はスマホを取り出し、公式アカウントに投稿した。

が、なんだろうか。八代さんから凄い視線を感じた。

すぐに振り返ると八代さんは荷物をまとめていた。なんだ、俺の勘違いか。

きっと昨日の配信で疲れが溜まってるんだな。


「あ、倉竹さん、どうかしました?」


「い、いや、特に何も……あ、準備できたので、行きましょうか。」


そう言って俺たちは教室を出た。

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