第29話 カオル再び

 少年が立っていた。

「待ちわびたぞ。『童貞』よ。ここで待っていれば、必ず会えると思っていたよ」

「くそっ、その口調、ノーマか! 何故少年の姿なんだ」


「簡単なことだ。儂が死んだら、とらえていた少年に魂を移す魔法を予めかけておいたのじゃ。誰かさんのおかげでこうして無事に転生できたのじゃ。そしてこの通りじゃ。体は10代、心は60代。儂もお前と同じ『賢者』の仲間入りじゃ。そしてこれはそのお礼じゃ」

 そう言うと、ノーマは右手からファイアーボール、左手からアイスボールをライムさんの方向へ放った。

 ライムさんは青ざめた顔をして動けないでいた。


「メリクリウス!」

 間一髪かんいっぱつ、モナミのメリクリウスで『魔法』を防いだ。

「ノーマ、どうしてライムさんを狙ったんだ。お前が殺したいのは僕のはずじゃなかったのか」


「お前、まだ気が付いていないのか。ヘタレな上に鈍感ときたもんだ」

「黙れノーマ。僕はお前より、ずっとずっとましだ」


「それにしてはここは狭いの。ちょっと広げるか。レベルBH black hole《ブラックホール》」

 ノーマを中心とし、ブラックホールが広がってきた。


「危険だ。モナミ。メリクリウスを球体で出してくれ。僕も魔法障壁を全力で張る!」

「うん。今度は負けないのぜ」

 ゴッ

 モナミのメリクリウスと僕の魔法障壁でノーマのブラックホールは防いだが、辺り一面荒地と化した。


「すかさず僕は攻撃を試みた」

 僕の右手から、ファイアボールがノーマ目掛けて飛んでいった。

「これで広くなったの。レベルA Alexander《アレキサンダー》」

 ノーマの前にゴーレムが出現した。ファイアボールはゴーレムに当たり霧散してしまった。


 僕もやむを得ず、Alexander《アレキサンダー》を召喚した。

「おいおいこれじゃあ、千日手じゃないか。しかたがないの、儂はこういうも出来るのじゃ」

 そう言うと、ノーマはこちらへ突進してきた。


「レベルSE 光断て闇の聖剣、ShadowExcalibur《シャドウエクスカリバー》」

 するとノーマの右手に真っ黒なオーラをまとった大剣が握られていた。


「接近戦なら、私の方が歩がありますわ」

 サキさんが鉄針を握りしめて、ノーマの前へ飛び出た。


「駄目だサキさん、鉄針なんて直ぐに折られてしまう」

 さすがはサキさん、それは心得ているのか、シャドウエクスカリバーには触れないように立ちまわっている。ノーマは接近戦に関しては素人のようだった。しかしそれでも、サキさんは攻めあぐねていた。


「ヴァイエイト」

 ギン!

 その時、ヴァイエイトの矛がノーマを狙ったが、シャドウエクスカリバーにはじかれてしまった。

「わ、私だって、人間相手でも戦えますわ」


「ええい、ちょこまかと人間風情が。儂は偉大な『魔法使い』だ」

「カオルさん、レベルMA MagicAbsorb《マジック アブソーブ》を使ってください」


 ライムさんが耳元でささやいた。しかし何で新しい魔法を知っているんだ。ライムさんには僕の知らない秘密があるかもしれない。しかし今はノーマを倒すことが先決である。

 僕はノーマに向かって『魔法』を唱えた。

「レベルMA Magic Absorb《マジック アブソーブ》」


 するとどうだろう、ノーマの持っていた大剣ほどの大きさだったシャドウエクスカリバーが見る見るうちに小さくなっていき、次第にはナイフほどの大きさになり、消えてしまった。

「わ、儂のシャドウエクスカリバーが……」

 しかしそれだけで終わらなかった。ノーマの身体も、段々と干からびていき、最後にはミイラ状態になってしまった。


「どうしようこれ。お湯をかけたら元に戻るかな」

「カオルさん、不謹慎すぎます」

「しかし、このままというわけにはいかないよね。死んでいるも同然かもしれないけど」


「時間が経てば復活するかもしれません。このまま燃やしましょう、カオルさん」

 過激なことを言ったのは、ライムさんだった。

「一度は殺そうと思ったけど、決着が着いた今は止めを刺す気にはならないんだよね。僕は甘いかな」


「甘いです。大甘です。でもそこがカオルさんの良い所なんですよね。おじさまに連絡しましょう。ノーマを封印する道具を知っているかもしれません」

「私も、サキさんに賛成です。カオルさんに人を殺させたくありません」

「アキミが賛成するなら、僕もカオルの案に乗るのぜ」


 最後に残ったのはライムさんだった。

「……わかりました。皆さん、そんな目で見ないでください。私もカオルさんの案に乗りますわ。ただし、注意してくださいね。ノーマが復活したら、またやっかいなことになるのですから」


「それじゃあ、僕がノーマを監視しているから、誰か、ミャタさんの所へ行ってくれないか。そうだな、アキミとモナミ、サキさんで行ってくれないか」

「それだと、カオルさんと、ライムさんだけになるじゃないですか。ライムさんといちゃいちゃしたいのですか」

「そうなんだよ。ははは……」


「カオルさん、私も一緒にいちゃいちゃしてはダメですか」

「カオル、やらしーのぜ」

「カオルさん、何か事情があるのがバレバレです。さ、アキミちゃんとモナミちゃん、おじ様の所へ急ぎましょう」


 サキさんがアキミとモナミを連れて行ってしまった。さて、ライムさんと2人きりになった。僕は単刀直入に聞いた。

「で、ライム師匠は魔法が使えるのですね。いや、それ以上の『何か』を知っていますね」

「何のことだい? 私にはさっぱり」


「問い詰めたい訳ではないのですよ、師匠。感謝しているのです。あの時アドバイスがなかったら、ノーマを殺していたかもしれない。いや、もっと最悪なのはこっちが全滅することですね。その可能性さえありました」

「カオルさんを死なせることはありませんよ。私がいる限り」


「またそうやって、はぐらかす。答えになっていませんよ」

「今は言えません。いつか話せる日が来るといいですね。カオルさんが『童貞』を秘密にしているのと一緒です」


 そう言うと、ライムさんは僕に抱きついてきた。

「ラ、ライム師匠、人が来ますよ」

「少し、ほんの少しだけこのままでいさせてください」


「カオルさーん、異変に気付いた村人がおじいさまの所へ早馬を出したそうです、ってライムおねえちゃん、何カオルさんと抱き合っているんですか!」

「おーーカオルーー。僕も僕もーー」

「アキミちゃん、モナミちゃん、こういうのは順番です。私は最後にぎゅーっとしてもらえれば十分です」


 こうして僕たちの銅から金を生成して儲けるぞ作戦、第2回目は終了した。

「あの銅山とは相性が悪いのかな。それとも楽して儲けようとしているから、ばちが当たったのかな」


「いいじゃないですか、カオルさん。おじいさまの所に居候していれば、3食昼寝、メイド付きの生活ですよ」

「じじいとの生活も楽しいのぜ」


「私もメイド長として働き甲斐があります」

「私もただの居候です。エルフは長生きなので、こんな生活も悪くないですね」

「じゃあ、戻りますか。『我が家』に」

「「「「おーー」」」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

童貞魔法使いで苦肉のハーレム天国 文月生二 @fumitukiseiji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ