第5話 メイド長サキ
アキミとモナミのお屋敷に戻り、無事ミャタさんからスーツの代金を受け取ることが出来た。
羞恥心込みの金額と思えば決して大金ではないのでは? という厚かましさも生まれていた。
今はみんなで食事をしている最中だ。
やはり多くのメイドさんが働いていて、皆忙しそうだった。
その中で指示を出しているメイドさんは、他のメイドさんに比べて若くはないが、1番きれいさんだった。
メイド長さんかな?
表情が見えないため感情は薄いように見えた。
「今日はカオル殿の『魔法使い』の話題で持ち切りでな。本物なのか、とかマーブル商会が独占しているのはおかしい。とかまあ、取るに足らない内容ばかりだったよ」
「あのーー、もしかして僕がいることにより、ご迷惑をかけないでしょうか」
「いや、そんなことはない。アキミとモナミを助けてくれたのには感謝している。その結果マーブル商会で世話をするのも何ら問題ない。珍しい服も手に入ったしな。ただ……」
あ、何か言いにくいことがあるようだ。やっぱりあるんだな。
「マーブル商会というよりは、カオル殿自身の身が心配なのじゃ。3十年以来いなくなってしまった伝説の『魔法使い』が復活したのだ。当時の事を知っている老人にとっては誰でも自分の元に置きたくなるというものじゃて。というわけでカオル殿に護衛を付けることにした。拒否権はないよ。サキこちらへ来なさい」
「はい。おじ様」
呼ばれてきたのはさっきの、感情の薄そうなメイドさんだった。
「サキ・マーブルと申します。命をかけてカオル様をお守りします。またカオル様が快適に過ごせるように身の回りのお世話をさせていただきます」
サキさんは丁寧に僕にお辞儀をした。ただし表情は固かった。
「ミャタさん、必要ないですよ」
「駄目だ。拒否権は無いと言ったはずだ。まぁ聞け。サキは万能じゃぞ。冒険者クラスはゴールド。その辺のゴロツキでは手も足も出ない。戦力としては十分じゃ。しかもメイドとしても1流で現在はメイド長兼、わしの秘書として働いてもらっておる」
「いやいや、ミャタさん。サキさんが1流なのは分かりました。しかし1流がゆえに僕1人の専属にしてはもったいないのではないでしょうか。メイドさんも困りますし、ミャタさんも秘書が抜けてしまってはまずいのでは?」
「カオル様、
サキさんが無表情なまま尋ねてきた。言っている内容と表情が1致していないのには何か事情があるのだろうか。
「そんな、不満とか、満足という話ではなくてですね、むしろ嬉しいというか。ではなくて、ミャタさん、何を考えているのですか」
「メイド長に関しては問題ない。今の副メイド長を位上げすればよいだけじゃ。儂の秘書もサキ以外もおるので問題ない。護衛に関しては、アキミとモナミも一緒に行動するから2人の護衛も兼ねておる。それにな」
と言うとミャタさんが僕の方へ向かってきた。
するとサキさんが僕とミャタさんの間に立ち、鉄針を構えたではないか。
速い。というか早い。まだ護衛も決まったわけでもないのに。
サキさんの中ではもう僕の護衛は始まっているのであった。
「サキよ。暗器を下げてくれないか。カオル殿と男の相談をしたいだけだ」
「それでしたら」
サキさんは暗器を下げてくれた。
ミャタさんが小声で話す。
「ここでは事情を話せんが、とりあえず、護衛の件は受け入れてくれ。あとで儂の部屋へ来てくれ。詳しい説明をする」
「わかりました」
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