第14話 ビャッコウルフ
トロルはあらかた倒した。ゴブリンも以外に粘ったが、負けを認めると逃げだした。
あらかじめの作戦通り、サキさんが追跡しているはずだった。
後片付けは村人にお願いした。僕たちはゴブリンの巣が分かり次第、
それから約1時間後サキさんが戻ってきた。
「カオル様、ゴブリンの巣を見つけてきました。直ぐに行きますか?」
「まさか。サキさんが休んでいないじゃない。さすがにゴブリンも今日の再襲撃はないでしょ。あれだけやられたのだから」
「それが……。たぶん巣にゴブリンシャーマンがいます。巣の雰囲気がそんな感じでした。何かを召喚される前に
「それでもだめです。サキさんの疲れが残ったままでは行きません。大丈夫です。ゴブリンが召喚できる魔物なんてそんな強くないでしょう。それより、お疲れ様。ゆっくりと休んでください」
僕はとにかく理由をつけてサキさんを休ませた。
無理をしてゴブリンの巣を攻略して失敗したくないから。
ここまでは作戦通りうまくいっている。
あとは巣を攻略すれば任務は完了だ。
次の日、サキさんに十分休養を取らせてから巣の攻略を開始した。
作戦はモナミが『ヴァイエイト』の盾を構えて先頭を歩き、その後ろを僕が歩く。
敵が出たら、僕の魔法で速攻倒す。
巣の中では、盾の大きさを最大限まで広げて歩くことにより、遠距離からの不意打ちにも対応できる。
そしてモナミの盾のすごい所は、僕の魔法は通り抜けてしまうという所。
つまりモナミの盾の後ろから僕は魔法で自由に攻撃が出来てしまう。
巣に入ってから、反撃はあったものの、モナミの『ヴァイエイト』と僕の魔法であらかた片付いてしまった。
巣にはトラップも多く設置されていた。しかし事前にサキさんが察知してことなきを得てしまった。
ここは巣の最深部。
最後にゴブリンシャーマンが召喚をし終えている所だった。
魔法陣が光っている。
「カオル様気を付けてください。何かが召喚されてきます」
ポン!
魔法陣から現れたのは、秋田犬に見えた。うん。かわいいな。
「カオルさん気おつけてください。あれはビャッコウルフです。見た目は小さいですが、戦闘力はゴールドクラスです」
えっと、最近、『ビャッコウルフ』という名前を何処かで聞いたよな。
そうか、もう1つの依頼の対象か。ということは倒さないといけないのか……。
まず僕はゴブリンシャーマンに魔法を投げて倒してしまう。
「モナミ! 盾を半球状にして、あのビャッコウルフを閉じ込めることはできるかな」
「やってみるぜ」
どうやらビャッコウルフは召喚したてだったためか、あっさりと『ヴァイエイト』の
僕たち4人はビャッコウルフを囲んでいる。ビャッコウルフは敵意むき出してこちらを
「ねえ、サキさん、あれってもう1つの
「いけません。カオル様。先ほども言った通り、ビャッコウルフはゴールドランク相当の魔物です。それを見逃すことなど、危険すぎます」
「でもかわいいですね。このビャッコウルフちゃんは」
「そうだな。倒すなんてかわいそうだのぜ」
ですよねーー。僕は心の中でつぶやいた。都合よく魔法で何とか出来ないだろうか。
例えば、魔物使いのようにあの秋田犬を使役するとか。
僕は魔力でビャッコウルフに干渉してみる。
バチッ。静電気のような反発があった。ビャッコウルフも抵抗しているということか。
僕はもう一度、さっきより強い魔力で干渉してみた。
ぐにゃ! 何かそんな感じがした。ビャッコウルフの使役に成功したみたいだった。
「コントロールVを覚えました」ノルンの声がした。
まだ盾の檻は解除してもらっていない。明らかに敵意は無くなったようだから安心できそうだ。
「おすわり」
ビャッコウルフはお座りをしていた。
「モナミ、盾の大きさを僕が入れるくらい大きくできるかな」
「ん、やってみるんだのぜ」
すると盾はだんだんと大きくなり、僕が入れる大きさまで広がった。
「僕以外の人はまだ入らないで。魔物使いみたいな感じでこのビャッコウルフに干渉してみたんだけど、まだ完全に成功しているかわからないから」
僕は盾の中へと入っていった。ビャッコウルフはお座りしたまま、こちらを見上げてきた。
「ふせ」
ちゃんと伏せた。教えてもいないのに。賢い魔物なのかな
とりあえずモフモフして、ほめてやった。
自分で触れる限り、安全なのは確認できた。他の人の場合、どういう反応するのかが心配なんだよな。
「サキさん、安全だと思うから、盾の中に入ってくれないかな? 何かあってもサキさんなら対処できると思うしさ」
「わ、私がですか。 わ、わかりました……」
恐々とサキさんが盾に入ってきた。ん? ビャッコウルフがおとなしくしているのに、思いの外、怖がっている様子である。
「もしかして、サキさんビャッコウルフが苦手ですか」
「あ、いえ、その……。そうなんです。申し訳ございません」
「謝る必要なんてないのに。ごめん。はじめに聞けばよかったね」
「モナミ、盾をもっと大きくできるかな」
「やってみるのぜ」
すると盾は今よりずっと大きくなった。このフロア全体を覆うくらいの大きさだ。
「アキミ、モナミ盾に入ってきて」
アキミとモナミは待ちわびたかのように盾の中に入ってきた。
「わーー、わんちゃんですね」
「モフモフだのぜ」
モナミがビャッコウルフをなでている。ビャッコウフルも気持ちよさそうにしている。特に危険そうには見えなかった。
「サキさーーん。このビャッコウルフ家で飼っちゃだめかな。こんなに従順だよ」
「ゴールドクラスの魔物を飼うなんて聞いたことがありません。しかも犬ですよ。猫ならまだしも……」
そうか。サキさんは犬が苦手で猫派だったのか。
「サキさんお願いします。散歩は私たちがしますので、サキさんの負担にはさせません」
「そうだのぜ、サキーー、お願いだのぜーー」
サキが諦めたような表情をして言った。
「わかりました。私では判断ができませんので、家に連れて行くことは許可します。そこでおじ様の指示を仰ぎましょう」
「「「やったーー」」」「ワオーン」
サキさん以外のみんなで喜びの声を上げた。
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