第10話 『最強の矛』『最強の盾』

 現在、地下5階にいるのだが、地下への階段が見つからない。

 どうやらここが最下層のようだ。

 女将も地下5階までしかないと言っていたから正しいのだろう。

 しかし、特に珍しいものは見当たらない。


 そこも女将が言った通りだった。敵もあらかた倒してしまった。

 お昼の時間になったので、僕たちは休憩することにした。


 サキさんは、あったかい紅茶と、サンドイッチを準備してくれた。

 これが『メイドの鑑』の能力効果だろうか。

 サキさんにどうやって準備をしたのか尋ねたら、やさしく微笑み返されてしまった。

 あのメイドスカートの中には無制限の収納スペースがあるに違いない。


「本当に何もないですわね。試練ダンジョンという名前の由来は何なのでしょうか」

「ここはただのダンジョンだなーー」

「おじ様が無駄なことをさせるとは思えません。少なくてもこのダンジョンには何らかのヒントがあるはずです」


「しかし……。これだけ探しても無いとなると、どうすればいいのだろう」

「ここは魔法で探知してみましょう。伝説によれば、魔法で隠し部屋を探すことができたようです」

「魔法ですか。属性は何だろう」

 ここは土で作られたダンジョンだったので、僕は地面に手を当てて土の魔法をイメージしてみる。


 するとこのダンジョンのマップが立体的にイメージすることが出来た。そのイメージマップで、僕たちが行っていない部屋があることに気が付いた。

「マッピングレベル1を覚えました」

 久しぶりにノルンの声を聞いた気がする。しかし、その声には誰も反応しない。どうやら僕にだけノルンの声は聞こえるようだ。骨伝導か何かだろうか。


「うん。隠し部屋があるのがわかったよ。お昼が済んだら行ってみよう」

「さすが『魔法使い』ですわね」

「『魔法使い』最強なんだぜー」

「魔法は便利なものですね」

「さすがにそこまでほめられると恥ずかしいよ」

 僕は頭をかきながら言った。たぶん、耳は赤くなっているだろう。

 違う意味で恥ずかしい。『童貞』であることをほめられている気になるからだ。


 昼食後、僕たちは隠し部屋のある付近のT字路まできた。しかし、T字路の向こう側に隠し部屋があるのがわかるのだが、入り方は分からなかった。

「隠し部屋があるのは感知できるのに、入り方がわからないなんて、もどかしいな」


「『魔法使い』には、カギ等の施錠は意味をなさなかったとか。もしかすると、魔法で出入りできるのかもしれませんね」

「そうか。魔法で扉が開くのかな。どうすればいいかな」


 僕は土の魔法を使い、T字路付近の壁をくまなく調べてみた。

 1箇所だけ、土ではない、知らない金属で出来ている部分を発見した。

 その金属に触れてみたところ、ノルンの声がした。

「アンチロックレベル1を覚えました」


 ノルンよ、フライングだよ。まだ魔法を使ってないのに。

 それは置いといて、アンチロックを唱えると、土壁だった部分が、壊れてゆき、隠し部屋へ通じる道ができあがった。

「そうか。『魔法使い』専用の仕掛けか。どうりで誰も発見できないわけだ」


「そうなると、ここが試練ダンジョンと呼ばれていた頃は、『魔法使い』がいたはずですね」

「30年前の伝説の『魔法使い』かな。それよりももっと昔に『魔法使い』が沢山いたのかな」

「有名なのは30年前の『魔法使い』ですが、それよりも昔にも『魔法使い』はいたはずです」


「それはどうしてそう思うのですか?」

「30年前に現れた『魔法使い』は手際が良すぎたからです」

「え、それはどういう意味ですか」


「30年前にその男はどこからともなく現れたと言われています。自らを『魔法使い』と自称し、そして誰も知らないはずの『魔法』を使い、国を救ったと伝説に残っています。誰も知らない『魔法』を急に使えるようになったとは信じられません。だから、昔に残された本か何かを見て『魔法』を使えるようになったのでは? というのが私の推察です」

 ごめん。サキさんそれは多分間違っている。30年前の『魔法使い』も転生者だったに違いない。

 ぼくは適当にサキさんの推察には相槌を打っておいた。本当のことを話すと僕が恥ずかしい思いをするからね。


「この隠し部屋に何か手がかりがあるはずだ。気を引き締めていこう」

「わかりましたわ」

「わかったのぜーー。カオル」

「必ず見つけ出します」

 僕たち4人は隠し部屋へと進んだ。


 隠し部屋は見慣れない金属でおおわれた広い空間であった。

 中央には水晶玉が鎮座されていた。

 多分あれが能力を解放するための水晶玉ではないだろうか。

 試しに僕は水晶に触れてみた。


「ERR。あなたには、ここで解放できる能力が存在しません。条件が異なります」

 ノルンの頭の中に声が響いた。ここもノルンの管轄なのか。それにしても意味深な言い回しだな。僕にも他の能力があって、何かの条件で解放できるような意味にとれる。


「アキミ、モナミ。この水晶玉に触れて見て。多分、能力が解放されるぞ」

「能力解放ですね」

「強くなるのぜーー」


 まずはアキミが水晶玉に触れてみる。すると水晶玉が1瞬光った。

「アキミ、どうだった。能力は解放されたのか」

「はい。解放されました。こうして最強の矛を出せるようになりました。出でよ、『ヴァイエイト』」


 そう言うと、アキミの右手に光の矛が握られていた。

 どうやらこれが能力『最強の矛』らしい。

「アキミ、結構大きな矛だが、重さとかは感じるのか?」

「いいえ、重さはあまり感じません。持っていても疲れることはないと思いますわ」

「試し切りしたいと思うかもしれないが、そういう物はここには見当たらないから、残念だけれども、試し切りはまたの機会ですね」


「わかりましたわ」

 そういうとアキミは『ヴァイエイト』を消した。

 これは持ち運びにも便利な武器である。


「さて、次はモナミだな。多分、盾の名は『メリクリウス』になると思う」

「な、なんでわかるのぜ? それも『魔法使い』の力なのぜ?」

 口を滑らせてしまった。その名前はお約束なんだ。と言っても理解はできまい。


 モナミが水晶玉に触れた。そして1瞬だけ水晶玉が光った。

「モナミも能力が解放されたか」

「あい。解放されたぜ。カオルの言った通り『メリクリウス』だのぜ」


 そう言うと、モナミの右手に大きな光の盾が出現した。やはり『メリクリウス』という名前だった。

「よかったな。アキミもモナミも。これで2人でいる限り、負けないんじゃないかな。何せ最強の盾と矛だからな」

「最強ですわね」

「うおおーー。最強だのぜーー!」


 2人のステータスを確認してみる。

アキミ・マーブル

レベル:10

職業:商人

魔力:1

回復力:1

能力:最強の矛(永続)


モナミ・マーブル

レベル:10

職業:商人

魔力:1

回復力:1

能力:最強の盾(永続)


 よし、ちゃんと能力が潜在から永続に変化している。

 僕は、ほっと一息をついた。

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