第20話 エルフのライム

「誘拐されたほとんどの者はみな、家族の元へと戻った。残念ながら、組織名や主犯格の特定はできなかったがな」

 次の日の朝食の席での会話である。

 メイドさんが配膳をしてくれている。


 その中に見慣れないメイドさんが1人いた。人間ではない。エルフに見えた。

 この世界にもエルフっているんだ。エルフといえば『魔法』というイメージがあるけど、この世界のエルフは無条件に『魔法』が使えるのかな。


「誘拐された人が解放されただけでも良しとしましょう。それはそうと、ミャタさん。後ろに控えているメイドさんは何方どなたですか。初めて見かけると思いますが。そしてエルフですか」

「さすがカオル殿。エルフをご存じであったか。名前はライムという。誘拐された中におってな。戻る場所が無いというので、メイドとして雇うことにした。どうやら一部記憶をなくしているらしい。扱いはカオル殿にまかせた」


 あの長命で美人で耳長のエルフである。

 この魔法がほぼ使えない国で、魔法は使えるのだろうか?


 人間とエルフの間に子どもはできる。

 「ハーフエルフ」といって人間からもエルフからも嫌われる。生活に苦労するのが定石である。

 頭の中で計算ができた。自分の子どもが苦労するのは考えたくない。つまりライムさんに手を出すことはない。ハーレム化計画に加えることができる。


「わかりました。ミャタさん。ライムさんは僕が預かります。よろしくお願いします。ライムさん」

「カオル殿よろしくお願いします」

「僕のことはカオルでいいよ」

「カオル殿よろしくお願いします」


 僕は魔法の訓練のため、中庭に出た。

 ライムさんは、僕の専属となったため、近くに控えている。エルフだから魔法に適性があるのではないだろうか。

 ライムさんにスマートウォッチを付けてもらい、ステータスの確認を行った。


ライム・フルート

レベル:99

職業:メイド

魔力:256

回復力:256

能力:記憶の一部欠落(限定)


 さすがはエルフ。魔力も回復力もある。

 能力の『記憶の一部欠落(限定)』って、それは能力ではなく、ライムさんの状態異常を示しているのではないだろうか。能力に関してはわからないことが多すぎる。


 以前、ミャタさんに頼んであった、鉄のかかしを準備してもらった。

 これを的にして、魔法の訓練をしようと思ったのだ。

 もちろん全力で魔法を放てば一瞬で壊れてしまうが、中程度の魔法なら、良い的になってくれるだろう。


「ライムさん、『魔法』って知ってますか?」

「まほうですか……。 知らないです」

「試しに見せますね」


 僕は『ファイアボール』をかかしに放ってみた。

 ズシュン。かかしは半壊してしまった。


「駄目か。中程度の魔法でもこの有様だと、的にして魔法の練習に使うのは難しいな。後でミャタさんには謝っておこう。ライムさん、かかしを片づけたいので、人を呼んで……」


 ライムさんが胸を抱えてうずくまっている。苦しそうな表情をしている。

「ライムさん? どうしたの。苦しいの?」

「ま、『魔法』……」

 ライムさんの呼吸が荒い。汗も出てきている。たぶん嫌な汗だろう。

「ライムさん失礼するよ」


 僕はライムさんを抱えて、お屋敷の中へ急いだ。

 僕は大声でサキさんを呼んだ。

 サキさんは直ぐに現れて、事情をさっし、ライムさんを引き取って下がった。


 今は気を失っているとのことだった。

 医者も呼んだが、悪い所はないらしい。

 ライムさんは『魔法』を知っているようであった。欠落した記憶に『魔法』のことが入っているのだろうか。


「サキさん、エルフは『魔法』を使えるのですか」

「エルフについては、ほどんど知られていないので、わからないです。お役に立てなくて申し訳ございません」

「謝ることではないですよ。ライムさんが目覚めたら聞いてみよう」


 次の日、ライムさんの目が覚めたとサキさんから報告を受けた。

 どうやら僕に話したいことがあるらしい。

『魔法』について聞きたかったので、好都合であった。


 ライムさんの自室で会話をする。

 念のためライムさんはベットに寝たままであった。


「カオル殿、あなたは『魔法使い』なのですね」

「そうです。ライムさんも『魔法使い』ですか? そして記憶が戻ったのですか」

「かつて私は『魔法使い』でした。しかし現在はそうではありません。記憶はそのことについてのみ戻った感じです」


「そうでしたか。もしかすると思い出したくない記憶なのかもしれませんね」

「わかりません。でも今は全ての記憶を思い出したいと思っています」

「そうですか。僕たちに出来ることがあったら何でも言ってくださいね。これもえにしですから」

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